3rd ep.ターニングポイント ⑥

    ▲▲▲


 帰宅後、【学生広場】に『COLD』でログインした。


COLD:『お疲れ様です』


タク  :『おう、お疲れ』


宮下  :『お疲れ。かしこまっちゃってどうしたのさ』


COLD:『二人に謝りたいことがあるんだ』


タク  :『謝りたいこと?』


COLD:『俺が、宮下中傷スレに書き込みをした一人だったんだ』


COLD:『宮下には直接謝ったけど、改めて申し訳なかった』


宮下  :『別にもう気にしてないよ』


タク  :『やっぱりお前も一枚噛んでたか』


宮下  :『タクの予想通りだったんだ』


タク  :『まぁな』


宮下  :『タクすごいね』


宮下  :『ちょっと待って、なんか今DMが……』


宮下  :『また②からだ』


宮下  :『「お前懲りずにまだ学生広場にログインしてんのか。早く消えろや。

     本格的に潰してやるよクソザコ陰キャが。COLDはこっち側

     なんだよ」』


COLD:『なんだって!?』


『COLD』はこっち側って……『②』は俺が『COLD』だと知っているのか……?

『COLD』と『②』はフレンドでもなければ接点すらもない。どこで知ったんだ?

 金子がチクった? いやアイツも俺と同じ馬鹿野郎ではあるが、軽々しく約束を破る人間ではない。

 奴は俺の複アカの件は他言無用にすると約束してくれたんだ。


タク  :『ん? 俺も②からDMが届いた』


タク  :『「お前みたいなミジンコ野郎が一丁前にCOLDと絡んでんじゃねーよ

     ゴミカス」だと』


COLD:『俺にはなにも届いてないぞ?』


COLD:『くそっ。②の野郎、どういうつもりだ!?』


 その後も二人には『②』から暴言DMが多数送られてきた。

 更に二人が件名のスレッドを建てて一人で罵詈雑言ばりぞうごんを並べて暴れている。

「ふざけた真似しやがって……!」

 ログインユーザーを『COLD』から『リバー』に切り替えて『②』にDMを送った。


リバー :『おい②!! てめえ何やってんだよ!?』


②   :『およ? どした? 何キレてんだよ? お前にゃ関係ないだろ』


リバー :『関係なくはねぇ。同じ高校の同士だからな』


リバー :『さすがに同じ学校の連中に手を出されて黙ってられるかってんだ』


②   :『は? ついこの前俺らと一緒に宮下叩きしてたのはどこのどいつだよ』


リバー :『あの時はどうかしてたんだよ!』


リバー :『とにかく! 宮下やタクを攻撃するのはやめろ!』


リバー :『でないと、俺がお前を叩く!』


②   :『そこまでほざくなら……そうだな、せっかくだから直接お前と会って

     みてぇ』


リバー :『オフ会か? また唐突だな』


②   :『んな大したモンじゃねーよ。顔合わせ程度よ。直接会って説明して

     やる』


リバー :『了解。集合日時と場所を決めよう』


 相変わらず訳が分からない野郎だけど……いいだろう。直接お前と対峙して、事と次第によっちゃタダじゃおかないからな!

 こうして明日の放課後に『②』と会う運びとなった。


    ▲▲▲


 翌日の放課後。

 オフ会の会場は『②』の指定で駅前のファミレスとなった。

 ――――のだが。

「おっせぇ……」

 待ち合わせ時間からかれこれ三十分が経過してるんですけど。アイツマジで何してんの? まさかバックレてないだろうな?

 DMを送っても応答なし。あんのクソ野郎、【学生広場】だけじゃなくリアルでの素行も最悪だな……。

 一向に到着しない上に連絡すら寄越さない『②』にイラついていると、学ランを身にまとった長身の男が俺のもとへとやってきた。

「お前、『リバー』だな?」

「……『②』か」

 いやまずは遅刻したことに詫び入れろや。

「俺は仁原和明にはらかずあき

 苛立つ俺の心情など知る由もないのか、はたまたスルーしてるだけなのか、『②』改め仁原はマイペースに自己紹介をしてきたので、これ以上余計なことを考えるのはやめにした。

「寒川俊哉だ」

 仁原の外見はやや筋肉質で人相の悪い顔立ちだ。金色に染まった髪の毛はボサボサ。学ランもだらしなく着崩しており、ズボンは腰から履いているのが分かる。丈はボロボロだ。

 コイツの第一印象を一言でまとめると、「ガラの悪いチンピラ高校生」だ。

 落ち合った俺たちはファミレスへと入店した。

「さっそくだが、なんであんな真似をした?」

「まぁ慌てるなよ。その前にお前が持ってる情報を教えてくれよ」

 実は仁原から荒らし行為の詳細を教えてもらう条件として、俺が持っている情報を提示しろと頼まれていた。

「俺の情報とは他でもない俺自身の話なんだが……」

 悪童あくどうの仁原に打ち明けるのは非常にリスキーだが、どうせコイツも知ってる内容だ。俺の口から話して、間違いないことを証明しようか。

「俺は――『COLD』でもある。『COLD』のアカウントも持っている」

「……それって」

「あぁ、想像どおりだ」

「ははは! やっぱりそうだったか! ヤツから聞いてたとおりだったとは! お前も危ない橋を渡ってんなー」

 仁原はおかしそうに笑う。危険なことや刺激が好きなのかもしれない。猟奇的りょうきてきな野郎だぜ。

「そりゃ『宮下』たちが叩かれたら怒るのも無理ねぇなー」

 そう、それが当たり前なんだ。むしろ叩く側に回った数日前の俺がどうかしてたんだ。

「で、昨日の荒らしの件だが。頼まれたからやっただけだぞ」

 頼まれた? 『ヨシ』こと金子は迷惑行為を自ら進んで実行するタイプではない。金子ではないとすれば……分からん。

「誰に?」

「お前が知らない人物の可能性が高いんだから名乗るだけ無駄だろ」

 ユーザー名ははぐらかされた。おいおい、一番重要な部分じゃん。

「とにかく。実行犯は俺だけど、指示したのは別にいるって話だから」

 裏で糸を引いてる奴がいたのか。

「俺が『COLD』ってのも、そいつから知り得たのか?」

「そうだ。半信半疑だったがお前の証言で確信に変わった。じゃ、あばよ」

 それだけ言うと仁原は店をあとにした。

 ――って帰んの早っ!? アイツ水しか飲んでねーじゃん。滞在時間五分すらなかったぞ……。

「マジでなんだったんだよ……」

 とんだ茶番だったわ。仁原と会話してる時間よりアイツを待ってた時間の方が何倍も長いっていうね……。

「店側からしたら迷惑でしかない客だな……」

 俺までそのまま帰るのははばかられたので、お一人様で早めの晩御飯としてハンバーグセットを注文した。

 仁原に頼んだ奴は『②』の関係者だよな。そこから考えると『リバー』周りの話だと思うが、標的にされたのは『COLD』のフレンドで岳志や園田さん。『COLD』と話すなとかほざいてたっけ。

(つまり、俺が『COLD』『リバー』の二つのアカウントを持ってると知ってる人物だよな)

 俺の複アカをバラさないと約束してくれた園田さん、岳志、金子、稲本、日下の他に俺の複アカを知ってる奴がいるのか?

 まさか、今挙げた五人の中に犯人がいるんじゃ――

 って、そんなこと考えちゃダメだろ。

「うおおっ、ハンバーグうめぇ!」

 ハンバーグのお味は絶品だった。ファミレスだからってあなどるなかれ。


    ▲▲▲


 翌日の夜も『②』の『宮下』『タク』叩き行為は止まらず、更に奴に便乗して叩きに加担する輩まで現れていた。

 状況は目に見えて悪化している。


リバー:『お前まだ続けるつもりかよ!』


②  :『しばらく続けてくれって頼まれてるからな』


ヨシ :『お前ら何揉めてんだよ』


②  :『別に揉めてねーよ。ヨシも参加するか?』


ヨシ :『うーん。今回はやめとくわ』


②  :『ちぇっ、つれない奴め』


リバー:『マジで誰から依頼されたんだよ……』


②  :『しつっけーなぁ……仕方ねぇ、教えてやるよ』


②  :『SANサンって奴から頼まれて暴れてんだよ』


リバー:『SANか。サンキュ』


②  :『言っておくが、止めようとしても無駄だからな。垢BAN覚悟でやりたい

    放題やるのが学生広場での俺流の楽しみ方なんだよ。危ない橋を渡ってる

    のはなにもお前だけじゃないってこった』


ヨシ :『難儀な趣味だな』


②  :『オメーも人のこと言えねーだろw』


ヨシ :『確かにw』


②  :『それから、SANからCOLDへ伝言がある。「これ以上フレンドが攻撃

    されたくなければ学生広場をやめることだ」。お前、面倒なのに粘着され

    ちまったなww』


リバー:『まったくもってそうだな……』


②  :『お前がどんな答えを用意するか楽しみにしてるぞw』


【学生広場】で見たことはないが、『SAN』とかいう奴が『②』にふざけた依頼をしたらしい。

 情報を集めようと『SAN』のプロフィールなどを確認しようとしたところで『ヨシ』からDMが届いた。

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