4th ep.クライマックス、そしてリスタート ③
リバー :『やはり、俺は間違っていたんだな』
COLD:『自分でも気づいていたものの、認めたくなかったんだね』
リバー :『…………あぁ』
COLD:『俺たちは必死に、真摯に、やり直さなければならない』
COLD:『そうでしょ、リバー』
COLD:『そして、寒川俊哉』
リバー :『同感だ』
リバー :『お前だってそうだろ? 寒川俊哉』
休息期間はもうおしまい。
これからは俺たち――俺は、リスタートするべくもがき、あがきはじめなければならない。
とてつもなく辛く、険しい道のりになる。
けれども、いばらの道を選んでしまったのは俺自身なのだ。背水の陣で臨む他なかろう。
リバー :『COLDの言うとおりなのかもしれないな』
リバー :『だが、消える前にやり残してることがあるんだ』
COLD:『……②たちの荒らし行為?』
リバー :『あぁ。アレを収束させなきゃ終われねぇ』
COLD:『同意見だよ』
俺が今一番やりたいこと。
それは、俺が元凶で引き起こした学生広場の治安の悪化。
ならびに今もなお俺の大切な人たちが俺のせいで
この二つを解消することだ。
そのためには、俺自身が積極的に動くしかねーんだよ!
リバー :『なぁ②や荒らし連中さ。ここ見てるんだろ? もうやめないか?
こんなことしたって誰も幸せにならないぞ』
リバー :『散々悪事を働いてきた俺が言うんだから間違いない』
COLD:『俺からも頼む。②たちはどんな報酬で動いているかは知らないけど、
こんなことしたって虚しいだけだ』
自問自答は黒歴史になりそうなほどに恥ずかしく、俺は一人で一体何をやってるんだろう状態になるも、自問自答したからこそ、改めて自覚できたこともあった。
名無し1:『DMでやっとけよ……』
名無し2:『下らない茶番でスレッドを浪費すんな』
名無し3:『今まで
は思わないのかな?』
名無し4:『途中出てきた「寒川俊哉」って誰?』
名無し2:『さぁ? ぷりんの中の人じゃね?』
名無し3:『関東中央高校の生徒っぽくね?』
名無し1:『特定班ヨロ』
俺の自作自演レスの嵐が終わるや否や、次々とギャラリーユーザーの書き込みが蓄積される。
当然だが、突如として出てきた「寒川俊哉」なる人物の正体について推測をはじめる者も現れた。
「俺は、寒川俊哉なんだよな……」
二つのアカウント、二つの人格。
どちらが本来の俺なのか――今なら分かる。俺は、『COLD』でも『リバー』でもなかったんだ。
『COLD』は、自分が心のどこかで憧れていた優等生。
『リバー』は、リアルでは決して実行できない行為に走れてしまう悪童。
二つの顔は、ともに俺が現実ではなれなかった幻影だったのだ。
「…………おっ」
自分自身と向き合っていると、仁原その他荒らし軍団がレスをつけてきた。
② :『俺らはSANの指示どおりに動いただけのこと。それ以上は
知らねーんだわ』
リラ :『そうだそうだー』
田武神:『悪いのは全部SANだし』
荒らし軍団の長の正体が『SAN』であると暴露されてしまった。
……仁原の野郎を口止めしておくべきだったか。
「今度は日下が針のむしろになる番かよ……」
親交がある彼女が叩かれるところは見たくない……が。
「……多少は良い薬か。日下にも反省してもらわないといけないんだ。無罪放免は甘すぎる」
本件で反省すべきは俺、日下、金子、仁原と荒らし軍団だ。日下だって仁原たちを扇動して岳志や園田さんを攻撃したんだ。甘やかしちゃいけない。
太郎:『SANってやつが一番ヤベーのか』
二郎:『SANは責任全部取れよ』
三郎:『運営に通報してくるわ。そんな奴、学生広場から追放してやる』
案の定『SAN』――日下叩きがはじまってしまったが、皮肉にもこれで岳志と園田さんを叩けない雰囲気ができあがった。一番の被害者だった二人への火種はなくなったのだ。
それにしても、どいつもこいつも共通で悪だと断定できる者に対しては親の仇かのように正義の刃を振りかざすよな。匿名の鎧をまとってさ。SNSの嫌なところだよね、これ。
その間も仁原が掲示板やつぶやきで俺を
てか、こんなことしてたら普通にBAN対象になると思うんだが、それすらもスリルなのかねぇ。
「仁原のアホは気の済むまで好き放題暴れさせとくとして――」
【学生広場】の治安を著しく損ねる輩のことなどいちいち気にしてられるか。
COLD:『日下、終わりにしよう。こんなやり方正しいわけがない』
渦中の人物にDMを送った。
「日下、お前の負けだ」
もはや岳志や園田さんを叩く奴はいなくなり、矛先は日下へと移った。これで日下の悲願だった俺の【学生広場】引退への道はついえたわけだ。
返事を待っていると、スマホのバイブレーションが鳴った。着信だ。
「――日下」
かけてきたのは、今しがたDMを送った日下だった。
通話ボタンをフリックして通話状態にする。
「……もしもし。寒川だけど」
「……だって、こうでもしないと、寒川君SNSやめないじゃん」
「………………」
通話口から聞こえる日下の声は震えている。
今、自らが【学生広場】に置かれている状況のせいか?
――いや、違う。
「私が運営に寒川君の複アカを報告してもまた別のSNSをはじめそうだし」
「………………」
考えたことはあった。【学生広場】を追放されても新たな捌け口を探せばいい。今の時代、SNSなんて腐るほどあるのだから困りやしない。
「……何も言ってくれないんだね」
「……思い当たる節があったからな」
人は痛いところを突かれると、咄嗟に言い返すことすら忘れてしまうようだ。
「寒川君にはね……SNSにトラウマを持ってほしかったんだ」
おいおい、何やら物騒なワードをぶっこんできたぞ。
「そうすれば二度とSNSはやらないだろうから。もう傷つくこともないから」
――そうか。強引で乱暴なやり方だけど、日下なりに俺を想って……。
「どれだけ自分が叩かれようが、寒川君をこれ以上不幸にさせずに済むなら。それだけで十分なんだ」
「日下……」
とつとつと語る日下のか細い声を聞いていると、俺の心も痛くなってくる。俺なんかよりも日下の方が何倍も苦しくて、痛いだろうに。
「私と絶交しても構わない。それでもあなたには――寒川君には、楽しい高校生活を過ごしてほしいの」
俺にも事情があったとはいえ、日下にこんな行動を起こさせるまで追い詰めてしまったのは他でもない俺なのだ。
「自分の好きな人には楽しんでいてほしい。寒川君が私に言ってくれたように――笑っていてほしい」
日下の言葉の一つ一つが俺の胸を、心を打ち続けてくる。
「――それ以上はもう、何一つ望まないから……」
言葉が出ない。口を挟めない。
「お願いだから、どうか……もう、退会して……っ!」
悲痛な声と鼻をすする音が通話口から聞こえたあと、通話が切れた。日下が切ったのだ。
……日下の奴、まさか泣いてるんじゃ……?
SNSの世界に逃げ込んで現実から目を背ける行為は別に悪ではない。ゆえに日下の主張は一方的な駄々っ子の側面がある。
横暴な言い分に対して、何も言い返さないままじゃいられないんだよ。
日下の番号に折り返しを入れた。はっきりと伝えておきたいことが残っていたから。
「な、なに……?」
日下が電話に出てくれてホッとする。拒否される恐れもあったからな。
「聞いてくれ。俺、【学生広場】というか、SNS、やめるよ」
「えっ……!?」
なんで驚くんだよ。今日は最初からそのつもりなんだぞ。
「というか、今日いっぱいで俺のアカウントは削除されるんだわ」
「そう……だったんだ……」
電話口からは
行動開始前に自分が複アカを持ってることを運営に自白し、今日の騒動が終わるまで削除を待ってほしいとお願いしておいたのだ。
騒動を収めることを引き換えとして。
「だったら、昨日そう言ってくれればよかったのに」
「それじゃダメだったんだ」
「え……?」
昨日あっさり日下の言うことを聞いてしまえば、日下の悪事を
「【学生広場】でお前を屈服させた上で言わなきゃ意味がなかったんだよ」
「性格悪いよー……」
「お前も人のこと言えないんだが?」
ブーメランを投げ返すと、日下はしばし黙ってから再び声を発した。
「寒川君……その……本当にごめんなさい」
「俺に謝ったってしょうがないでしょ」
謝るべきは他にいる。岳志や園田さんはもとより、日下の個人的都合に引っ掻き回されたユーザーたち、そして不快な思いをした第三者のユーザーたち。謝る相手はたくさんいるんだぞ。
「――そう、だよね。……【学生広場】で謝ってくるね」
日下の
彼女はこうでないとな。
「あぁ、行ってきな」
「……うん。ありがとう」
日下がそう言うなり通話は切れる。
即座に俺が日下を庇えばこれ以上日下に火種が向くことはないんだが――多少は叩かれる痛みを味わってもらおう。
そうすることで、日下も真に反省できるだろうから。
日下――ファイトだぞ。
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