第30話 実戦!




 修行で頑張り過ぎた私とエリカは、高熱により三日ほど休む羽目になった。


 アキナや『レディーガード』の店主エンキには過労で倒れたことに呆れられたが、実りのある修行だったと思う。


 ただ、流石にこれ以上の修行はやめておく。


 だってアキナに三日間付きっきりで看病してもらい、商売の邪魔をしてしまった。ついでに体を弄ばれて着せ替え人形にされ、スクショ撮られて今度同じことがあったら商品として売り出すと脅された。エリカも一緒に。




 街から離れた、いつもの芝の平原の修行場所にて。 


「修行はここまでにして、実戦前にエリカの剣の特訓をしようと思う」

「……それで、剣の特訓って私は何をすればいいの?」

「まずは私が基本を教える。そのあと、私が攻撃を仕掛けるからエリカはひたすら攻撃を避けるか防ぐかすればいい」

「分かったわ」


 そういうわけで私はエリカに剣の基本動作や、立ち回り方について自分なりに懇切丁寧に教えた。サトも素直だったが、エリカは素直な上に飲み込みが早かった。


 軽く一時間ほど指導したが、それだけで見違えるように動きが良くなった。


「よし、それじゃあ私が攻める。エリカは私の動きをよく見て、立ち回りを覚えて」

「ええ!」


 エリカは構えた。流石に怪我したら危ないので剣は持たせていないが、隙の無い立ち方だ。


 まずは……小手調べに。


 スキルを使わずに真っ直ぐ突っ込み、手前で急制動を掛けて背後に回り込む。

 エリカはしっかりと動きに反応して回り込まれないように前に動きつつ踵を使ってくるりと反転した。


 うん、いいね!

 やっぱりセンスがある。


 今度は太陽を背にするように動いて日光で目を眩ませつつ、頭上から攻める。

 それには大きく跳び退いて躱された。

 もしここから追撃しようにも、追い掛ける時間で態勢を整えられる。

 見事だ。


 次に進む距離を出鱈目にしつつジグザグに動けば、エリカは敢えて前に進んでこちらの間合いをずらして来た。思わず大きく避けると、それに合わせて動かれ、回り込みを出来なくされた。


 やるな!


 ならばと本気になって動けば、流石のエリカも縦横無尽に動く俺を捉えきれず、私は背中を軽く叩いてやった。


「うっ!」


 スキル【体格差補正Ⅹ】の影響で、それだけで結構な衝撃を受けたエリカは前のめりになり、なんとか踏ん張って耐えた。


「レイ、ちょっと速いって!」

「いや、速くない速くない。複数のゴブリンと戦うなら極力隙を作らないように動き回って多方面からの攻撃をさせないことが重要だから」

「分かってるけど、まだ教えられて少ししか経ってないわ!」


 ムスッと口を尖らせて文句を言うけど、それが出来始めている時点で自分の異常さに気付いていない。


「……とにかく、今日はずっとこの特訓。明日ゴブリンで実戦だから頑張れ」

「頑張りますとも!」


 そうして私はエリカの特訓に付き合い続けた……。




 翌日、朝食を食べている時に私とエリカがダンジョンに行くことをアキナに伝えると「なら、これを渡しておきますね」と、インベントリから女性用の防具を出した。

 エリカの着ている防具『レディナイトアーマー』と同じだ。


「こちらは『良品』です。今着ている防具と交換ということで、お譲りしますよ」

「いいの?」

「友人に品質の悪い装備を着ていられると、私の評判に関わりますからね。ああ、私はすぐに出掛けるので、着替えたら防具は部屋に置いて行ってください。では」


 言い終わると、アキナはそそくさと席を立って離れて行った。無償に近いやり方で手を貸すのが照れ臭いのかもしれない。


 食後に部屋に戻ってエリカは防具を交換し、エンキが販売しているお弁当を買って宿を出て、図書館に寄って【キュア・パラライズ】を習得してからダンジョンへ潜った。


「それでレイ、何処でゴブリンと戦うの?」

「安全を考慮して門の近くで戦う。待っていればそのうちゴブリンが寄って来ると思うから、焚火の用意でもして待機で」

「分かったわ」


 森の中を歩き、ある程度門から離れたところで丁度良さそうな開いた空間に到着。

 そこでエリカはせっせと薪になりそうな枝葉を集め、魔法の【ファイア】で着火して焚火を完成させた。

 二人で焚火の傍に座り、エリカはお弁当とは別に所持していた携帯食料の干し肉を燻して食べ始めた。


「やっぱり、温めた方が美味しいわね、これ。レイも食べる?」

「いや、いい」


 干し肉を一枚丸々差し出さないで欲しい。どう考えても食べきれないから。

 それより、属性魔法の取捨選択はどうしようか?

 このまま全属性を持っていたら、妖精としての魔法の強さが台無しになってしまう。せめて三属性以下に絞りたい。

 ただ、ソロで動くことを前提とすると、明かりと水は必須だから光属性と水属性の二つは確定だ。残り一つとなると、火、風、土、闇のどれが必要だろうか?


 火は……攻撃以外にあんまり使い道がない。焚火の着火には使えるけど、そもそも私は何かを焼いて食べるにしても量が多過ぎになってしまう。


 風は……空を飛んでいるから相性はいいだろう。けど、補助的な使い方しかしなさそう。


 土は……まだ使ったことがない。そもそも妖精に土は必要だろうか? ……いらないな。


 闇は……ちょっと特殊で悩む。まだ目潰し程度しか使えないけど、今後新しい魔法を習得したら、いやらしいデバフ効果が増えそうな気がする。でも、殴った方が早くね?


 色々と考えた結果、私は一つの結論に達した。


 光と水の二種で充分じゃね?


 メニューから魔法の項目を開いた私は、水属性と光属性と回復魔法以外の魔法を消した。これで魔法の威力や効率が上がり、次の魔法の習得までの時間が短くなるだろう。


「エリカ、エリカは魔法の属性はどうする?」

「ん? ふぁふぁしのまひょほ?」


 何て言った?


「……口の中を空にしてから言ってくれない?」

「……私の魔法?」

「うん、前にも話したけど、このゲームの魔法は属性が増えたり魔法の数が増えると極端に弱体化するようになってる。使う属性は絞った方がいい」

「んー……そうねー……火と風にしようかしら」


 火と風か、相性はいいな。


「その心は?」

「火は便利だし、何よりカッコイイじゃない。それに風はこう……スパーンと斬れたり、空を飛べるようになるんじゃないかって」

「……そっか」


 なんか感性が子供っぽくて可愛いな。

 もっとこう、炎の竜巻とか、空気をより多く取り込ませて高火力の青い炎にするとか、科学的な発想をすると思ってた。


 私の話を聞いて、エリカは自分の魔法の属性を取捨選択した。

 それが終わって暫くすると、斥候だろう三体のゴブリンが木の間から現れた。手には麻痺毒が塗られたダガーがある。


「来たわね!」


 エリカは立ち上がって剣を構え、私も飛んで戦闘準備に入った。

 素早くゴブリンの二体が回り込んで来るところ、エリカは素早く一体に近づいてその頭に剣を振り下ろした。

 急な動きに狙われたゴブリンは対処出来ず、そのまま頭をかち割られて一撃で倒される。

 流れるようにエリカは動き、正面にいたゴブリンに剣を振るう。

 咄嗟にゴブリンは後ろへ下がるが、エリカは更に踏み込んで近づき、振り切った筈の剣を返すように振るってゴブリンを斬った。


 少し浅い!


 僅かにHPが残ったところに、エリカは蹴りを顔面に入れて吹き飛ばして倒した。

 無視されていた残り一体のゴブリンが背後から飛び掛かるが、重心を上手く使ってくるりと反転したエリカは受け流すようにゴブリンを切り払って躱し、着地を出来ずに倒れたところを突き刺して倒した。


「……やったわ! ねぇレイ見てた? 私凄く強くなってるわ!」

「……そうだね」


 たった一日教えただけでこれか……。

 私が人間だったら、その才能に嫉妬と対抗心を燃やしてだろうね。


 ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶエリカを見て、私は複雑な気持ちだった。


「とにかくエリカ、暫くはゴブリン討伐に注力する。自分が強いと分かったからって、油断や慢心はしないように!」

「分かってるわ!」


 ほんとにぃ?


 自信満々に答えたエリカはドロップ品を回収し、焚火の傍に再び座って待機した。その様子が不安で仕方がない私ではあったけれど、自分とのレベル差が埋まるまでは独りでやらせることを決めていたので、木の上に移動して周辺の警戒だけをしてやることにした。



 木の上から見張っていたが、特に強い個体などは現れたなかった。

 その間にちょくちょく来るゴブリンをエリカは倒し続けた。私の言葉をしっかりと聞いているのか油断や慢心に繋がる甘い行動はせずに戦ったことで、なんと一度もゴブリンから攻撃を受けなかった。

 ゴブリンを倒し続けたことで、エリカのレベルは20になった。

 最初からレベルが低かったこともあってすぐにレベルが上がったのだ。

 私の現在レベル21のまま。

 ここからはパーティーを組んで積極的に魔物を倒した方が、結果的に効率が良くなる頃だろう。


 というわけで、私は声を掛けた。


「エリカ、そろそろパーティーを組んで、こっちからゴブリン討伐に動こうか」

「そうね。独りで戦うのも飽きて来たしお願いするわ。それで、積極的に魔物を倒すってことだけど、ゴブリンの住処にでも行くの?」

「うん。アキナから魔物に関するデータは貰ってるから、それを確認してから行こうか」


 私はエリカにパーティー申請して承諾してもらい、組んでから一緒になってアキナが調べて纏めた魔物のデータに一通り目を通した。


 どうやらゴブリンには複数の上位種族がいるらしい。

 ホブゴブリンもそうだが、魔法を使う『ゴブリンシャーマン』やトロールに近い巨体を誇る『ゴブリンチャンプ』、統率能力に長けた『ゴブリンジェネラル』、ゴブリンを束ねる王の『ゴブリンキング』などがいる。

 しかも、まだ更なる上位種の存在が仄めかされているとか。


 それと、ゴブリンの住処には必ず罠や死角になる横穴があるらしい。もし見逃せば囲まれて一気に不利な戦いを強いられるので、慎重に行動することが重要なようだった。

 また、住処は洞穴で天井や横幅が狭い場所があり、武器選びや武器の振るい方に工夫が必要とも。


 確認中にもゴブリンの斥候に襲われたが、語ることも無い程にあっさりと二人で瞬殺し、データを全て見終えた。


「じゃあ、行こうか。【ガイド】」


 脳内で階層のマップを取得した私が先導し、最寄りのゴブリンの住処まで移動した。

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