第13話 勇者パーティー、結成!!


「本当に……本当にすみません、お兄様が……」


 アンナの酒場にて、深々と頭を下げる少女がいた。だれあろう、本日の主役であるアリス・ワンダーランドである。そんなアリスの姿に、怯える様に抱き合うロナとユメリアを見てサーシャが呆れた様にため息を吐く。エリオ? 『お兄様、いい加減にしてください!! そんなお兄様、大っ嫌いです!!』とアリスに言われて肩を落として帰ったけど?


「アリス様――ああ、もういいや。アリス? そろそろやめてあげなよ? 今のそれ、殆ど追い打ちかけてるようなもんだよ?」


「さ、サーシャちゃ――サーシャ様! お、追い打ちなんてそんな――」


「はい、アリスもサーシャ様って言うの禁止。ええっと……ロナとユメリア、だっけ?」


 視線をアリスから切ったサーシャ。その視線にロナとユメリアがガクガクと頷いて見せる。え? そりゃ勿論、サーシャの言葉にビビりまくってるからだ。だって、考えても見て欲しい。さっき、地獄の一丁目かのくらいで鬼ヅメされていたエリオの義妹であるアリスに対して、あんな喋り方なのだ。怖いに決まってる。


「……ああ、アリスと私は幼馴染だからさ? 安心して? 私だってエリオ兄の事は充分怖いから。正直、この国でエリオ兄を本当の意味で恐れて無いのはアリスくらいだし」


「さ、サーシャさ――サーシャちゃん! お兄様は怖くないですよ!!」


「あんだけ愛されているアンタだからだよ、それは。国王陛下だって怖いと思ってるよ、エリオ兄のこと」


『そ、そんなことありません!』と騒ぐアリスを華麗にスルーすると、サーシャはロナとユメリアに右手を差し出した。


「……年齢も似た様のモノだし、タメ口で良いっしょ? 私もロナとユメリアって呼ぶし、二人も私の事はサーシャって呼んでくれたら嬉しいかな?」


 ニパっと笑ってそう言うサーシャ。その姿に、おずおずとユメリアが口を開いた。


「そ、その……よ、よろしいのですか~? サーシャ様って……サーシャ・リングバード様ですよね? アレクシア聖教サルバドール大聖堂の『巫女』を務めておられる……あの、サーシャ様ですよね?」


「あら? 私もそんなに有名? 界隈じゃ多少は知れた名だけど、流石に冒険者の間では有名でも無いと思ってたんだけど……」


「……私は敬虔なアレクシア聖教徒ですので」


 曖昧に笑ってそういうユメリア。そんなユメリアに、ロナが首を捻る。


「ええっと、ユメリア? その……サーシャ……様は、そんなに凄い人なのか?」


「凄い人だよ。サルバドールにおけるアレクシア聖教徒の中では……そうだね、四番目に偉い人かな~」


「よっ――!」


 ロナ、絶句。その後、慌てた様にサーシャに腰を折った。


「す、すみません! 知らないとは言えとんだ――」


「失礼なことなんか何にもされてないからオッケー。それに……ユメリア、ちょっと違うよ? 確かに私は大聖堂での『役職』としての序列は三番目だし、上には聖女様、聖巫女様の三人がいるから、確かに四番目かも知れないけど……同率の『四位』が沢山いるし、その中じゃペーペーだからね。先任権は他の諸先輩方だしね~」


 そう。サーシャは確かに優秀だし、期待の新星ではある。あるがしかし、まだまだ十代の小娘なのだ。聖女、聖巫女に次ぐ位階にはいるも、巫女階級だって十人ちょっといるし、そもそもゴボウ抜きで役職だけ上がっただけなので、そもそもサーシャが育った街の小さな教会の教会長にだって、『まったく! 巫女になったのに貴方は……』とお小言言われている始末だ。


「……本当に、残念な事に」


 そして、言ってみれば『まあ、優秀だけどまだまだペーペーだし』という理由でサーシャはアリスの旅の同行が許可されたのである。要は、大聖堂的には今のサーシャは居ても居なくても教会実務に関係ないのだ。これがもうちょっと経験を積んで、大聖堂に無くては成らない存在なら、イケニエになっていなかったはずなのに……と、サーシャがあの日の夜に血涙を流したのは大聖堂で見守る女神アレクシア様だけである。


「……ま、それは良いよ。ともかく、これから少なくない時間を一緒に旅するんだし? 肩書とか堅苦しいの抜きで仲良くしましょ? って提案」


 どうかな? と問うサーシャにあっけに取られるロナ。が、それも一瞬。苦笑を浮かべてサーシャの右手に自身の右手を差し出す。


「……ロナ・テイラーだ。下級剣士だが、そこそこ腕は立つ方だと思っている。これからよろしく……『サーシャ』」


「こちらこそよろしくね、『ロナ』。ああ、年はロナの方が上だろうから、ロナさんのが良い?」


「いや、構わない。それこそ背中を預けて戦う『仲間』だからな。敬語も敬称も不要だ」


「ふふふ! それじゃ、よろしくね? えっと……ユメリアはどうかな?」


「……そうですね。一緒に戦う『仲間』ですものね。それが仕組まれたものでも、運命ですよね~、サーシャさん?」


「そうだよ。本当に、あの『腹黒』に仕組まれた運命だけど……一緒に頑張って、強く生きましょう、ユメリア」


「はい!!」


 ロナと手をほどき、ユメリアと固く握手を交わすサーシャ。これから仲間として、背中を預けていく二人との絆に――




「あ、あの!! 私もぜひ、『アリス』と呼んでください!! ロナちゃん、ユメリアちゃん!!」





「「うん、それはちょっと厳しい」」



「な、なんでですか!! 私だけ仲間外れは寂しいです!! ねえ、サーシャちゃん! 私も仲間ですよね! 冒険を共に戦うパーティーの一員ですよね!?」


 ガクガクとサーシャの肩を前後にゆするアリスに、ロナとユメリアは思う。



 ――流石にこの子呼び捨てで呼んだら、あのお兄ちゃんに何されるかわかんない、と。


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