第18話 サト




案内により、近くの小部屋にやって来た。中には錠前の無い金色の宝箱が一つ、部屋の奥にぽつんと置かれていた。


「【ファイア】」


 擬態したミミックを前提として俺が火球を飛ばすが、金色の宝箱がちょっと煤けただけで特に変化はない。


「アキナ、アレは本物の宝箱か?」

「だと思います。ですが近づくのなら注意してください。別の罠がある可能性もありますから」


 俺たちは慎重に慎重を重ねて近づき、サトが宝箱に仕掛けられた罠を警戒しつつゆっくりと開いた。

 中にはシンプルな金色の指輪が一つだけ。

 名前は『身代わりの指輪』。


「ねぇアキナ、これは?」


 おいおいマジか!?


 サトは指輪に罠がある可能性を考慮せず手に取り、聞かれたアキナは俺と同様に目を開けてギョッとした。


「……サトさん、指輪自体に罠があったり、入っている物を取った瞬間に作動する罠もありますので、聞く前に触れないでください」

「あっ、ごめん」

「次からは気を付けてください」


 命に係わることだからアキナの語気が強い。

 反省したサトからアキナは指輪を受け取り、目の前にかざすとジッと見つめた。スキルで鑑定しているのだろう。


「……なるほど。これはダンジョン内の宝箱からしか手に入らないレアな消耗品みたいですね。着けている者に対し、一度だけHPがゼロになる攻撃を身代わりになってくれるようです。ただし、継続ダメージや連続攻撃は効果対象外で、一人一つのみ装備可能、着けている物が壊れたら一日時間を置かないと再度着けられないようです」


 凄いな。デスゲームになったADOだと必需品レベルだ。


「凄いね。それ、どれくらいで売れる?」


 サトの質問に「そうですね……」とアキナは前置きしてから少し考え、答えた。


「今はまだ供給が全く無く、けれど金銭的余裕のあるプレイヤーも少ない。だから二十万マニー前後で売るのが、売り手も買い手も納得する値段でしょう」

「消耗品に二十万……命をお金で買えると考えたら、安いんだろうね」

「ええ、安いですよ。それにこういう物は適度な値段で売りつけないと、恨みを買いますからね」


 アキナの言わんとしていることはよく分かる。ゲームでも現実でも、戦争や大災害等で必需品の値段を法外に吊り上げたり独占したりすると恨まれる。最悪の場合は殺してでも奪い取る、という思考に相手をさせてしまう。


「というわけでサトさん、依頼の間、これをお貸しします」

「えっ!」


 えっ!

 何が、というわけなんだ?


「何で?」


 ほら、サトも意味が分からないって顔してる。


「理由は簡単です。サトさんは見ていて危なかったかしくて不安になるんですよ。それに友人として死んでほしくないですし、私が安心する為に着けてください。いや、むしろ命令します。着けろ」

「あっはい!」


 微笑を浮かべたまま威圧感を出したアキナに、サトは背筋を伸ばして指輪を受け取ると、早速左手の薬指に着けた。


「おい、なんで左手の薬指なんだ!?」


 二人の話だから黙っていたのに、思わず口からツッコミが出てしまった。


「……なんとなく?」

「……」


 なんとなくで選ぶ場所じゃないだろ。

 それともわざとか?


 呆れて問い質す気も起きない。アキナも驚きのあまり目がばっちり開いて真顔で固まってしまっている。

 仕方ないので、俺はアキナの頬を軽くペチペチと叩いてやった。


「――はっ! すいませんちょっと呆然としてました」

「いやいいよ、サトが悪い」

「そうですね。まぁ別にいいですけど」


 良かった、アキナの好感度が足りてる。


 いつもの微笑に戻ったアキナを見てほっと胸を撫で下ろし、精神的にちょっと疲れたので飛ぶのを止めて床に座り込んだ。

 そんな俺を見たアキナも同じだったのか、バックパックを下ろしながら言った。


「少し休憩しましょうか。ついでにサンドワームの肝も、ここで食べてしまいましょう」


 というわけで、アキナによるクッキングが始まった。


 焚火セットやら調理台やらを用意し、サンドワームの肝を一口大に切って水で煮て灰汁を取る。その間に幾つかの野菜とサンドワームの肉を刻み、大鍋に水と一緒にそれらを入れて塩と胡椒を振り掛け、香り付けに薬草を少量刻んで入れ、最後に灰汁を取った肝を移し替えて煮込む。


 煮込んでいる間、俺は筋トレをし、サトは通路に立って誰か来ないか見張りながら素振りをして過ごした。

 いい香りが漂って食べ頃となり、アキナに呼ばれた俺たちは席に着いて手を合わせた。


「では、いただきます」

「いただきます」

「いただきます」


 まずはメインの肝から……ナニコレ美味うまっ!

 程よい苦味の中に濃厚なコクと旨味がある。


「美味しいな」

「うん、凄く美味しいよ!」

「そうですか。思ったより上手く出来て何よりです」


 感想を口にすれば、サトも同様に言ってアキナは胡散臭さのない嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 でも惜しい……せめて出汁醤油や味噌を鍋の汁として使えたら、この上なく美味しい鍋になったのに。

 それに、妖精の小さな体だと沢山食べられない!


 勿論そんなことを言って場の空気を悪くしたくないので、黙って食べる。食べられる量が少ないからこそ、ゆっくりと良く味わう。二人も食べることに集中して静かな食事となるが、この雰囲気が俺は好きだ。




 全員が満腹となり、食事が終わる。

 流石に人間二人と妖精一人では食べきれず、余った鍋は次回の食事に回すとしてアキナがインベントリに仕舞った。それから二人は後片付けに入り、妖精で手伝えることがない俺は通路で見張りをした。

 片付けが終わると腹休めの休憩として三人で焚火を囲い、アキナが口を開いた。


「もうすぐ次の街に到着するでしょうが、お二人は今後どう動きますか? 私は一日街に滞在した後、次の階層を細かく探索して素材収集をしようと考えていますが」

「私は特に考えていない。サトは?」

「僕は……一度『ADO攻略組』に接触してみようかと思う」


 ほう、探さないと言っていたのに姉を探すつもりか?


 アキナも意外だったらしく、薄く目が開いていた。


「僕もセキレイも無事にここまで来られたけど、この罠だらけの階層に来て思ったんだ。これからはどうなるか分からないって。だから一度最前線で戦う人たちを直接見て、どれくらいの実力で、どういう思考で動いているのか確かめたいんだ」

「いい考えですね。強くなるうえで比較対象は必要ですし、彼らのやり方は生き残るうえで参考になるでしょう。そういうことならお付き合いしますよ。色々と商品を買ってくれそうですしね」

「私も付き合う。攻略組がどういう人たちなのか興味がある」


 もし、本気でゲームから現実への帰還を望むいい人たちの集団だったら、手を貸すのもやぶさかではない。物理でも戦える妖精は囮や回避盾、閉所の探索で需要がある筈だ。多分。

 でも、攻略組に合流したらサトとはお別れになってしまう。それは少し……寂しいと思うし、サトが死なないか不安だ。


 ただそれは会ってからの話で、今は考えないようにした。




 ――ドスン!




 ドスン?


 通路の方から重い音が聞こえ、振り向くと通路への出入り口があった筈の場所が砂色の石壁によって塞がれ、無くなっていた。


 っ、罠だった!?


「油断しました……どうやらここは長時間滞在することで発生する、時限式のモンスターハウスだったみたいです!」


 状況を瞬時に理解していたアキナは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。


「来るよ!」


 サトが剣を抜いて構えながら呼び掛けると同時、俺たちを囲むように次々と魔物が出現した。この階層では出現しないだろうアンデッドの魔物だ。



 骨の体で動く魔物――スケルトン。


 骨の体にボロボロの剣と盾を持ち、簡素な胴鎧を装備した兵士――スケルトンソルジャー。


 骨の体にボロボロの杖を持ち、ボロ布になり掛けのローブを羽織った魔法使い――スケルトンソーサラー。


 その数、十数体。

 不幸中の幸いか、遠距離攻撃をして来るだろうスケルトンソーサラーは三体と少ない。


 骨ばっかり……これは骨が折れるな。


 駄洒落を内心で呟きはしたが、状況は洒落にならない。下手をしなくても本気でやらないと死が見えている。


 まず狙うは厄介な魔法使いだ。

 持ってくれよ、俺のスタミナとMP!


「【フェアリーダンス】! 【ヒーローキック】!」


 魔力を纏って移動速度を上げ、早速俺は近くのスケルトンソルジャーの眉間に魔力を纏った強烈な飛び蹴りをお見舞いした。

 それによってスケルトンソルジャーの頭は簡単に砕け、HPゲージが一瞬で無くなって消滅した。ドロップ品は出ていない。


 こいつら、物理的な衝撃に脆い?

 なら行けるか?


 そう思ったが、視界の隅に追加で出現するスケルトンソルジャーが見えた。


 ……前言撤回。数が減らないのはマズイ。


 小さくて飛べる俺は高い位置に逃げれば何度でも態勢を立て直せるが、サトとアキナはそうはいかない。


「【ヒーローキック】! 【コメットパンチ】!」


 連続してスキルを使って一撃でスケルトンソルジャーを倒しつつ、スケルトンの間を魔力の粒子を撒き散らしながら縫うように移動、後方で魔法のチャージを始めているスケルトンソーサラー三体の前まで来た。

 こいつらはどうやら頭の方は悪いようで、連携するつもりもないだろうに密着する距離で横並びになっていた。


「【ヒーローキック】!」


 俺は素早く横に回り込むと、射線が重なったところで飛び蹴りを繰り出して三体の頭を砕き、三枚貫きを成功させた。

 テテテテン♪ と脳内でレベルアップの音が響く。


 五月蝿い。


「次!」


 レベルアップを喜んでいる暇はない。すぐにスケルトンソーサラーが近い場所で出現した。三体の距離も近いが、立ち位置がバラバラだ。


「【コメットパンチ】!」


 一体!


「【ヒーローキック】!」


 二体!


「【コメットパンチ】!」


 三体!


「よし次!」


 今度は反対方向に出現。しかも三体とも離れている。


「【フェアリーダンス】!」


 効果時間が切れた直後、俺は再びスキルを掛け直して魔力を纏いながら真っ直ぐに飛ぶ。俺に狙いを定めたスケルトンとスケルトンソルジャーの攻撃を減速せずにするりと躱し、横を抜ける。

 スケルトンソーサラーは魔法のチャージを始めていたが、俺を狙っていた。

 俺とサトとアキナの立ち位置をチラリと確認し、巻き込まないことが分かると俺は真っ直ぐに突っ込んだ。

 魔法のチャージが終わって杖の先端から火球が放たれる。それはミサイルのようにホーミングしながら飛んで来ており、ギリギリまで引き付けた俺は走ってジャンプしたような機動を空中で行い、火球の上を飛び越えた。

 そのままスケルトンソーサラーの顔面目掛けて蹴りの姿勢を取る。


「【ヒーローキック】! 【ヒーローキック】! 【ヒーローキック】!」


 流れるように三体を倒した。

 連続でスキルを使っているからどんどんとMPが減っている。妖精の異常なMP自動回復でも追いついていない。それに高機動を維持しているからスタミナの消耗が思ったより激しい。


 まだ出るか?


 再出現まで数秒の猶予がある。息を入れつつ辺りを確認すれば、サトとアキナは囲まれたままだがスケルトンやスケルトンソルジャーの数が減っていて、再出現していないようだった。


「打ち止めか……」


 安心するが、まだ全部倒せていないので気を引き締めて二人の元へ向かう。二人とも多少攻撃を食らったのかHPが少し減っており、体に幾つか切り傷が見えた。

 ただ、数が減ればその分楽になるので後は消化試合だ。

 だから俺は試しにスキルを使わず、スケルトンの後頭部を殴ってみた。


 ……痛い。


 ゴッと鈍い音がしてスケルトンのHPが少し減った。レベルが上がって徐々に強くなっているのは実感出来たが、まだまだ鍛える必要があるみたいだ。


「【ヒーローキック】【ヒーローキック】【ヒーローキック】」


 雑にスキルを使って魔力を纏った飛び蹴りを連発。残っているスケルトンやスケルトンソルジャーを倒し、モンスターハウスの魔物を全滅させることに成功した。


「……ふぅ。何とかなりましたね」

「死ぬかと思ったよ」

「お疲れ」


 本当、よく生きてたよ。誰一人死ぬことなく、それどころか多少の怪我だけで済んでいるのはある意味奇跡だ。


 戦いが終わって気を抜いた俺たちの前に、メッセージが表示された。


『魔物再出現まで、あと56秒』


「なっ!?」

「そんな……!」

「続くの!?」


 モンスターハウスでウェーブ形式とか、ふざけんなクソがっ!


 ウェーブ。英語でWave――意味は「波」であり、ゲーム用語としては一度に大量の敵が時間を開けて何度も襲い掛かって来る形式のこと。主にタワーディフェンス系の戦闘で用いられる。


「仕方ありません。やるだけやりましょう」

「やるしかないか」

「うん。ん? ねぇ二人とも、アレって出口じゃないかな?」


 アキナと俺が覚悟を決めたところで、サトが指さした先、部屋の隅に魔法陣が床に出現していた。


「恐らく転送陣です。すぐに脱出しましょう!」

「ああ!」

「だね!」


 わざわざ魔物に囲まれた状況で戦い続けるメリットなんて無い。

 アキナは急いで壊れていない椅子をインベントリに仕舞い、無事だったバックパックを背負った。

 それから三人で一緒に転送陣に入ると、再びメッセージが表示された。


『この転送陣は一度限り一人用です。人数超過の為に起動出来ません。また、魔物再出現の際に消失します』


「クソがっ!!」


 友情破壊を促すような製作者の性格の悪さに反吐が出た俺はメッセージを即座に消し、転送陣から出た。

 自分が三人の中で最も生存する可能性が高いと思ったからだ。

 残るは二人のうち一人だが、サトが黙って転送陣から出て振り返ると言った。


「アキナ、後で会おう」

「サトさん……よろしいのですか?」

「護衛依頼の最中だしね。それに魔法使いのアキナより、剣で戦う僕の方が生き残れる可能性は高い。指輪もあるしね♪」


 と、笑顔で左手薬指の『身代わりの指輪』を見せつけた。


「……分かりました。ご武運を!」


 アキナは迷いが生じる前に、メッセージのボタンを勢いよく押して転送陣を起動した。転送陣は強く光り、アキナはまるで瞬間移動するかのように消えた。

 役目を果たした転送陣は光を失うと、跡形もなく消えた。


「……行ったね」

「ああ」

「それじゃあ、生き残ろうか」

「ああ、死ぬなよ」

「そっちこそ」


 丁度、カウントダウンを続けていたメッセージの時間がゼロになった。

 メッセージが消えると再び魔物が次々と出現し始めた。



 複数体のスケルトンソルジャー。


 複数体のスケルトンソーサラー。


 新種が二種。


 一方は人の背丈の二倍はある巨大な人型の動く骨――トロールスケルトン。

 数は一体。


 もう一方は小人のような人型の動く骨――ゴブリンスケルトン。手にはボロボロのナイフがある。

 数はスケルトンソルジャーより少ない。


 ……ウェーブ形式だと、そりゃあ前より数も強さも増すわな。

 ほんと、殺意しか感じない罠だ。


 怒りを通り越して呆れてしまう。

 隅にいたせいで扇状に陣取られて逃げ場が空中しかなく、俺はともかくサトは絶体絶命のピンチだ。


「サト、私が活路を開く。なんとか抜け出して態勢を整えるぞ」

「分かった」

「【フェアリーダンス】! 【ヒーローキック】! 【ヒーローキック】! 【ヒーローキック】! 【ヒーローキック】!」


 魔力を纏って移動速度を強化、続けてスキルを連続使用して次々とスケルトンソルジャーの頭部を砕いて進んでいく。

 だが、ゴブリンスケルトンは背が低い為に倒している余裕は無い。

 テテテテン♪ と空気を読まずに脳内でレベルアップの音が響く。


 後で設定弄って音を消してやる!


 心の中で吐き捨てつつ、正面に捉えるはトロールスケルトン。巨大なことで骨密度も高い。


 砕けるか……?

 いや砕かなくてもやるんだ!!


 それでも外側の硬そうな部分は避け、トロールスケルトンの叩きつけを躱して胴体の内側に入った俺は、真上にある頭蓋骨に向かって蹴りの構えを取った。


「【ヒーローキック】!!」


 気合を込めた渾身の蹴りにより、内側から真上に向けて強い衝撃を加えられた頭部はスポーンと勢いよく飛んだ。

 頭部が離れたことで一応死亡判定扱いとなり、トロールスケルトンのHPが一瞬で無くなって消滅を始めた。

 ピコン♪ と空気を読まずに脳内で音が響き、目の前に小さなメッセージが表示された。


 スキル【ジャイアントキリング】を習得しました。


 ええい鬱陶しい!


 素早くメッセージを消し、突き進む。

 トロールスケルトンを倒したことで隙間が生じ、前に出られずにいた奴らが見えた。ゴブリンスケルトン三体。


「【ヒーローキック】! 【ヒーローキック】! 【ヒーローキック】!」


 即座に蹴って倒し、後方の離れた位置に見えるは一塊に集まっているスケルトンソーサラー。魔法のチャージを終えて今まさに発動させようとしていた。


「サト、避けろ!」


 叫びつつ、俺は一刻も早く倒すべく止まらず進む。

 複数の火球が飛んで俺に当たらんと迫って来る。それらを被弾することなく全て躱して抜け出した。

 背後で火球が爆ぜる音が聞こえる。



 ――パリン。




 今、何か嫌な音が……。


 火球の音に混じって、何かが割れる音が聞こえた。

 だが、それを確認している暇はない。目の前で次の魔法のチャージを始めたゾンビソーサラーを殲滅するべく、拳を構えた。


「【コメットパンチ】! 【コメットパンチ】! 【コメットパンチ】!

 【コメットパンチ】!」


 出来るだけ射線を重ねて複数同時撃破をし、スケルトンソーサラーの殲滅が完了した。


「サト、無事か!? あっ!」


 態勢を整える準備が完了して振り返ってみれば、サトがスケルトンソルジャーやゴブリンスケルトンから何とか抜け出していた。

 だが、いつの間にか右腕は肘から上の部分から無くなって血が流れていた。胴体や手足、頭からも血を流している。さらに煤に塗れ、防具が一部焼け焦げている。戦闘に夢中で見えていなかったパーティー編成中のサトのHPは、既に一ミリ程度しか残っていなかった。

 しかも、右腕を抑えている左手の薬指には『身代わりの指輪』が無くなっていた。

 気力だけで立っていると思われるサトは、力無く微笑んだ。


 「……ごめん」


 たった一言の謝罪。

 直後にスケルトンソルジャーやゴブリンスケルトンが襲い掛かり、サトは串刺し、滅多刺しにされ、HPが無くなるとパーティー編成から外されて光の粒子となって消滅した。


「サトおおおおおおおお!」


 死んだ。

 サトが死んだ……。


 スケルトンソルジャーとゴブリンスケルトンの標的が俺に移り、高度を上げて空に逃げる。


 ………今は、悲しんでいる暇はない。

 生きてアキナに伝えるんだ!


 ショックで動揺し、胸が苦しく呼吸も脈も乱れているのを深呼吸して強引に抑え、震える手で拳を構えた俺は敵の集団に立ち向かった。




 残り少ないMPでスキルを上手く使い、ヒット&アウェイで殴って蹴って繰り返し……繰り返し……どれくらいの時間が経ったか分からないが、俺は第二波を突破した。

 転送陣が再び出現し、次のウェーブに入る前に転送陣の中に入り、メッセージにある起動ボタンを押した。


「……さよなら」


 小さく別れを告げ、俺はモンスターハウスから抜け出した。


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