第2話
「ようこそ、100年に一度の選ばれし者よ」
私をこの不思議な場所に連れてきた猫がそう言った。……言った!
「猫が体の色を変えるだけじゃなくて、喋った! なんか瞬間移動? もしたし……」
絶対にこの猫は見た目だけで、本当の猫ではないはず。普通は違う場所に連れて来たり、体の色を変えたり喋ったりはしないでしょう? 見た目は毛並みの良い猫なんだけど……。
「お嬢さん、具合が悪いんだったよね? ならばここの説明をする前に、これを飲むと良い」
そう言って猫が手……肉球? を叩くと、私の目の前に綺麗なグラスに入ったピンク色をした液体がシュワシュワとしていて、何かの花びらが入った飲み物が浮かんできた。
「う、浮かんでいる……」
そう。何の支えもないのに浮かんでいるけれど、こぼれる様子は全くなさそうである。
「桃の炭酸ジュースに疲れに効く花の花弁を浮かべたよ。この花は[健やか草]というものの花で口に入るとたちまち溶けて、疲労を回復してくれるんだ。だからこうやって飲み物に浮かべたりすることが多いんだ。その方が何だかオシャレだろう?」
猫(仮)がそう言う。言われた通り何だかオシャレで写真映えしそうだなと思う。別に私は撮らないけどね? いろんな味のカラフルなバージョンがあったら良いね。
「どうしたんだお嬢さん、飲まないのかい?」
私が考え事をしていて飲まずにいたら、猫が不思議そうに聞いてきた。まあ、美味しそうだし飲んでみても良いかな? 大丈夫かなって不安も少しあるけど……。
相変わらず浮かんでいるグラスを手に取ってみる。言われた通り、桃の炭酸ジュースだろう匂いがしていて、少しだけ眺めとこうかと思っていたのに、あまりにも美味しそうな匂いだったので飲んでしまった。
一口、二口と少しずつではなく、ごくごくと飲んでしまった。暑かったから、身体が水分を欲しがっていたんだろうか? 炭酸ジュースをそんな風に飲んでしまっても、不思議とお腹がキツくはならなかった。入っていた花も言っていた通り、舌に触れたらすぐに溶けてしまった。結果的に普通以上に美味しいジュースであったと言える。
「あれ? 何だか身体が軽くなっているような気がする……」
「[健やか草]というものの花の効果だね。疲れが取れたようで良かったよ!」
確かにそういう効果があると言っていたな。こんなに直ぐに効果があるなんて! 勉強で疲れた後に、毎日でも飲みたいと思ってしまう。
「疲れが取れたようだね、お嬢さん。そろそろここについてなどを話しても良いかい?」
……そういえば、何も分かっていない状況だった事を思い出した。急に移動するし、美味しいジュースを飲んだだけだったな! 猫に言われるまで気付かなかった。それと……
「説明の前に、あなたの名前を教えて」
猫(仮)は面倒だし。名前があるんだったらそれで呼びたい。
「おお! こりゃ自己紹介をすっかり忘れていたな! 俺の名前はニコラスという。よろしく」
「よろしく。私の名前は……」
「知っているぞ! るなだろう?」
「そうそう! ……って、何であなたが知っているのよ!」
何?もしかしてニコラスってストーカーだったの? だから私の名前を知っているって?
「……るな、何か俺に失礼な事を考えていないかい?」
「別に、ニコラスが私のストーカーだったなんて……」
「違うから。分かっちゃうんだよ!」
「本当に?」
「本当だとも」
仕方ない、こんなに不思議なことが起きているんだし、信じてあげよう。
「分かった、信じてあげる。こんなに不思議なことが起きているし、ニコラスが言うならそうなんだろうね」
そうして、私はやっとニコラスから話を聞くことにしたのであった。
やっぱり、声付き的に幼い印象なのに大人らしい喋り方で、子供が一生懸命大人らしく話しているように聞こえてしまう。ニコラスには内緒だけどね!
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