第19話 静馬改良_2

 絶がオーパーツを放り込んだ動力炉で出力問題は解決したものの、その出力があまりも強すぎるため、琳が片手で頭を押さえながら空いた手でバンバンと机を叩いた。


「オーバースペックよオーバースペック! 静馬の基礎フレームでこの出力、機体とパイロットの方が持たないわ!」


「なら、調整の方向性は見えて来たわね」


 やぶれかぶれで叫ぶ琳と対照的に、全て読んでいましたよという感じで腕を組んでうなずきながら実はそんなに考えていたわけではなかった絶。

 指を一本あげると、腕を組み自分なりの解決策を考え思案していた様子の汪麻を指さす。


「あふれ出る出力に耐えうる骨格補助……。汪麻、あなた本格的に結界術を学びなさい」


「む……。それはつまり、結界術で静馬を補強するということか?」


 万能術者とされる汪麻自身、結界術は好んでいた術種である。

 限定的空間内なら多彩な全能感を味わえる術である。また、MAGWSの補強にも流用できるし、結界術を織りなす知識や術式は様々な術分野からの応用で行うもので、元々万能術者としての適性を見せていた自分の才能をフル活用できる。


「あふれ出るほどの出力を結界術で贅沢に使えるわ。こんな腕の振るい処ないでしょう」


「む、むぅ……。それはそうだが。デザインの方向性としてはおかしくないか? 出力に耐えうるように基礎骨格をどうにかした方が……」


「「ダメね」」


 2人の才媛が、異口同音にダメ出しする。


「二人が調整してくれたオリジン炉も含めてだけど、静馬にデザインされた諸々は、この基礎骨格を前提に霊的に補強するように作られている。私たちの状況で、基礎骨格からリモデルしていたら絶対にコンペに間に合わない」


「だからこの基礎骨格でどうにか耐えうるように出力を利用する。設計上の矛盾があるっていうのはわかっている。でもこの急造のチームでそこまで実現できれば、私たちの実力の売り込みとしては十分だと思うの。見る方の目がよっぽど曇っていない限り」


「ふむ……なるほど。二人がリーダーだ。従おう。しかし……」


 汪麻は少しの間を置くと、訊ねた。


「余剰出力すべてを結界術にまわそうという贅沢な話ではないのだろう?」


「もちろんよ」


 絶がすぐさま言って、琳がうなずいた。


「あんたの役目は必要最低限の出力で十分以上の加護のある保護結界を構築すること。余剰出力はあればあるだけ追加兵装にまわせる。追加兵装までは……名残惜しいけど作っている時間はないわね」


「いいだろう。承知した」


(ふふん。俺にも見せ場があるではないか)


 そのように自尊心を満たした汪麻だが……。


「馬鹿汪麻」


「バカ汪麻!」


 絶と琳、2人の才媛に次々と罵倒されることに。


 汪麻も陽国全体の平均からすれば並外れた術者の自信はあったが、絶と琳は、こと魔法工学における麒麟児。

 汪麻はその二人と頭を突き合わせて、ハードとソフト、それぞれに専念した2人と一緒にデザイン設計に加わるということだ。

 提案した案を次々と却下される。

 絶も琳も、汪麻には遠慮がない。

 それぞれ近しい立場だし、汪麻の才能と精神的タフさに期待してもいたのだろう。

 とはいえ、厚かましいほどタフな精神をしていた汪麻が、口からエクトプラズムを吐くほどの疲弊を覚える日々だった。


「うん、これなら合格ね」


 絶と琳の2人からその言葉をもらえた時は思わず涙が出るかと思いガッツポーズが出た。


「やればできるじゃない、馬鹿汪麻」


 その時にはなぜか琳の罵倒が、自分への褒め言葉のように聞こえた。






「みんな、集まって!」


 琳の号令で、プロジェクトに参加する全研究生が集められた。

 3人の設計が固まったことで、いよいよ本格的な静馬の改良に入れるということだ。

 もちろん、それまで彼らを遊ばせていたわけではない。

 ソフト面を専攻する研究生には設計の手伝いをしてもらって進めてもいい段階は勧めてもいたし、ハード面を専攻する研究生たちには、様々な魔導合金の試行などを試して目星をつけてもらっていた。


「あたしたちの手で、世界をあっと言わせてやりましょう!」


 身長144センチの小柄な体から発せられる威勢は、他の大勢の意気を高揚させ、大きな賛同の声が木霊した。


「やるぜぇ! 汪麻!」


 その中一際威勢のいい声を上げたのは、バンダナを撒いた皆川蓮司。


「ああ、蓮司」


 2人は二の腕を突き合わせてガッツボーズをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る