AwarenessGhost―STUDYSENSE
緋月慶也
第1話 人心を失った男
ジェットエンジンの轟音が空に響く。
機体は右へ、左へ傾く。
男が操縦桿を勢いよく引く。機体もまた、勢いよく上昇する。
男は体中に重力を感じながら更に速度を上げる。
レーダーに感あり。男が半透明のパネルを見ると、敵機が四機、こちらへと向かってくる。
―あと二十五秒。
男は会敵するまでを予測した。
男の乗った戦闘機はさらに速度を上げる。
眼前に広がる雲の中から二機の戦闘機が飛び出してきた。
二機は飛び出すと共にミサイルを放つ。
男は操縦桿を思い切り引くと機首を急激に上向きにする。
機体が上昇する。ミサイルもそれを追うように上昇した。
その瞬間、男は手元のスイッチを押し込んだ。
後部からボンッという音と共に火球が飛び出す。
ミサイルは向きを変えると、火球の中へと突っ込んでいった。
2発のミサイルは火球の中でぶつかり合い、爆発した。
男は戦闘機を180度回転させ、まだ残る煙の中へと突入した。
男は機体を更に加速させる。
二機の敵機を追い越す。
二機は男の戦闘機を追うように自らも向きを変え、追跡を試みる。が、男の戦闘機は既に向きをこちらへと変えていた。
男は照準を定める。そして操縦桿のスイッチを押し込んだ。
その瞬間、2発のミサイルが放たれ、敵機は2機とも同時に爆散した。
男は爆風を自機に浴びせながら、上昇する。
レーダーが敵機を感知。
後方に一機。もう一機は。
その瞬間、レーダーが激しく警告音を鳴らす。
敵機、直上。
男は頭上を見上げる、その瞬間、機関砲の音が鳴り響く。
男の機体に無数の機関砲弾が直撃。弾く音と共に、鈍い音が聞こえた。
男が後方を僅かに見ると煙が上がっていた。
男は機体を大きく傾けさせる。
敵機はそのまま急降下したかと思えば、すぐに機首をこちらへと向け、追跡を開始する。
敵機が更にもう一機、向かってくる。
挟み撃ちのような状態。だが、男は操縦桿を強く握り込んだまま状態を維持し続ける。
男は心のなかでカウントダウンをし始めた。
あと、十秒。
敵機は更に距離を詰める。
あと五、四、三、二、一。
敵機との距離。二百数メートル。
敵機が二機、同時にミサイルを放った。
零。男は心の中でそう呟くと同時に、操縦桿を右へ一気に傾ける。
ミサイルは男の戦闘機の真横を通過すると向かいの敵機へ直撃した。フレンドリーファイア。狙いどうり。
男は操縦桿を思い切り引く。
右へ傾いたまま、降下していた機体が真上へと上昇する。
男は操縦桿の側面のスイッチを押し込んだ。
機関砲が激しい音を響かせながら砲弾を放つ。
敵機は火を吹き出すと、空中分解しながら墜落していった。
男は機体を水平にする。
突然、通信が入った。
「ナイステクニックだったぞ、八永中尉。」
明るく呼びかける声とは裏腹に、男―八永レイは「ありがとう。」と一言だけ言って黙ってしまった。
「おいおい、相変わらずだな?八永中尉。まぁ、いい。今回の無人機を利用した飛行治療もパーフェクトじゃないか。基地へ帰投したらミーティングを行おう!医師も褒めてくれるさ。」
通信が切れた。八永は黙り込んだ通信機から眼前に広がる空、火星の空へ目を移すと機体を更に加速させ、基地へ帰投した。
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