第2話 戦闘機
無骨な内装の格納庫に一機の戦闘機が入庫していた。
八永レイ中尉の駆る戦闘機―MFX-41がタイヤとアスファルトを擦る音をさせたかと思えば、やや荒く動きを停止させた。
プシュッという空気が抜ける音と共にキャノピーが開く。
八永は機体に密着するように停められたタラップを使い、コクピットから体を出す。
ふと、地上に目を落とすと、先程の通信の主―織邊ハヤト中佐を口角を上げ、機嫌が良さそうな顔をこちらへ向けていた。
八永はすぐに目線を外し、タラップを下り始める。
一段降りたところで織邊中佐が口を開いた。
「なかなか良い結果じゃないか。すっかりエースが板に付いてきてる。」
「ああ、そうか。」
八永は不自然な返事を返す。
織邊中佐はその事を気にも留めず、話を続ける。
「さっきの結果、お前の担当医師も褒めてたぞ。前よりも良くなってる。着実に治ってきてるって。良かったじゃないか。」
「そうか、それは嬉しい、な。」
八永は再び不自然な返答をしながら地上へ降りる。
そんな様子を見て織邊中佐は八永に近寄り、声のトーンを少し落として話しかける。
「今日はもう休むといい、相手が無人機とはいえ、実戦仕様に少し調整かけただけの代物だからな。体も精神も疲労困憊だろう。担当医の所に寄ったら今日はフリーだ。」
織邊中佐は笑みを浮かべながら八永を見る。
八永は織邊中佐を少し見ると、直ぐに自機に目を向ける。
「機関砲で、少し、ぶちぬかれた。修理、頼む。」
「もちろんだとも。八永中尉。相棒は綺麗に仕上げておくよ。」
織邊中佐はさらに口角を上げ、八永を見つめた。
だが、織邊中佐はそう言っているが、実際のところ機体の修理は必要ない。
先程、織邊中佐は八永と交戦した無人機を実戦仕様とは言っていたが、実は武装は積んでおらず、全て非破壊仕様の、半ばエアガンに近い代物である。
八永は機関砲で破壊されたと思い込んでいるが、実際は煙が出るように仕込まれていただけで、一切、傷は付いていない。
さらに言えば、八永が搭乗していた戦闘機であるMFX-41もまた実戦用ではない。
正式名称はMFX-41特殊医療目的用改良型であり、精神を患っている八永レイ用に改造された機体である。
八永レイは先程の戦闘を実戦だと思い込んでいるが、実際は無人機と戦闘機型の医療機器を用いた医療行為である。
だが、八永レイはその事に気が付いていない。
戦闘を終えたと思い込んでいる八永が格納庫から出ていくのを、織邊中佐はただ、無言で見つめていた。
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