4th ep.クライマックス、そしてリスタート ④
と、ここで仁原からDMが届いた。
② :『随分とハッスルしてくれたこと』
リバー:『人のこと言えねーだろ』
② :『お前も色々と闇を抱え込んでたんだな』
俺もだが、仁原――お前だって、ずっと今のままでいいのかよ?
リバー:『お前だってやり直せる。一緒に何かに向かってあがいてみようぜ』
② :『へっ。今更……』
② :『なに自分に酔ってんだか知らんけど、そのつもりはないぞ』
リバー:『お前は一体何に囚われてるんだよ?』
何が仁原の人格を捻じ曲げてしまったのか。
何かきっかけがない限り、ここまで
リバー:『お前を蝕む正体は、なんだ?』
② :『この世で何が一番迷惑か知ってる? 行きすぎたお節介、正義感だぞ。
ありがた迷惑だわ』
リバー:『迷惑上等』
② :『あーマジそういう暑苦しいノリいらないから』
リバー:『いいから教えろ』
② :『……はぁ。くだらね。マジくっだらねぇ』
リバー:『だな』
② :『……お前には立て続けに根負けしてるな。まぁいいけどさ』
リバー:『頼む』
② :『俺、学校の成績は不振でほぼ毎日遅刻、欠席も多くて周りから敬遠
されてるわけよ』
リバー:『そうなるのは必然だと思うが? お前がリアルで浮いてる光景が容易に
想像できる』
② :『はっきり言ってくれるね。まーそうなんだけどよ』
しばし、お互いのDMが止まったのち、仁原から再びDMが届いた。
② :『中学の時にさ、クラスにいじめられてる奴がいたんだよ。
俺も変な正義感がわいたのかね、そいつを庇ったわけよ。
そしたら今度は俺がクラスからハブられ出した。揚げ句の果てには
俺が助けたいじめられっ子にすら無視されたよ』
リバー:『そんなことが……』
② :『それから俺の中学生活は真っ暗になった。勉強もロクにしなくなり、
最後は不登校気味になって、今はここらじゃ底辺の公立高校通って、
目標もなく日々を適当に過ごしてる』
リバー:『お前も色々あったんだな……』
仁原にも仁原なりの事情があったのだ。過去に受けた仕打ちから自暴自棄になってしまっていた。
……だが、俺もお前も、いつまでも
リバー:『俺も怪我で高校の部活ができなくなってからは毎日を空虚に
生きてきたさ。だけど、それじゃもったいないんだ。何かに対して
気兼ねなく取り組める時間が大いにあるのは学生の間だけなんだから』
俺だけじゃない。仁原だって、今からでも遅くはない。
② :『さっきも言ったろ? 行きすぎたお節介、正義感はこの世で最も迷惑
なんだよ。それと同じで……俺が今更何かをはじめたところで、
誰かしらに迷惑がかかる』
リバー:『迷惑でもいいじゃんか』
② :『は?』
リバー:『だって俺ら、学生広場でも散々周りに迷惑かけてるじゃんか。
どう転んでも迷惑なら……人のため、自分のためになる迷惑のかけ方でも
いいじゃないか』
② :『んなこと言われてもよ。今更どうすりゃいいんだよ?』
どうすればいいか問うてきたところに、仁原の良心を垣間見えた。
コイツの気持ちが分かる俺だからこそ、他の奴からの言葉よりも説得力があるはずだ。
リバー:『お前は部活やってたことある?』
② :『んなかったりぃモン一度もねーよ』
リバー:『ならやってみようぜ』
② :『いやいや、もうすぐ高二だぞ。今からじゃ遅いって。手遅れだ』
リバー:『んなことないって。俺の知り合いに一からスタートし直してスタート前
よりも飛躍した努力家を知ってる。そいつが証明してくれてる。遅いのは
間違いないが、だからって手遅れって断定しちゃうには早いだろ。
やってみなきゃ分からないさ』
② :『仮に手遅れじゃなかったとしても何をすりゃいいんだ?
やりたいものなんざないんだけど?』
リバー:『そうだな……仁原は体格がいいからラグビーはどうだ?』
② :『ウチの高校は確かにラグビー部あるけど、弱小だぞ』
リバー:『うってつけじゃん。入部しやすいだろうし、お前が部を強くすればいい』
② :『んな漫画みたいな夢物語……』
リバー:『夢を見るのは自由だぞ。今までの悔しさをスポーツでぶつけてやれよ!
勉強もそうだけど、スポーツは成果が目に見える分、達成感が大きいぞ』
② :『うーん』
リバー:『俺もやり直そうとしてるところだ。一緒に頑張ろうぜ。お前を
にした中学時代のバカな連中を正々堂々、正面から見返してやろうよ』
② :『そうだな……分かったよ。でも、ダルかったらすぐ投げ出すからな』
リバー:『それでいいじゃん』
② :『……ったく。ネットでラグビーのルールでも調べるかね、っと』
DMでのやりとりを終えた仁原はログアウトした。
お互い頑張ろうぜ、仁原。
「ここらで総仕上げといこうかね」
岳志、園田さん、稲本への
ある意味で今日、俺が主張したい本題だ。
COLD:『本件は全て! 全部この俺が引き起こした!』
『COLD』でログインし直し、さっき俺が建てたスレッドに再度書き込みをはじめる。
一連の騒動の主犯は俺であると皆に周知するために。
COLD:『ぷりんのことも……SANの件も――裏で糸を引いてたのは何を隠そう
この俺だ』
COLD:『SANに至っては俺に変わって謝罪周りまでしてくれた。
こいつも俺の被害者なのにな』
COLD:『二人は所詮操り人形。
COLD:『はははは! 実に愉快痛快爽快!』
COLD:『おいお前ら! これが俺の本性なんだよ!』
これが、俺の最後のけじめ。
悪いことは全て『リバー』に被せてきたが、最後は表アカで締め括りたいと思ったんだ。
Ю :『COLDが……? 模範ユーザーのはずじゃ……?』
奈々市:『どうなってんだよ?』
麻呂 :『こんな奴だったのか……』
掲示板には驚愕や失望、
かつて散々悪いことを繰り返していた俺にはこれら全てを正面から受け入れる義務がある。
COLD:『唐突だが、ここで
COLD:『俺はCOLDとリバー、二つのアカウントを使っていた。
立派な規約違反だ』
COLD:『よってアカウントは両方とも削除される。今日中にな』
COLD:『SNSには色んなリスクがあって、正しい情報リテラシーと道徳性が
なければ使用は危ないんだ』
COLD:『部活動関連の掲示板の人たち、俺の所業で不快な気分になった
ユーザーたち――そして宮下、タク、ぷりん、SAN……今まで本当に
申し訳なかった』
COLD:『俺の今までの悪行は謝罪をした程度で許されるものではないが、
それでも俺には謝ることと学生広場から追放されることでしか
果たせないんだ』
COLD:『普段俺と同じように荒らしをしてる連中も少しは分かっただろ?
俺と同じ過ちは犯すなよ。一線を越えたら取り返しがつかないぞ』
COLD:『そのことを、俺自身が身を持って知った』
COLD:『俺は学生広場を引退して明日からは生身の「寒川俊哉」として
生きていくわ』
COLD:『んじゃ……あばよ!』
言いたいことをひと通り書き込み終えると、すぐさま俺ヘの批判レスが大量に書き込まれてゆく。
一つ一つ、心に焼きつけるように読む。俺の行いの数々が招いた結果だ。全て受け止めなければならない。
やがて俺への叩きが収まってきた様子を見届けて【学生広場】をログアウトした。
「じゃあな……お前ら」
もう二度とここに再ログインすることはない。
晴れて【学生広場】から卒業となったわけだ。……もう夜だし外の天気は
後日知った話だが、仁原や日下、荒らし軍団のアカウントも規約違反により強制削除されたとのこと。事実上の永久追放だ。
ちなみに金子は運営からの厳重注意で済んだとのこと。
今回の騒ぎによって運営の監視の目がいっそう厳しくなり、結果的に【学生広場】利用者の道徳性が向上したんだとさ。
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