ファートルド事変:5 真の名を…
バードルは悩んでいた。
ブラックは、このファートルドにとって、一人ひとりが莫大な戦力であり、強力な部下である。
そのうちの一人が、何者かによって殺された。
一大事だ。この、まだ発展途上のファートルドには、致命的な損害である。
あの御方から聞いたとおり、ガヴァ・ノートは只者ではない。
かろうじて、あの御方の力を借りて記憶を消しているが、もし記憶がある状態だと俺は殺されているだろう。
「コード」、この世界の規定から外れ、自由に、思いどうりな攻撃、呪文、魔法を繰り出すことができる。
ヤツもコードテイカーなのだろうか。
……いや、そんなことはないはずだ。
この世界に、コードテイカーは三人いる。
一人目は日国の女王、
二人目は日国の支配者、
三人目は……。
本を読みながらそんなことを考えているバードルに、電流が全身に冷たく走った。
………口に出してはならない。
バードルは震える手と足をどうにか動かしながら、コートを着て、自分の部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お前達ー!」
ベルドが大声で大人数の兵士達に声をかける。
「我々は、この日のために、短い期間ではあったが厳しい訓練をしてきた!お陰で私の上腕二頭筋も、全盛期をも凌駕する仕上がりになっている!」
決めポーズとキメ顔をでベルドは言う。
体が太陽の光を受け、キラーンっと光る。
そして、変人を見る目で見てくるリアナに気づき、スッっと姿勢を直し話を続ける。
「今より我々は、反逆国家ファートルドへ乗り込み、光の都ナスカラディアを取り戻す!行くぞー!!」
ベルドが片手を天へ上げる。
ベルドが話し終わると、兵士たちが「オーー!!!!」っと歓喜のような、気合の入った声を上げる。
「指揮は私がします。皆さんついてきてください!」
リアナは新たに作った、
兵士たちは、気合の声を上げながら一斉に走る。
そして、白の竜上に、ハルカラ村の紋章が描かれた旗を掲げながら…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
遠くから異様な声が聞こえてきた。
ブラックがそちらの方をみると、白竜騎士団の残党が、こちらへ向かって来ているのだ。
慌ててバードルのもとにワープし、報告する。
「……クソっ!アレを使え」
「っ……!バードル様、アレは………」
「アレさえ使えば時間は稼げる。あの方が来るまでのだ!」
「……分かりました」
ブラックは、一つの赤い宝石が入っている瓶を取る。
そして、漆黒の城から労働をしている者達へ呼びかける。
荷物を置き、クマが出来ている目を細め、力の入らない手を無理やり動かし、人々は集まる。
そして、赤い宝石を取り出しそれを割ると…。
赤い魔力が労働者たちへ向かう。
人々の目が赤く光りだす。
そして、ブラックは命令を出す。
「武器を持て!白竜騎士団の残党どもを斬り殺すんだ!」
人々は武器を持ち東門へ走り出す。
「っ………!」
リアナは目の前の光景をみて驚愕した。
元ナスカラディアの市民と、白竜騎士団副団長が、自分達の前に立ちはだかっているのだ。
計画に支障をきたした。
戦力となるのは、ブラックのみと思っていた。
だが、市民を殺すことはできない。
この時点で、しばらくの冷戦が決定されたといっても過言ではないのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ゴミはゴミであり、ゴミはそこら辺に転がっていてよいのだ。
僕の名前は「ゴミ」。
どうしてここに来たのか、どうしてこんな状況になったのかは覚えてない。
今、俺は太陽を見つめながらぼーっとしている。
「はぁ、どうしようかな…」
その時だった。
「主様!」
「主君様!」
「ノート様!」
「殿様!」
「主人様!」
五人の声がかぶる。
その声は、ゴミへ向かっていた。
「誰?」
「「「「私は…」」」」
「僕は…」
「嫁です!」
「彼女です!」
「許嫁です!」
「妻です!」
「妹です!」
五人の声がかぶる。
俺は、一瞬思考停止した。
「………は?」
そして、我に返る。
「いやいやいやいやいやいやいやいや、可笑しい可笑しい!」
無理だろ…ドラゴンと龍と狐と猫と犬は…ってあれ?なんでこの人たちのことを知ってるんだ………?
突然、足音と共に美しい女性が見えてくる。
「はぁ…全く。マスター、こちらに」
そう美しい女性が手招きしたときのことだった。
「「「「「抜け駆け……!」」」」」
「違います」
目を光らせ、バッ!っとその美しい女性の方を向き、圧をかけながら言う。
美しい女性はそれを軽く流すように言う。
俺は、後ろから圧を受けつつ、移動する。
「マスター、貴方はコードというスキルがあります。それを使って、言葉を探ってください」
「………?」
何を言ってるんだ?意味がわからない。
美しい女性は少し間を空けて、手を前で小さく組み、目をつぶりながら言う。
「………ヒントは…そうですね。復活とか、復元とか…そういう感じでいいと思います」
「………なんかムカつくな」
俺は、美しい女性の呑気さに怒りを覚える。
「それでは頑張ってください」
美しい女性は、スカートの端と端を両手で持ち上げながら言う。
「さ、五芒星の皆様。帰りましょう」
「「「「「………………え」」」」」
「「……え」ではありません。目的は達成したでしょう?っというか、シリウス様、貴方はいつボケに回ったのですか?はぁ、だから私だけが行くと言ったのに……」
「いや、それとこれとはちがうじゃない!今は主様を自分の物に……」
「……はぁ。全く。マスターはいつそんな女たらしになったのでしょうか」
その女性は二度目のため息をつく。
そして俺は、とっさにツッこむ
「ふざけるな!勝手にあっちが一方的に彼氏か婿にさせようとしてきてるだけだぞ!」
美しい女性は、片目だけ少し開けて、俺の方を見る。
「……シリウス様、一応言っておきますが…マスターは、仲間などからはモテますが、普段は絶対にモテません」
「っ……!?」
「私は、十年間見てきましたが、女性と話したりはします。ですが、一回も告白されたことなんてありません。つまり、フツメン過ぎるんです!」
まぁ、それはそう。イケメンでもなく、ブサイクでもない、フツメンである。
「っ……な!?こんな、格好いいのに…」
シリウスは倒れ込む。
ベガがそれを支える。
「とにかく、頑張ってください」
六人の女性達は、彗星のように、一瞬にしてその場所から消えた。
「なんだったんだ…?」
俺は、ボーッとどこかを見る。
「コード、か」
俺は、懐かしさと、何故かそのやり方を知っている気がした。
「『コード』」
そう、ノートが呟いたときだった。
浮くノートの頭の上と足の下に、順番に、紫色の大きな円状の呪文文字と、小さな円状の呪文文字が回りながら出現する。
それと同時に、横、左斜め、右斜め、縦、っと、円を描きノートを囲むように紫色の呪文文字が回りながら現れる。
それと当時に、ロングパーカー、ではなく、後頭部から顔の横を隠すように、首から先が襟がめくれたような形で、ロングパーカーと同じ長さの、ヒラヒラと靡くマントを纏う。
黒のズボン、ショートブーツ、そして、システムローズの紋様が紫色で描かれた黒の長袖の上着を、魔力水により作り上げる。
ノートは、何も言わずその
「………………『リストリア・オブ・ザ・リバイバル』」
囲むように回っていた4つの呪文文字から横の呪文文字は四文字、縦の呪文文字は三文字、右斜めの呪文文字は二文字、左斜めの呪文文字は三文字白く光る。
薄い緑色の結界がノートを囲むように現れる。
そして、全ての呪文文字が広がる。緑色の結界に磁石のように引っ付き合い、眩い光を放つ。
「っ…………!」
ノートは、全てを思い出した。
転生したこと、仲間のこと、こうなった経緯、全てを。
「……おのれ。バードル………!」
魔眼を開眼させ、右目からは一筋の、白い稲光を帯びた魔力の線をゆらゆらと揺らす。
紫色の魔力が、オーラとなり溢れる。
溢れ、溢れ、溢れ、晴天の空を暗黒に変える。
雨が降り、雷鳴が鳴る。
ノートの紫色の魔力は、だんだんと変色し、黒き暗黒の魔力となる。
魔力は暗黒の疾風を起こし、雨を切る。
ノートの怒りは、底しれないほどだった。
縛りに縛られ、こんな屈辱的な事をされていたのだ。
黒い暗黒の魔力は、底知れない怒りと、力を帯びていた。
ノートは歩き、コードを発動させる。
それと当時に
◆◇◆◇◆◇黒の物語◆◇◆◇◆◇
古びた本が風に仰がれパラパラとページがめくれる。
一章
深き黒の雨きたるとき
災厄の者きたり
災厄の者
容赦なき
真の名を奪い返す
二章
白き閃光が顕現せしとき
世は滅亡と等しき
三章
夜空から星降る時
終焉に向かいし道来たり
四章
空の彼方
彼らが来し
破滅と死を添えて
五章
主の下へ
星が帰る時
厄災の者は
完全なる支配者となりて
神となる
一章が、黒く光った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
汚らしい笑い声がブラックから溢れる。
「さぁ来いよ!戦えよ!ハッハッハッハッ!殺してみろよ!白竜騎士団長様よぉ!」
「くっ……!」
リアナは屈辱に耐えながらも、兵士達に指揮する。
「行きましょう」
「っ……!本当ですか?!だってあっちはナスカラディアの……」
ベルドが慌てて話しかける。
「いいのです…だって、彼らはあちら側に行くのを選んだのですから……」
リアナが静かに涙し、剣を突き立てたその時だった。
グサッ!
暗黒のように黒い触手が一人のブラックの胸を貫いた。
血は触手を伝い細く糸を引く。
「ぐっ……!グァァァア………」
ブラックが倒れると、そこにはマントを着た一人の男がいた。
圧倒なる力のオーラがあった。
ブラックの死体は雨に打たれ、血が滲む。
男はブラックの頭を掴み上げる。
「おい、バードルはどこだ?」
低く、怒りを帯びた声は、自分の立場をわきまえろと言わんばかりだった。
マントの後ろには、六本の触手がうごめいている。
「………答えぬか…」
男は死体を離し、地面に叩きつけ、頭を踏み潰す。
それは、あまりにも容易かった。
グシャァ!っと、骨も、肉も、脳も、すべて粉々になる。
赤い血と、白い髄液が水たまりのようにそこにたまる。
「な、何なんだお前は!」
一人のブラックが声を荒げる。
「………ガヴァ・ノート」
男はそれだけ言い残し、ブラックの後ろへと瞬間移動する。
「おい、バードルはどこだ?」
ブラックは驚き、慌てて警戒態勢になる。
「ば、バードル様になんのようだ!」
「もう一度問う。バードルは何処だ?」
「だ、だからなんの…………ぇ?」
グサッと貫く音と共に、血が触手を下へつたる。
ブラックは息絶える。
「もういい、俺は不器用でね。口を割らないなら、全員殺してやる」
男は二本の刀を作り出し、それを融合させる。
紫色の稲光を帯びながら、紫の光沢を放つ黒き刀が出来上がった。紫色の粒子状の魔力が、紋様となり刀へ刻まれる。
実にスマートな形状だ。
ノートはその刀を空へ放す。
すると、刀は垂直になり、空から六つの大剣が飛んでくる。
聖大魔剣が垂直となった
紫雷電刀から放たれる紫の稲光に撫でられるように聖大魔剣が振れると、黒く、そして紫の光沢を放つ姿へと豹変する。
紫雷電刀を中心とし、聖大魔剣が横へ倒れ、ブラックへ飛んでゆく。
斬り、斬り、斬り、斬り刻む。
あっという間にブラックは全員葬られた。
催眠をした魔力の主が死んだため、市民たちが目を覚ます。
白竜兵団がその市民たちを保護し、ハルカラ村へ進む。
「お前、何者だ」
バードルの深い声がノートを刺激する。
「………バードルッ!」
俺は左目の魔力眼を見開く。
魔力眼が紫から白く変色する。
「っ………!?」
バードルは、一つのことに気づく。
(魔力の色が…七色、だと……そんなことは、あの方以外…)
「バードル、お前だけは許さない…」
バードルは、黒の渦巻く霧から一本の槍を取り出す。
「お前は我々の計画の邪魔だ。あの方の天敵となる。ここで排除する…!」
バードルは突きを準備し、走りこちらに向かってくる。
ノートは紫雷電刀を手に取り、暗黒化した聖大魔剣を回りに浮かばせながら後ろへ飛ぶ。
バードルは大剣を弾きながらノートの元へ走りる。
ノートは刀を構え、斬る。
バードルは華麗な回転と共に攻撃を避ける。
バードルは、なんども高速の突きをする。それを美しく、そしてスマートに、その攻撃をノートはあしらうように受け弾く。
瞬間的なスピードでノートとバードルは天へ飛ぶ。
黄色の火花とともに金属が弾き合う音がする。
それをリアナは黙って見ていた。
リアナから見ると、二人は、バードルは紅色、ノートは暗黒色の線となっているように見える。いや、そう見ることしかできない。
しばらく、リアナには金属の弾き合う音しか聞こえなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お、始まりましたね」
シルフィードが呟く。
「なにをしているの?」
カノープスがシルフィードへ問いかける。
「ほら、あれを見てください」
指を指す方向には、火花を散らしながら戦うノートの姿があった。
「はあぁぁ…!なんと美しぃ…」
カノープスは少し疑問に思う。
「……?ノート様、記憶を取り戻されたのですか!?」
「そのようですね」
「はぁ…よかったです……安心ですね。これは、あの貧乳野郎にも、一応伝えて置きましょう」
カノープスは胸の下に腕を置き、ルンルンになってストレートボブの髪を揺らす。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二人は、天から降り立つ。
バードルは息を荒げ、疲弊している。
それに比べ、通常呼吸で、雨に打たれているノートは涼しそうだった。
「一体…何なんだ!お前は!」
ノートは黙っている。
すると……。
「『コード』」
呪文文字が再び浮かび上がる。
足元、そして、ノートの周り。
その呪文文字は紫ではなく、暗黒のように黒かった。
「や、や……やめろ!そうか……、やはりお前は……!」
そして、ノートが言葉を口にする時だった。
《レジェンドコードの発見を確認しました。レジェンドコードを獲得します》
目の奥でシルフィードが言い、そして笑う。
ノートは目をつぶり、開く。
ノートが魔力の珠を空へ放つ。
眩い光を放つが、暗黒へと変色する。
「『スラッシュ・キル』」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
空白。
それがバードルを凌駕した。
目を覚ました時には、なにも感じない。なにも出来ない。なにも聞こえない。
五感が破壊されたのだ。
バードルは恐怖した。
何処からか、何か聞こえてくるのだ。
体中を虫が這いずり回っているような感覚。
不気味な声がバードルを恐怖へ陥れる。
「や、やめ、やめてくれぇぇええぇぇええええ!!!!」
バードルは、永遠に、縛られる恐怖を味わうことになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それは一瞬だった。
暗黒が二人を呑み込んだかと思うと、すぐさまその暗黒は消えた。
ノートの目の前には何もなかった。誰もいなかった。
魔力となり、空へ散ったのだ。
ノートはマントをロングパーカーへと直す。雨に打たれながら後ろへ向き、魔力で出来た紫色の翼で空へ飛ぶ。
リアナは忘れることはないだろう。
あの悪夢から救った、英雄かどうかもわからないが、一人の男、ガヴァ・ノートを。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「フフッ…面白いな。ガヴァ・ノート」
影で姿は見えないが、ノートと同じくらいの背丈の男が王座に座っている。
「どのように致しますか?」
「まだいいよ。さぁ、僕に見してくれたまえ。君の
この男は、静かに笑った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は、飛行艇疾風に降り立つ。
「「「「「お帰りをお待ちしておりました」」」」」
五芒星が迎えを出してくれていたのだ。
「あぁ、すまないな。心配をかけた」
「いいえ、主様が謝ることでは御座いません」
シリウスは深々とお辞儀をする。
でも、本当に心配を掛けた。
俺は、精神攻撃無効、攻撃無効を持っているはずだ。
なのに記憶を失ったということは、
この世界には、俺を含めコードテイカーと呼ばれる者達が四人いるらしい。
そのうちの一人、一般的に広まっている「トロワ」。
シルフィードが教えてくれたコイツの本名は、同郷の予感がする。
本名
俺はロングパーカーを翻し、空を見上げる。
「五芒星全員に問う」
俺は五芒星に背中を向けたまま、言葉を投げる。
五芒星は静かに次の言葉を待つ。
「俺に、私に何が起こり、お前達にも何か危害が及んだとしても、着いてきてくれるか?」
五芒星の五人は一瞬、何を言っているのか分からないと言う顔をする。
そして……。
「「「「「ええ!もちろんです!」」」」」
五人同時に同じ言葉を言った。
俺は少し嬉しくなった。
ノートは空を見上げたまま、静かに笑った。
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