第3話 「ケイタ、いつライブやるの?」再び
●「ケイタ、いつライブやるの?」再び
「ケイタ、いつライブやるの?」
「だから、まだスタジオ練習1回やっただけのバンドなんだって。持ち曲だって1曲しかないんだから。せめてもう一曲欲しいし。」
「あ、そうなの。お母さん、とっても楽しみにしているから。」
「もう、うるさいな。ライブやることになっても教えてあげないから。」
「まぁ、この子ったら、いっちょ前に反抗期なのね。いいよ、お母さん、ショウ君ママにライブの予定聞くからね。」
「むー」
僕は唸った。メンバーの親がみんな来ることになるなら、最初のライブは、父兄参観みたいになりそうだな。それは、なんか理想と違う。
僕は大きな声で「来なくて良いから!」と言い放った。
●翌日の学校
リョウコとショウに昨日の会話を話す。
「ははは、いいじゃん、いいじゃん、みんなのパパとママに来てもらおうよ。しっかり親孝行しようよ。きっと喜んでくれるって。」
「えー、なんか嫌だ。ライブのイメージが崩れる。」
「そうかな?ショウはどう思う?」
「うーん、どうかなー。」
考えている振りはしているが、幼なじみの僕には分かる。ショウは特に意見はないらしい。
仕方ない、ポンタの意見も聞いておくか。
「昼休みに、ポンタの教室行って、聞いてみよう。二曲目に何やるかも決めたいし。」
「そうだね、みんなで1年生の教室に押しかけよう。」
●昼休み
「ねぇ、せっかくだからイタズラしようよ。リョウコが全く知らないポンタのクラスメイトに声かけて呼んでみてよ。」
「なるほど、ポンタが他のクラスメイトに年上の綺麗なお姉さんから呼び出されたって噂になると。」
「『綺麗なお姉さん』か…それ、自分で言って、どうなのよ。」
「バカ、そこはスルーするところだろ。ショウもケイタに何か言ってやってよ。」
「うーん、そうだね。綺麗なお姉さんという噂が立つか、ぜひぜひ観察してみよう。」
何だか、みんな、なんかノリノリになってきた。
▲作戦決行
そして、リョウコが絶妙に平凡そうな顔の女子に声を掛けた。
「ねぇ、山本ポンタ、違った、ケンタ君ってこのクラスだよね?込み入った話があるから体育館裏に来て欲しいって、今すぐ伝えてくれる?」
リョウコがわざとモジモジした演技をしながら、声をかけた。いきなり名前言い間違えていたけど。
「わ、体育館裏ですね。は、は、はい。分かりました。す、すぐに伝えます。」
その子は、足をバタバタさせて、ポンタに向かっていった。
そして、大きな声で言った。
「ちょっと!ケンタ君。ちょっと怖そうな上級生が体育館裏に来いって言ってるよ。なんか悪いことしたんじゃない?」
「え?上級生が体育館裏に呼び出し?俺、殴られるのかな?俺、偉そう?目立ってる?」
ポンタは、慌てて教室を飛び出そうとしていた。
▲作戦失敗
「あれ?あれれ?綺麗なお姉さんって、あの子言わなかったね。」
ショウが二人に耳打ちする。
「しかも、ちょっと怖そうだって。」
僕が意地悪そうに言う。
リョウコは怒っている。「あの平凡女子、締め上げてやる!」
「おい、下級生の教室で暴力振るうのやめてくれ!」
そこで3人に気付いたポンタがリョウコを止めに入った。
▲バンド会議1
「かくかくしかじかで、ライブに親を呼ぶかどうかについて議論したいんだ」
僕が言うと、ポンタが答えた。
「なるほど。完全無欠の俺の意見を述べたいと思う。」
そう言って、前置きしたポンタの答えをゴクリとツバを飲み込んで待つ。
「ぜひ、親にも来てもらおうよ。俺の家族、ライブをとても楽しみにしているんだ。」
ちょっと恥ずかしそうにポンタが答えた。
「そう、そう、あたしの家も家族みんな来るって言うと思うんだ。」
リョウコもそれに乗っかって言った。
うーん、ライブってそういうものなのか?僕とショウは二人で、顔を見合わせた。
▲バンド会議2
そして、もっと議論を続けたいという僕らの空気を読まずに、唐突にポンタが身を乗り出して言った。
「そんなことより、次の曲を決めようぜ!」
その一言で、議題が一気に切り替わった。
「僕、BOØWYが良いと思うんだ。」
「えー、また男ボーカルの曲?あたし、女だよ。女ボーカルの曲が良いんだけど。」
「それじゃあ、松田聖子やろうよ。」
「え?それバンドでやるの?」
「せっかくなら、ロックやりたいよ。少年ナイフやろうよ。」
「わ、少年ナイフ良いね。」
「少年ナイフって何?」
「え?知らないの?ニルヴァーナと全英ツアー回ったんだよ。今度、カセットテープ持ってくるから聞いてみてよ。すごく良いよ。」
「えー、あのニルヴァーナと?少年ナイフってイギリス人なの?」
「違うよ、日本人だよ。イギリス人『少年ナイフ』なんて名前付けないでしょ?」
「イギリス人じゃないの?…イギリスって言えば、そもそも洋楽をやるのも良いよね?」
「えー、あたし英語苦手。ジッタリン・ジンにしようよ。」
そんなこんなで、2曲目が決まるはずもなく、あっという間に昼休みが終わり、授業後に続きをやることになった。
●午後の授業
僕は授業に全く身が入らなかった。
僕らのバンドの1曲目はパンク、ブルーハーツの「情熱の薔薇」だった。
2曲目は、これと対になる曲にする必要がある。できれば系統は同じで別のバンドの曲がベストかな?
昼休みに出たバンドや曲を思い出してノートにメモした上で、あり・なしのリストを作っていた。
「おい、サトウ!サトウケイタ、授業聞いているのか?」
古典の先生が急に僕の名を呼んだ。
「はいっ!き、聞いてます!」
僕は反射的に答えた。ただし、突然呼ばれたので、声が裏返り、クラスメイトからの失笑を買う羽目になった。
うー、恥ずかしい。
「この光源氏だが、中間テストに出るぞ。もう一度話すからな。」
古典の先生が黒板に板書を始めるのを見送って、僕は候補の曲の選定作業を再開するのだった。
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