異世界に呼ばれたのにチートはなかった。同級生と義兄弟になって逃げ出した先でがんばっていたら、真の聖女を決定する活躍していました。

南北足利

逃亡編

第1話 異世界転移

5月の連休明けの朝、クラスの半分くらいの生徒がまだ登校していない中、

友人たちと駄弁っていると、突然、景色が変わった。


「なんだ?」

教室の中にいたのに、いきなり天井が高く、大きなホールのような場所へ!

俺たちの周りをプレートアーマーの兵士たちがずらりと囲んでいる!

剣は抜いてはいないし、兵士たちも驚いていて、敵意はないようだが・・・


「どういうこと?」

俺一人だけではなく、教室にいたクラスメイトがいて少し安心した。


「みなさん、落ち着いてください。」

後ろの方から、しわがれた男の声が聞こえた。


クラスメイトと一緒に声の方へ向いてみると、

まず正面の高い壁に飾られている等身大の像が目についた。

金髪碧眼の美しい乙女像!女神だろうか?


その下、俺たちより、5段高い位置に、豪奢な椅子が2つ、

並んでいるが空席だった。

王様、女王様の席だろうか?


その右手には4つの席があるが、権威溢れる神父のような服装の3人が並んでいて、

声の主は、その王様寄りの席に座っているお爺さんだった。


「みなさま、ようこそ。ここはイリス教国です。

私は筆頭枢機卿のラーグルフです。

どうぞ、よろしく。」


やはり、異世界転移だ!


余りの出来事で、さらに武装した兵士たちに囲まれているから、

クラスメイトみんな、何も言えないし、何もできず、

ただ、老人の話を黙って聞いていた。


「みなさまは勇者として、この世界に召喚されました。

現在、3名の聖女候補がいて、3年後に、

その中から100年ぶりの真の聖女が誕生します。


女神イリスから示された12の試練を、いくつ乗り越えるかによって

真の聖女が決まります。


どうか、みなさまには、聖女候補を助けていただきたい。

そして、あちらにその聖女候補3名がおられます。」


反対側にもやはり4つの席があったが、

3名の美しく、可愛らしい少女が笑顔を浮かべて、美しい姿勢で座っていた。


みんな、豪奢なドレスを着ていて、明らかに、間違いようもなく上流階級だった。


シャルロット。フラガン王の孫で16歳。背は女子として普通くらい。

髪の毛の色はピンクで、その長く、美しい髪を縦巻ロールにしていた。

上品な笑顔を浮かべていて、メチャクチャ可愛らしかった。


オフィーリア。ドーブラ公女で18歳。

背は170センチくらいで、女神像と同じ、

長く美しいストレートの金髪、碧眼だった。

こちらは冷たく、乾いた笑顔を浮かべているが、凄く綺麗な人だった。


グレイス。オルベス公女で14歳。

身長は140センチくらいか、かなり小柄だ。

紫の長く、軽くウェーブがかかった髪、瞳の色はヘーゼルで、

興味深そうに俺たちを見ていた。

その顔は幼さを多分に残していて、まだ子どもの無邪気な可愛らしさだった。


3人の聖女候補の紹介が終わると、今度は若い女の自信たっぷりな声が響いた。

「みなさまは勇者の力を与えられている。

全員、1万人に一人と言われている二つ名が有るはずだ。

この枢機卿であり、【神眼】の二つ名を持つゼノビアが見てやろう。」


そう上から目線で宣ったのは、枢機卿の爺さんの隣に座っている若い女で、

銀色の美しく長い髪、碧と灰のオッドアイ!

そして、異様なまでに肌が白かった。


そのゼノビアの碧の目が淡く光り、クラスメイトたちを凝視した。


「うむ。さすが異世界の勇者だ。妨害が酷くてスキルは分からないな・・・

桐生英雄【千両役者】、南館大輝【鉄壁】、船見悠平【撃墜王】・・・ 」


おおっ、鑑定か!

誰一人、名乗っていないのに、ちゃんと分かっている!

それに、二つ名、かっこいいじゃないか!


ゼノビアが一人ひとり指し示しながら、淡々と、名前と二つ名のみ告げていった。


そして、最後の2人、俺(梁多三蔵)とその親友仙波九郎を見つめ、

ゼノビアはかっと目を見開いた。

どうしたんだ?


「梁多三蔵・・・、仙波九郎・・・この二人は、二つ名はないようだ。

初めてのケースだが、20名もいるとハズレもあるだろうさ。」

そういって、ゼノビアは俺と九郎を見てやれやれと首を振った。


「ちなみに、仙波は、潜在魔力はこの中でもトップクラスだが、放出量は最小だな。

つまり、魔力が多くてもすべてムダっていう事だ。

梁多は放出量もアレだが、そもそも潜在魔力が最小だ。」


ゼノビアがそう吐き捨てるように言うと、枢機卿ども、

聖女の護衛ども、周りの兵士どもが大きく笑った。


「サンキューコンビ、ウケる。」

クラスメイトの男子の誰かが呟き、笑いだすと

クラスメイトみんなも俺たち二人を嘲笑った。


友人と思っていたヤツや、兄妹とも思っていた幼なじみまで!

屈辱に震えた。

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