ファートルド事変:4 縛られた深淵
素早く動く影は、ベガ。
深淵狂気の森をあっさりと抜け、空気を蹴るように疾風の如く走る。
そして、壊滅したナスカラディアの壁によじ登る。
そして辺りを見渡す。
「あ!主人様だ!」
一人、ベガの目にとまった少年。それはベガの主。
主を見つけた犬はすぐ主の元へ急ぐ。
「しゅ・じ・ん・さ・まーーーーー!!!!!」
そして、ベガはノートへ飛びかかる。
「ぶへぇ!」
ノートは勢いで吹っ飛び地面に倒れ込む。
「もう。主人様!皆心配しておられるのですよ!こんな所で何を……」
ノートが起き上がった瞬間、驚きの言葉を口にする。
「き、君は…誰だ?」
ノートは、地面と打つかった頭を撫でながら起き上がる。
そして、その衝撃の言葉に、動くことも出来なかった。
行動が出来なかったのだ。
思考も停止し、全神経が死んだように動かない。
余りのショックに自分を忘れる。
だが、その時、此処は、壊滅したナスカラディアと言うことをトリガーとし、我に返る。
「主人様!此方に」
ベガノートの手を掴み、路地裏へ引っ張る。
「ねぇ…主人様、本当に覚えてないの?」
「え、あー…そう……だけど?」
ベガは下を向き、ため息を付く。
それはそうだ。大切な人が記憶喪失になったと知ったら、誰でもそうなる。
そして、少し考えた後、口を開く
「分かった…主人様、また会いに来ますから」
ベガは、そう言い残すと、風のように消えた。
ノートは困惑したが、自分の仕事を忘れていることを思い出し、急いで自分の仕事へ戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ベガはオーバーローズに戻り、五芒星とシルフィードにノートの現状を報告した。
「う、嘘…」
カノープスは口を両手で押さえる。
「記憶…喪失………」
アルファードは倒れ込む。
ショックの余り力が抜けたのだ。
「私の事……忘れたの…?主殿……」
アークは目の光が消え、フラフラと円を描きながら歩く。
「これは…予測していなかった事態ね…」
シリウスは自分の髪を握りしめる。
その中、シルフィードは一人何かを思い付いた。
「記憶喪失と言うことは、何を言っても信じて貰えるのでしょうか…」
「「「「「ッ………!!!???」」」」」
皆の思考が停まった。
そして、再び物凄い速度で動くが、また別の事についてそれぞれ思考が回る。
そして、ふざけたような言葉にシリウスが口を挟む。
「ちょっ…!この緊急事態に何を……」
「主君様が…ウフフフフフフ………」
「な、何気持ち悪い笑い声を上げてるの!」
「私は主人様の彼女私は主人様の彼女私は主人様の彼女私は主人様の………」
「殿~…待ってて下さいねぇ~」
「ノート様……ノート…」
皆が狂っているその時、シリウスが言葉に魔力を纏わせ放つ。
「…………黙れ」
「「「「っ…………!」」」」
低く、威圧のある声に、四人は肩をはねらせた。
「「「「も、申し訳御座いません…」」」」
シリウスは息をつき、口を開く。
「まぁ良いわ…というか、カノープス、貴方敬語なんて使えたのね。正直驚いたわ」
カノープスは目を見開く。
「し、しまった…こんなやつに…こんな…」
「ま、良い心がけだわ。此れからもよろしくね」
カノープスははを食いしばり、シリウスを睨む。
「とりあえず、私達はまず、計画を立てましょう…」
そこから、五芒星による大会議が行われる事になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ナスカラディアの現状は酷い物だった。
金をむしり取られ、家を与えられたとしても狭い、一つの部屋に四人のベッドが置いてあるだけの、言えば牢獄。
城の他に、塀もでき、完全なる要塞と化していた。
労働労働労働、それは一生続くように思えた。
「おい!ゴミ!早くしろやぁ!」
「は、はい…!」
ヤバイヤバイ、飯抜きにされる……。
「本当に…おめぇは何もできねぇなぁ…。本っ当に…
その時、ノートの中で何かが切れた。
頭の中、胸の中、体の中で。だが、記憶は戻ることは無かった。
「……今何と言った」
ドスッと低くなる声と、細く横から睨みつける鋭い眼光は、ブラックを震え上がらせる。
「な、何だ…よ、急に…」
ブラックは二、三歩と言う風に後ずさる。
その時、ブラックの手足が、地面から出てきた黒い水に縛られる。
そして気づけば、ノートの手には二本の刀。
黒いロングパーカーは、月と星の光を受け薄い紫に光る。
風が吹き、パーカーは分かれ、マントのようになっている部分が大きく靡く。
天を仰いだ後、もう一度ブラックを見る。
「お、お前まさか…紅蒼の………」
ブラックは声を震わせる。
足も、体も、手も、縛られていても震えてくるのだ。
その後、風を切る音速の斬撃がブラックに襲いかかる。
ブラックの体は真っ二つに分かれ、血が糸を引き、肉独特の「ニチャァ…」という音を立てる。
「………っ………!?」
ノートは、頭を抱える。
頭が痛い、頭が痛い…何だ。なんなんだこの感覚は…!
俺は…ゴミなんかじゃない…!なんだ…なん………。
その時、頭の中がプツリと、スマホの電源が落ちたようにノートは気を失った。
それと同時に、戦闘服も解除され、ただの水と化す。
バードルと、七人のブラックは、ノートを囲むようにスタッと飛び降りる。
「これは……」
「ハードル様、どのように致しましょう」
「………コイツがブラックを、一人容易く殺せるとは思えん。虫が入り込んでいる」
そう言い、バードルは城へ戻る。
ブラックもそれに連れる。
果たして、ノートは記憶を取り戻すことはできるのだろうか?
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