第4話 2曲目は何にする?難航する曲選び
●2曲目は何にする?難航する曲選び
●授業後に - GWの予定は?
授業が無事に終わり、プール前に4人は集合した。季節は4月後半、爽やかな風が頬を撫でていた。
「なんとしても、ゴールデンウィーク前までに曲決めて、ゴールデンウィークには、多めにスタジオ練習入れようよ。」
僕が力説するが、みんなはバンド以外にもやりたいことがあるようだ。
リョウコが答える。
「そうしたいのは山々なんだけさ、ゴールデンウィークはバイトしようと思って。スタジオ代とかも意外とかかるからさ、この休みの間は、バイトしてお小遣い稼ぎたいんだよねー。」
「僕は家族でおじいちゃん家に行くことになっているから、休みは豊橋に居ないよ。」
ショウもゴールデンウィークは無理らしい。
仕方が無い。みんなでスタジオ練習たくさんしたかったけど、ゴールデンウィーク後にするか。
そして、一度、話題を変えることにした。
「それで曲なんだけどさ、2曲目どうする?古典の時間に熟考していたんだけど、2曲目はかなり重要だと思うからさ、バンドの大事な方向性を決めることになるよ。」
僕が言うと、リョウコが吹き出した。
「あはは、あの声裏返った時に考えてたの?ヤバイね。めっちゃ面白かったよ。」
ショウも乗っかる。
「名前呼ばれて、思いっきり声裏返ってたな。バカっぽかったぞ。」
ポンタは、その場面を想像して爆笑していた。
「ケイタ、授業真面目に聞いてなかったんだー。笑える。」
●気を取り直して考えよう
「もう、その時の話は良いから!それより、このノート見て。僕らの2曲目に相応しいものを、と思って。昼休みに出た候補を最大限考慮して、バンドの運営戦略的な方面を考えて選んでみたんだ。」
と、僕は言って、古典のノートを開いた。どうだ。参ったか!
「おー、確かに、分かりやすくまとまってるね。」
「しかし、授業全く聞いてない感じだな。古典の成績は大丈夫なのか?」
僕はそんな意見を聞き流して、みんなに多数決を取ることを提案した。
とは言え、それぞれのメンバーが、それぞれ自分の出した曲に手を挙げていた。
これでは、ぜんぜん決まらない。
●バンド名も考えて
そんな混迷を極めた曲決めの最中、ショウが突然、新たな議題を持ち出してきた。
「ところでさ、このバンド、なんて名前にするんだ?」
なんてことだ。ショウ、僕は、敢えてその話題を避けてきたんだ。今は曲決めの最中なんだ。バンド名は曲決めの後で考えるべきだ。
今、この場で、そんな発言をしたら、決まるものも決まらなくなってしまう。しかし、リョウコの明るい声がする。
「バンド名ってめちゃくちゃ重要だよね?」
リョウコも議題を変えることに賛成らしい。
「バンド名決まれば、自然と2曲目も決まってくるよね?」
なんと、ポンタも曲決めは後回しにしたいらしい。
「いいよいいよ、みんながそう言うなら、先にバンド名を決めようか。」
僕は渋々、議題を変えることに同意した。僕らは大量のバンド名を紙に書き出すことになった。どのバンド名も意味不明だ。
そして、結果は予想通りだ。
いろいろな案が出たものの、コレと言った決定打にはならず、日が暮れてきたので、その日は何も決まらず、解散となったのだった。
ただし、議題を曲決めに戻して、「明日、自分が聞きたい曲のカセットテープを持ってくる」という宿題を課すことにした。
そうしないと、いつまでも2曲目が決まらないからね。そして、曲が決まらないと練習始められないからね。
●次の日の昼休み
僕らはまたプール前に集まっていた。今日も天気が良い。
こっそり学校に持ち込んだ小さ目のラジカセを目の前に、メンバーが持ってきたカセットテープを1曲ずつ再生しようとしていた。
プール前には二宮金次郎の石像があり、その像の前に屋根付きの通路がある。校舎からプールまで続くその通路のプール側を4人が占領している。
▲ケイタが選んだ曲は?
最初に僕が発言する。
「いろいろ考えたけど、二曲目もブルーハーツが良いと思うんだけど、どうかな?この曲は、みんな知ってて改めて聞く必要はないんだけど、『リンダリンダ』をやろうよ。一応再生するね。」
そう言って、僕は音楽を再生した。
「リンダ、リンダー♪」
ブルーハーツのボーカル、甲本ヒロトの絶叫が、春の青空に響いた。やっぱり良い!心を揺すぶられるロックなビートだ。頭のずっと上にある、うろこ雲がかき消されるイメージが浮かんだ。
「やっぱり、いいねー。」
ショウもポンタも何度もうなずいた。
▲リョウコが選んだ曲は?
座った順番で右回りに発表していくことになった。次は、リョウコの番だ。
「昨日も言ったけど、あたしは、ジッタリンジンが良いと思う。ジッタリンジンの『プレゼント』。これ再生して。」
軽快なスカ・パンクのビートが印象的だ。ポップでキャッチーな歌詞が淡々と心をえぐってくる。
「良い。この曲もやっぱり捨てがたいよね。」と、僕が答える。
ショウは、ちょっと困惑している。
「あれ、ショウは反対?」
「うーん、曲はとっても良いんだけど、ベースがぐるぐる動き回るでしょ?ちょっと弾きこなす自信がないなー。」
「そうかー。確かに難しいかもね?ベースライン、あまり聞いてなかったけど、こうして聞き直してみると、よく動いているよね。」
「あと、俺のパートも。あまり言い訳なんかしたくないけど、ドラムも、ちょっと難しいかも。」
ポンタも否定的だ。
僕がまとめる。
「さすがに、2曲目にしてはハードルが高いかな。それじゃ、これは、もっと僕らのスキルが上がってから、挑戦するってことで良いかな?」
「そうだねー。いつかはやりたいから、将来のための予約曲にしておいて。」とリョウコは自身の持ってきた曲を取り下げた。
▲ショウが選んだ曲は?
次はショウの番だ。
「次は、ショウの番だよ。曲は何?」
「実は、僕、何でも良いと思って。敢えて持ってこなかったんだ。みんなのやりたい曲で良いよ。もちろん、プレゼントみたいな難しい曲だと、ちょっと無理だけど。」
ショウは、こういうやつだった。薄々気付いていたけど、何でも良いって言うと思った。
▲ポンタが選んだ曲は?
ショウが、次のポンタをに「どうぞ!」と手でジェスチャーする。
「俺が選んだのは、少年ナイフの『トップ・オブ・ザ・ワールド』。これ再生して。」
ポップなガールズポップがラジカセから流れ出した。
「あれ?これ?少年ナイフの曲なの?」とリョウコが尋ねる。
「このトップ・オブ・ザ・ワールドは、もともとは、カーペンターズの曲だと思う。確か、1970年代初頭にカーペンターズが発表した曲で、翌年にはビルボードホット100で1位を獲得した曲だったかな。」
僕がすぐに答える。
「ケイタ、お前、すごいな。よくぞ、ペラペラと…。俺は、少年ナイフの曲だと思っていた。」
「そうか。オリジナルのカーペンターズの方も、めちゃくちゃ良いからさ。なんか、この曲を聴くために泣けてくるんだよ。」
「うちの母さんも、この曲好きで、よく聞いてたな。しかし、少年ナイフのカバーも良いな。オリジナルとはまた違う魅力がある。」
「うん、うん、この曲良いな。ぜひ、この曲やってみたいな。」と、リョウコが言った。
みんなの気持ちが、ぐっと「トップ・オブ・ザ・ワールド」に傾いた。
「よし、この曲にしよう!」
こうして、バンドの2曲目が決まったのだった。
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