押し掛けメイドー4

そうして迎えた昼休み、僕は昼ご飯を食べながらスマホで防犯カメラを調べようとした。

値段は……安いので五千円、高いので二、三万円ぐらいか。

この程度なら買えない事もないな。

どれがいいか調べ、悩みながらサンドイッチを口にする。

……あれっ? コンビニのサンドイッチってこんなに不味かったっけ?


パサパサのパンに水っぽいサラダ、ソースもしょっぱいだけで食べれた物じゃない。

……仕方ない、サンドイッチは残して別のにするか。

そう考えて食べた物も、どことなく不味いと感じられる。

折角、コンビニで買って来たのに、これじゃあな……

今までは大抵、何でも食べられる舌をしていたのに、今日になって食べられない。

自分の体調を疑ったものの、別に気分が悪いとは感じないし……

それどころか、朝のジュースを飲んだ時から体も頭もよく動く。

不思議に思いながらも、お腹が鳴ってお昼休みなのを思い出した。


……他に食べられそうなのは、この弁当しかないよな。柴庵が作ってくれたお弁当しか。

朝、ジュースを飲んだ時の事を考えると、とても食べる気にはならないけど。

それなら大学の食堂で食べようと思ったけど、周りが食べてる香りはとても食欲が湧かない。

柴庵の思い通りになってる気がしないでもないけど、それでもお腹の空きは耐えられなかった。

お弁当を開き、箸を手に取りサッサと掻き込む。

……美味しい。

認めたくはないけど、柴庵のお弁当を胃に入れるだけで幸せが広がっていく。

どうしようもなく安心感に包まれて、ホッとしてしまう自分がいた。

味だって瑞々しさも旨味もコンビニの比ではないし、何度だって食べたくなってしまう。

……青っぽいご飯と紫色に染められたお肉、藍色の葉っぱが敷き詰められたサラダって事を差し引いても。


「ご馳走様。……まぁ、味は美味しかったな。色は微妙だったけど」

「有難く受け取りますわ、優作様。食後のジュースはお召し上がりなさいますか?」

「えっ? ……うわっ!」


隣にいたのは、ジーンズと臍出しTシャツに身を包んだ柴庵。

チラッと見えたお腹と臍に、僕の視線が吸い込まれそうになった。

……いやいや、それ所じゃないから。


「突然、驚いたりして……優作様、どうかなさいました?」

「そりゃ驚くよ……いきなり目の前に現れたりしたら。それと家以外で様はやめてくれ」

「了解致しました、優作……さん」「さんもいいから。タメ口じゃないと変な感じだし」

「申し訳御座いませんが、さん付けまでは譲れませんね……で、ジュースはお召し上がりに?」

「……一口だけな」「では、失礼しますね」


僕の返事を聞いた直後、どこから持って来たのか分からないティーポットとコップを取り出した。

目の前で注がれた紫色の粘々な液体を今から飲むと考えると……やっぱり飲むのを躊躇してしまう。

でも、いきなり押し掛けて来る彼女の事だから、飲まないって断らせたりしないだろうし。

何ならコップを手に取って、僕の口に押し付けてきそうだし。

味は美味しいんだけど……何というか、飲み続けるだけで自分が変わっていく様な感覚がある。

そんな事がある筈ないのに。


「仕方ないか……じゃあ、頂きます」「よければお代わりもご用意しますわ」

「それはいい。……味は美味しいんだけどなぁ」

「味は、というと何かご不満が?」

「これ、葡萄ジュースじゃないでしょ? 味は似てるけど」

「……な、何の話か、まるで分かりませんわ」

「いや、もう誤魔化すの無理だって。弁当の料理だって色が変だったし」

「……故郷の食べ物ですので、人によっては奇妙に思えるかもしれませんね」

「故郷って、世界中どこでも肉や米、野菜の色は変わらないよ……」


出す料理は奇妙な色だし、いきなり大学まで押し寄せるし、柴庵の事は本当に分からない。

ジュースの美味しさは変わらないけど、葡萄に似ているだけの奇妙な味だし。

こんな物をいつまでも食べたままでいたら、本当に体調が悪くなってもおかしくはない。

今は非常に健康だけど、気分が良すぎて逆に気味が悪いし。

……兎に角、サッサと彼女を追い出さないと、間違いなく今後の人生に支障が出るな。


「……それはそうと、今日はどうやってここに来たんだよ」

「バスで参りました。勿論、運賃を請求したりしませんから」

「そうじゃなくて……どうやってここに来たんだよ。大学は部外者が来るなら、許可が必要だと思うけど」

「あぁ、その事ですね。ご心配には及びません、私も学生になりましたから」

「……えっ?」

「私、思ったのです。もし勇作さんが大学で困っている時、誰が助けられるのかと」

「だから自分も学生になったと、そういう訳か。……どうやって?」


その問いに、柴庵は黙って微笑みながら


「……時が来ればお教えしますわ」


と、誤魔化すだけであった。ほんと何なんだよ、お前は。

いきなり学校に現れるし、頼んでもない料理を持ってくるし……

おまけに僕を嘲笑うかの様に、へらへらと笑っている。いい加減、腹が立ってきた。

今度、また余計なお節介をしてくるなら、絶対に拒否してやろう。

そう思いながら、僕は紫庵を睨み返す。……まるで気にしてないとしても。

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