第5話 世界観~中世~戦争編


〇中世の戦争

・戦場までは何リーク?

戦争、それは人類史とは切っても切れない不可分な要素。当然ながら国家や王権、法体系が未発達な中世ではそこらじゅうで戦争が起こっていました。

野蛮な世界ですね~。そう考えると現代は幾分かましと思えるかも。


でも、案外中世の戦争の正体を知っている人は少ない。騎士道物語やなろう小説はあくまで主人公の周りにしか戦場も人物も存在しませんから。銀英伝とか皇国の守護者とか(ちょっと古いかな?)じゃないとそんな物書かんのですよ。


そこで今回は、中世世界観、戦争編でございます。


・中世の戦争を貫くあるルール

中世の戦争を貫くルール、それはずばり”略奪”です。

ええ!?と思ったそこのあなた。まさに術中です。


兵士たちが中世で補給をする手段の多くは実は略奪だったのです。

まぁ、もう少し行儀のよい”徴発”というのもありますがどのみち現地調達には変わりありません。

そして、兵士たちがそういう事をしている描写を入れることで、わかる人には「おっ?」となること間違いなしです。それに、略奪と聞いて驚いたでしょう?それもまさに狙い通りです。こういうインパクトの強い行動は読者の印象に残ります。


では何故、彼らは補給部隊を連れて歩かなかったのか?それについても書いてゆきます。


・中世に補給部隊なんぞない

補給部隊。よく、なろうやファンタジーでは出てきますね。私はそうゆうのを見るたび、「めっちゃ金持ちやん」と突っ込みたくなってしまいます。

悪癖です。


大規模な補給部隊(専門的には補給段列)というものが登場するのは近世です。それまでは、武器以外の兵士たちの消耗品、食糧、果ては給与までが敵国ないし敵対領主の財産から奪われたものだったのです。何故?と尋ねたくなるでしょう。


それは、当時は輸送手段が馬と従者くらいしかなかったからです。


もし、1万人の部隊が居たとしましょう。それを3日間腹いっぱいにできるだけの食料を用意しろ、と命じられたら?一日3食だとしても、9万食ものパンやスープ、穀類を手配しなければなりません。そしてその戦場が、本国から遠く離れた所だったら?到底、馬や人間だけでは運びきれません。それに、そんな手配をしていたら破産してしまうでしょう。


では、どうするのか?そうです、侵攻した先の村や畑から奪えばよいのです。

それが上手くいけば、運び込む補給物資は僅かな量で済みます。しかも、兵士たちが食い荒らしているのは敵の領地です。兵士たちを満腹にさせるだけで敵にダメージを与えるのです。

〇中世騎士は御曹司!?

・騎馬軍団という妄想

騎士!騎士と言えば鎧!そして騎兵突撃ですよね!

でも、本物の中世には万を超す騎兵隊は組織できません。残念ながら・・・


理由は簡単です。馬は人の倍以上食います。そして、何より手入れに数人の人出がかかります。だから、騎士は貴族の坊ちゃんにしかなれないのです。馬は大変高価な物です。前述の通り維持費も、そしてもちろん購入額も・・・


だから馬と鎧で固められた数万の部隊なんか存在しません。

あるとしたら、王の部下の騎士達の集合や王が公費で賄う騎士団などが数百騎程度でしょう。もちろん、王国クラスになれば数千も揃えられるでしょう。

(そんなことするぐらいなら、もっと他の兵科を鍛えてやれよとは思うけど・・)


・騎士階級はなんでエリートっぽいのか?

騎士。こいつらもう絶対ファンタジーの出てきますよね?

出てこない中世ファンタジーあったら教えてください。ひっくり返ります。


騎士には金持ちでないとなれません。というか、金持ちの一部が騎士になって行くというか。何故なら装備品から何からすべてが高すぎるからです。

馬は馬鹿みたいに高いです。今の乗用車なんてレベルではありません。ベンツSクラスぐらいです。

それに加えて、鎧です。

鎧は、騎士の殆どがオーダーメイドで作っています。※中世後期になると鋳造技術が上がって、安くなった(それでも、下級層には買えない値段だったけど)

だから、一着一着がアルマーニです。彼らのそれは、誇りを着ているとはよく言いますが、まぁそりゃそうだよなというお値段です。


私は駆けだしの勇者とかが、アーマープレートの鎧を着ていると卒倒する人間です。

”高そー!!!”とか思っちゃって物語に集中できません。

だって考えてくださいよ。労働者階級出身の主人公がいきなり、フル・オーダーのブリオーニスーツを着てくるようなもんですよ。そりゃ突っ込みたくなるでしょ。


だから、騎士というのは自分の領地という財産生産装置があるお金持ちしかなれないのです。


・君主の近衛騎士達

では、君主の騎士はどうでしょう?彼らは当然公費で賄われてます。

いうなれば、公務員です。しかし彼らの多くは土地を持っておらず、財産も給与以外には増えません。だから、比較的立場の弱い騎士となってしまう場合もあるようです。彼らの下に、或いは似た様な存在に”メンアット・アームズ”や”ハスカール”という職業下士官達が存在しますが、近衛騎士は前述の騎士たちよりもこっちに近いですね。

あくまで、王のボディーガードの域を出ない、職業軍人。それが貴族系騎士と同じくらいに命を張ってるのに報われないクッソ哀れな近衛騎士達です。


・メンアットアームと下士官たち

中世の戦士たちは、指揮官たる”貴族”その軍隊の部隊を率いる士官の”騎士”、そしてそれらに従う”下士官”と徴兵された”兵士たち”の区分があります。今みたく、明確な階級があるわけではありませんが、財産や身分で規定されています。

このうち、下士官(兵士よりも立場が上の職業軍人)に当たるのが、メンアットアームズです。彼らは主に、貴族や王族の公費で装備が賄われて給料が支払われています。彼らは、その維持費の代わりに高い戦闘力や統率力を誇ります。鎧も、それなりの物を提供されて武器も十分騎士に立ち向かえるだけのものが与えられます。

活躍によっては近衛騎士や土地が与えられることがあります。戦士たちが立身出世する夢の舞台というと華やかでしょうか。


地域や時代によって、ハスカールやヴァリャーグなど名称・立場に差異がありますが、中世でまずは主人公をスタートさせるにはちょうど良い階級かもしれません。


〇戦場の兵士たち

・騎士は最強兵科ではあるが、統率に欠く

騎士は中世では最強です。重武装の騎士と馬に突撃されれば、盾を構えようが密集しようが雑兵など相手になりません。たとえ、突撃を止められても彼らの鎧を貫くのは容易ではないはずです。地面に引きずり落としても、返り討ちに合うかもしれません。


しかし、彼らにも弱点はあります。それは統率に欠くことです。騎士たちは王や君主の下に集まっている家臣ではあるものの、具体的な階級や指揮系統を持たないことが多々あります。そのため、王の命令が届かなかったりあるいは功を焦って勝手に動いたりします。その結果、言ってはならない方向へ突撃したり敵の誘いに激怒してはまるという事もありました。


その点、近衛騎士は優秀です。しかし、財産的な理由で王様は数を揃えられません。

そういう、統率のとれる軍団を持つには税金や国民国家の登場を待たなければならなかったのです。


・中世の戦場はうるさい

今みたいに、無線機があったりアプリケーションがあれば命令はらくちんでしょう。

しかし、舞台は中世。彼らは馬の嘶きと兵士たちの叫び声で何も聞こえません。

だから、撤退と命じても一部隊が取り残されたり、分断されると一気に連携できなくなります。伝令は当然ながら敵陣を通ることは自殺行為です。だから、包囲されると部隊は一気に士気が下がるのです。彼らは外の状況がわからず孤立するのだから。

連携が途切れて、部隊が崩れるなどという時にこの話を挟むとリアリティアップ。


・戦争は町と要塞を攻めてばかりだった

中世の戦争は、騎士や兵士が大きな平野で激突するイメージがありますよね?しかし、中世の戦争はその目的の殆どが城と町の包囲戦でした。

これは、前に書いた補給の問題上、食料や宝物が備蓄されているであろう街を狙ったという理由と、領土争いである以上その中心地である町と城を落とさなければならなかったからです。


だから、中世の戦争はかなり惨いです。街につながる井戸に毒を流したり、腐った動物の死体を投げこんで疫病を流行らせたり・・・


〇中世はわりかし終わってる


よく、騎士道とか言いますが中世はむごたらしい戦争が特徴です。

同じ宗派・文化(キリスト同士や西洋国家同士とか)ならまだそう言うルールもありますが、異教徒相手ではとてつもない憎悪で相手を攻撃します。


おまけに、略奪行為も相当な悪行だらけです。このころには、陸戦条約などありませんから、村は”戦利品”の山です。男は奴隷にして売り飛ばし、女は気絶するまで犯す・・なんてことは(君主の正式な軍隊でも)ありふれていました。




それが、ファンタジーでもなんでもない血と鉄さびのむせ返るようなにおいに溢れた中世の戦争の姿です。



※なんか、週刊評論ランキングに入ったらしいですね。

ありがとうございます。(普段はハーメルンに居るので、よくわからん)

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