第14話 進め、勇者パーティー!


『私も仲間に入れて下さい!!』と殆ど土下座せんばかりの勢いで頼み込むアリスに折れ――まあ、本当にアリスに土下座なんかされた日にはエリオの怒りが如何ほどかという恐怖もあったりしたのだが、ともかくアリスとも『アリス』『アリスさん』、『ロナちゃん』『ユメリアちゃん』と呼ぶようになったのはそれから数十分後のこと。


「それで? まずは何処から行く?」


 いそいそと紅茶を淹れるアリスに『ありがとう』と頭を下げそれを受け取ったロナは、それを口に含みながら視線をサーシャに向ける。もう何度目かになるが、流石にアリスに紅茶を――なんて思っていたが、サーシャが普通に『私、ミルクと砂糖ね』みたいな感じで普通に頼むのでこっちも緊張するのが馬鹿らしくなってきたのだ。


「最初に行くのは此処かな~」


 ロナの言葉に、サーシャが懐から一枚の地図を取り出して机の上に広げて見せる。


「知ってると思うけど、『魔王』が発生するとその余波で幾つか『魔王領』が生まれるよね?」


「ああ、知ってる。魔王はこの魔王領を通過して、その魔王領を通過することによって勢力を拡大していくんだよな?」


 魔王という存在についてはアレックス大陸ではあまりよく分かってはいない、というと語弊があるが、実際問題魔王の発生原因についてはあまり知られていないのは前述した。まあ、正直なところ発生する魔王自体はどうしようもないし、発生した所で避難さえしておけば人的な被害は殆ど無いからだ。


「ま、そういう事だね。んで、魔王の進路に合わせて四か所の『魔王領』が生まれた。サルバドール王国は一応、四天王って呼称にしたらしいけど……ま、それはどっちでも良いよ。その内の此処、アンキナ四天王領を叩く」


 サーシャが地図の一点をトントンと指す。アンナの酒場のある王都からは馬車で一週間ほどの距離があるそこにロナとユメリアが目を見合わせる。


「……アンキナって言えば、北部の穀倉地帯だよな? なんで此処にするんだ?」


「そうですよ、サーシャさん? なんでアンキナなんですか? 魔王の進路見る限り、アンキナは一番最後じゃないですか~?」


 首を捻るロナとユメリアに、サーシャが小さくため息を吐く。


「理由は幾つかあるけど……まず一つは、アンキナで発生した魔王領が、他の三つの四天王領に比べて小さいってこと。例えば南部に出来たハドナ四天王領とかは他の魔王領に比べて強力だよ。パーティー組んだばっかの私たちがいきなりそんなハードモードは厳しくない?」


 同じ中ボス戦といっても物語序盤の中ボスと終盤の中ボスでは実力差はダンチだ。


「単純に距離が近いのもあるしね。馬車で一週間くらいだし、直ぐにとは言わないまでも到着するには他の魔王領に比べて近いし……多分、順当にいけば此処が最後の魔王の通過点になるんじゃないかな?」


 そう言ってサーシャがアンキナから指を離し、そこから少し南部にあるミナーという街を指す。


「アンキナで四天王を倒したら、そのまま南下してミナー四天王を叩く。そのまま南下して、北進して来た魔王を……そうだね、セキガ平原辺りで迎え撃つのが私のプラン」


 四つの魔王領のうち、四天王領二つを叩いた後に進路の中間地点で魔王を倒す。そんなプランに、ロナが首を捻る。


「……まあ、分かったかな? アレだろ? 魔王の進路と逆回りしながら、双方二つずつ潰した段階で最終決戦をする、と……そんな感じ?」


「そそ。天下分け目のセキガ平原ってね」


 くるくると右手の人差し指を回して見せるサーシャ。そんなサーシャに、ユメリアが小さく手を挙げる。


「あ、あの……でもそれって良いんですか?」


「なにが?」


 ユメリアの言葉にサーシャは首を捻る。そんなサーシャに、ユメリアは言葉を継いだ。


「魔王の進路を考える以上、早めに魔王を倒すべきじゃないですか~? いや、勝てるかどうかはともかく……ハドナ周辺の村や町に被害も出ますし~……」


 継いだユメリアの口から出た言葉に思わずサーシャがポカンと口を開ける。何か間違えた事を言っただろうか、と不安になるユメリアに、サーシャが苦笑を浮かべて手をひらひらさせて見せる。


「あー……ごめん、変な顔して。冒険者――っていうと失礼かもだけど、冒険者の人からそんな言葉が出るとは思わなかったからさ? ユメリア、ちゃんと『勇者』パーティーだね?」


「……茶化さないでくださいよ~。国民が居てこその国家ですよ~?」


「……だね。ごめんごめん。でもさ? それって『勇者』の仕事じゃないよ? 国民を、民を、一般市民を……まあ、なんでもいいけど、それを守るのは私たちの仕事じゃないからさ?」


「……魔王を倒すのに?」


「そ。魔王を倒すのが私達の仕事であって、国民の生活の心配をするのは私達の仕事じゃない。その辺は為政者のミナサマに頑張って貰いましょ? まあ、結果論として魔王を倒せば民の平和は守られるだろうけど、それはあくまで副次的な結果であって目的じゃないからさ?」


「……ですが」


「それに、これは王国政府――というか、エリオ兄からの要望でもあるし」


「要望? それは……ああ、あれか? いきなりアリスを危険な戦場に向かわせるな的な感じか?」


 ポンと手を打つロナに、サーシャは首を振る。


「ま、それもあるだろうけど……それだけじゃないよ、多分」


 横に。


「……最近、景気も悪いしね~。魔王の発生は確かに大事件だけど……ま、避難しておけば命の心配は無いしね?」


「それって……?」


 首を捻るロナと、何かに気付いたかの様なユメリア。その姿にサーシャはニヤリと笑って。




「災害復興ってお金、動くしさ?」




 魔王の発生により、甚大な被害は受ける。受けるが、それはあくまでその場から『動けないモノ』、つまり建造物や食物などに限定されるのだ。人間は逃げる事が出来る以上、魔王は無人の荒野をひた進むだけである。その後の荒れ地は、再び人が住むための整備が必要になり。



「命の修理はお金で出来ないけど、建物はお金で修理が出来るしね~」



――そこに、莫大なお金が落ちるのだ。


「街を再建するには人がいる。その人達に食べ物を作る人がいる。食べ物を作る人に、野菜やお肉を売る人もいる。建築資材だっているし、食べ物だけ食べてたら満足じゃないよね? お酒だって、娯楽だっている。もしかしたら魔王の被害の前よりも発展するかもよ、ハドナ周辺」


 俗にいう、震災特需や震災景気と呼ばれるものである。


「その考えは……間違ってますよ~」


 ユメリアの非難するような言葉に、サーシャは肩を竦めて見せる。


「ま、その辺は私も思う所が無いとは言わないけど……実際問題、これくらいしか方法が無いし……」


 大きくため息を吐いて。



「……ま、エリオ兄の方針だし? あの人に逆らうなんて、女神アレクシア様に逆らうより怖いしね~。多分、悪魔と喧嘩しても勝つよ、あの人?」





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