4th ep.クライマックス、そしてリスタート ②
それはそれとして、嬉しい出来事が一つ。
ヨシ :『宮下、この前は悪かったよ』
宮下 :『もういいよ』
ヨシ :『俺、陸上部なんだけど伸び悩んでてさ』
宮下 :『そうだったんだ』
宮下 :『僕も陸上部に入ってるよ』
ヨシ :『マジ!? うはー同士だ! こりゃ嬉しいな』
宮下 :『だねービックリだ』
ヨシ :『もっと色々語り合いたいな』
宮下 :『同じく』
ヨシ :『陸上の成績が伸び悩んでむしゃくしゃしちゃって。学生広場で鬱憤を
晴らしてたんだ』
ヨシ :『だからってこんなところで憂さ晴らしはどう考えても間違ってるよな。
リバーを見てて、俺も自身の行いを反省してるところ』
宮下 :『僕でよければいつでも話聞くよ。相談も、愚痴だって』
ヨシ :『……マジサンクス。今度ファミレスでゆっくり語り合おうぜ』
宮下 :『うん、楽しみにしてるよ』
陸上部同士、岳志と金子が意気投合したのだ。
これまで話を聞いてきた限り、他にも二人は得意科目や好きなものなど共通点が多い。接点を持った際に気が合うのは当然の
それにしても、金子にも悩みの種があったんだな。
岳志は本当に良い奴だ。スランプからひねくれてしまった金子の人格も、岳志と接することで元に戻ってゆくだろう。かつて俺を救ってくれた時と同じように。
思わぬ収穫があったところで次のステップに移るとしよう。
本件収束の絶対条件として、仁原のバカを止めなければならない。
アイツはSNSを荒らすことに快楽を見出している。今は岳志や園田さんが恰好の
ならば、それに代わる餌を用意すれば、そっちに興味が移る望みがある。そこに賭ける!
リバー :『おい②。宮下やタクを叩くのはやめて俺にかかってこいや』
個人同士のやりとりのDMではなく、あえて他のユーザーの目に留まる掲示板に書き込んだ。
仁原が今しがた書き込んだスレッドだ。すぐさま俺のレスに気づくはず。
② :『何興奮してんだか知らんけど、お前は叩きの対象じゃないから』
案の定すぐに俺のレスに食いついた仁原。
② :『お前をやれとは頼まれてねーんだわ』
リバー :『そんなこと言って、俺を潰せる自信も実力もないのを隠そうと
するなよ。
② :『ん? んん?』
リバー :『俺を言い負かせられないヘタレが弱い者イジメとはだせぇなぁ』
リバー :『顔も見えないネットでしかイキれないとかしょっぱすぎるわ』
リバー :『リアルで疎外されてるからってネットで憂さ晴らしするなよ。
虚しい野郎だなぁ』
リバー :『あっ! お前ネットでも嫌われてたっけ。なんかごめんな』
② :『……分かったよ。宮下タク叩きは一旦やめてお前を叩かせてもらうわ』
リバー :『好きにしろよ。お前ごときが俺をどうにかできるんならな』
② :『あぁそうかい。なら楽しみに待ってな。お前のメンタルを
ゼロにしてやる』
リバー :『おうよ。根比べといこうぜ』
うむ。仁原が簡単に挑発に乗ってくれて助かる。
叩きの
この状況を利用して一つのスレッドを立ち上げた。
タイトルには『COLD VS リバー 直接対決が実現』と
それじゃ、さっそく――
COLD:『リバー、君はどうして罪なきユーザーを使って自治活動をした?』
COLD:『ぷりんを脅してまでやりかったことなのか?』
リバー :『お前に何が分かる』
COLD:『君が本当にやりたいことは、他にあるんじゃないか?』
リバー :『他……? 知ったような口叩くんじゃねーよ』
デスクトップPCとノートPCを併用し、二つのアカウントを操って掲示板に書き込んでいく。
完全に自作自演だけど、これはいわば自問自答――俺の中にいる二つの人格同士のぶつかり合いだ。
書き込みながら自身の考えを整理していく。
俺はどうしたいのか。結局何がしたかったのか。
【学生広場】に逃げ込んだ理由――
COLD:『君はかねてから荒らしを繰り返していた。特に部活動関連の掲示板を
荒らし回ってたな。なぜ?』
リバー :『俺は原因不明の怪我でテニス生命が絶たれた。それなのに、他の奴らは
のうのうと部活に励んでいる。なぜ俺が!? 俺だけが!? こんなの理不尽
だろ! 他の奴らと何が違ったってんだよ!?』
COLD:『君が叩いた相手は君に怪我をさせたか?
巻き込んで許されるわけがないでしょ』
リバー :『多少は許されるべきだろ!? 免罪符なんだよ俺の怪我はよ!』
COLD:『学生広場は君の
はき違えるな』
リバー :『黙って苦しみ続けろとでも言うのかよ……』
COLD:『ここで暴れて、君の気持ちはスッキリしてるのか?』
リバー :『それは……』
COLD:『どちらにせよ、君の個人的な恨みつらみの羅列を見せられる周囲の
気持ちも考えたらどうだ』
そう、
吐いてる側は多少なりともスッキリするけれど、聞かされる側は表向き「うんうん」と
しかも俺のタチが悪いところは、存分に吐き散らし、八つ当たりしても心は一向に晴れなかった点だ。
だから一度や二度ではなく、同じことを何度も何度も繰り返した。部活に励むユーザーを攻撃した。俺の無念をぶつけたかったんだ。
無限とも言えるほどに負の感情を作り出して、乱射していたのだ。
COLD:『悲劇の主人公だけしてなよ。不平不満を外にまき散らすのは
いい歳してすることじゃない』
リバー :『じゃあどうすりゃよかったんだよ!?』
俺だけが拠り所を失い、他の連中は何事もなく続けられている。それを、ずっと指をくわえて眺めてろっていうのか。泣きっ面に蜂じゃないかよ?
まだ大人じゃないんだ。分別がついてないと言われようとも、自分の感情を抑えられるわけが、ないじゃないか……!
COLD:『君は、あの時気づくことができなかった』
リバー :『あの時……』
COLD:『とある子に言われたよね? 片肘がダメでももう片方が残ってる。
死に物狂いで頑張れば、いくらでもやり直しはきくんだって』
COLD:『あの時が、ターニングポイントだった』
そうだ。
稲本の言葉は気休めじゃなかったんだ。口先だけじゃないことを、本人が実現して証明してくれていた。俺がかつて放った言葉を拠り所にして、ずっと必死に頑張り続けているんだ。
リバー :『あの時、気づいてさえいれば……』
COLD:『気づくもなにも、自分が言い放った言葉だよね』
リバー :『……ちげぇねぇ』
俺が間違ってたことが証明されたあの日、稲本は指摘して
それを俺は突っぱねた。拒絶した揚げ句、稲本を最も否定する言葉でカウンターを叩き込み、泣かせてしまった。
最悪の間違いを犯してしまった決定的瞬間だった。
稲本が許してくれようが、俺がやらかした事実は消えない。反省しなければ同じことを繰り返し、消えない罪を増やし続ける羽目となる。
稲本の想いに応えるためにも、ここらで踏ん切りをつけなければならないのだ。
COLD:『もう、いいじゃないか。潮時だよ。お互いここらで退こう』
COLD:『現実を見よう。テニスも、勉強も、家族関係も――取り組むべきことは
山盛りなのだから。嫌なこと、辛かったこと全部飲み込んで、やり直して
みよう。目を開けよう』
COLD:『これ以上、逃げ続けちゃダメなんだよ』
リバー :『そう、だな……』
俺が【学生広場】をはじめて早九ヶ月弱。
長いようで……やっぱり長い九ヶ月だった。
楽しいと思える時間の流れは早いと聞く。つまり――そういうことなのだろう。
フレッシュな気分でいられた春先、高校生活初の夏休み、冬休みも思い出は【学生広場】だけだった。
その間、俺はずっと逃げ惑っていた。
上辺だけの普通の話も、悪い荒らし行為もたくさんしてきた。
もう、十分な時間逃げまくっただろ? 充電期間としては長すぎたくらいだ。
――いい加減前に向き直らなければならないんだよ。
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