第38話 いざ、デート!

 そして翌日。

 セイコは友達と遊ぶ時には絶対着ない完全なデート仕様の服で武装していた。

 背が高いのでモーレツに見栄えがする。

 セイコママは感心して、


「ほぉ。あんた、そげなワンピース持っちょったんやね~。いつ買ったんね?なかなか可愛らしいやんね。」


 素直な感想を述べた。

 褒められたので嬉しがっていると、


「着たまんまスカート捲り上げてされるね。してもいいけどゴムだけはせなよ?持って行きよるね?」


 これである。


 上げてから、からかう。


 ホント、どうしようもない親だ。

 実は誕生日(5月)にからかい目的でゴムをひと箱プレゼントされていた。おかげでことあるごとにからかわれる。

 とはいえ興味あるお年頃でもある。

 いい感じの棒状のものやピンクローターに被せ、有効活用しているのは秘密だ。

 といったマ●ズリ事情は置いといて。


「もう!なんでそげなことばっかりゆーと?お母さんのバカ!」


 最早お約束のやり取りである。


 約束の時間が近づいてきたので孝満に家を出る旨を連絡すると、「いいよ!」とのことだったので早速向かう。




 ソワソワしながら部屋で待つ孝満。

 しばらくすると、庭でクルマの音。

 外を見ると、最早見慣れた黒のミニカダンガンZZ。

 モーレツダッシュで出ていくと…セイコがちょうどクルマから降りるところだった。


 その姿は完全にどこかのお嬢様のようで。


 こうなってくると際立つのが孝満の服のセンス。

 ある意味強烈に光っていた。

 具体的には、

 ヨレヨレTシャツ(醤油や油による食い溢しの染み多数)。

 シマノの村田基氏もビックリの、ヨコイナリしそう(=×。実際、する)なピッチピチの半ズボン。

 勿論、Tシャツはズボンにinしている。

 靴はホームセンターに売っているクロックスのニセモノで、右の踵の紐だけが取れてなくなったヤツ。

 しかもなぜか今日に限って靴下なんか履いている。通学用と思われる白の靴下。なのは、譲りたくなくても百歩譲ったとして、左右で微妙に長さと模様が違っているという…。


 なんというか、もう…。


 中二といえば男子でもオシャレに気を使うようなお年頃だというのに、激しい残念臭。


 母親はおシャレにも敏感で、今時の若者のファッションにも詳しい。

 カッコイイ部類に入る息子を着せ替え人形にして楽しみたいところなのだが、母親が買ってきた服はかたくなに拒絶する(←拒絶することがカッコイイと思ってしまっている。一種の中二病みたいなもの)ため、できないでいた。代りに妹がオニのように服を買ってもらっている、といった有様。

 参考までに、孝満の妹は5つ年下で、セイコの妹と同い年。小学校は違うけど一緒に遊ぶくらいには仲がいい。そして孝満のコトはダサいから大嫌い。必要なこと以外喋らないほど仲が悪い。


 そんなダサダサ孝満なのだけど、セイコ的には女子ウケしそうにないから、これはこれでOKだったりする。よって、ダメ出しはしない。あえて小汚いままにしておいて、他の女子を寄せ付けない作戦なのだ。

 心配事は増やしたくないタチ。


 家から出てきた孝満の姿を見て、今日も平常運転であることに安心する。


 クルマから降りたセイコは助手席のシートを倒してあげる。


「こんちわ。おじゃましまぁす。」


 セイコママに挨拶すると、狭い後部座席に乗り込んだ。セイコはシートの背もたれを戻し、助手席に座る。←これまでに数度、22話でやられたことと全く同じことをやられたため警戒している。


「あら?隣に座らんでいいとね?」


「いい。お母さんがいらんごとするき。」


 いつものくだらないやり取りが始まる。



 勝手口から出ていく音がしたのを聞いて嫌な予感がした孝満ママは、バタバタ用事にキリをつけ、


「あんた!ちょー!」


 急いで家から飛び出してきたものの…一足遅かった。


「ホント、あのバカだきゃ~。」


 恐らく…否、確実にみっともないカッコをしているであろう我が子に頭が痛くなる孝満ママだった。




 駐車場に辿り着いたのはいいが、今は夏休み。人出が多く、微妙に混んでいて進みが悪い。やっとのことで空きスペースを発見し、クルマを止めるとそこからは歩き。


「じゃーね。ゆっくり遊んでおいで。母は買い物をしてまいりま~す。帰り、呼びなさいよ。」


 と言い残し、去っていくセイコママ。


 二人、ビミョーな距離を取って歩いていく。

 ホントは手を繋いで歩きたかったりするのだけど、行きがけのクルマの中、目一杯からかわれたおかげでかなり恥ずかしい。

 そのせいで実行できないでいた。


 途中、


「イオンやらあんまし行かんき、ジロちゃんたちおらんとどこに何があるかよー分からんっちゃんね。オレ、何でも楽しいっち思えるき、木藤さんが好きな店入っていいよ?っちゅーか、入って?」


 早速お願いする孝満。

 嬉しい一言だった。

 好みで見て回ることにした。




 若者向けの服屋にて。

 何やら男性用の服を選んでいるセイコ。


 お父さんのかな?でもここ若い人向けやしな。妹しかおらんはずなんに…もしかして他に好きな男がおるとか?


 ビミョーに心配になってくる孝満。

 でも。


「…あ、あの…こ、これ、着てみて?」


 心配するまでもなかった。


「え?」


 自分に向けて差し出された服に驚く孝満。

 似合いそうな服を何種類も選んでくれていた。

 瞬間、好きが爆発する。


「分かった!」


 嬉し過ぎて奪い取るように受け取った。

 更衣室に入り着替える。

 少しして、


 シャッ!


 カーテンが開く。


「お~!」


 思わず歓声を上げるセイコ。

 まるでモデルのようだった。

 同世代の女性客の目線が集まる。


「どげ?」


「…うわ~…いーね。」


 純粋に感動している。


 褒めてもらえたことがこんなにも嬉しいとは!


 喜びまくっているところで、


「んじゃ、次のも。」


 素直に着てみると、


「…お~…いーね。」


 またもや感動。

 脱いで着替えたところで受け取って、


「こ、これ、買ってくるき、待っちょってね?」


 レジの方に行ってしまった。


「は?どゆこと?」


 孝満的に意味不明な展開に、


 木藤さん、服買ってくれるっちコト?そらーいかんやろ!


「ちょ、待った!買ってくるっち、そらーダメやろ!お金!」


 財布を出していると、


「じ、実はね、草杉くんのお母さんからね、頼まれちょったん。お、お金、貰っちょったき、だいじょぶばい。んじゃ、買ってくるね。」


 行ってしまった。

 これまでのやり取りで、


 マジでか。木藤さんに買わせて着させる作戦やったんか!


 母親の作戦にハマったことを読み取った。

 とはいえ大変気になる子から選んでもらった服である。

 その嬉しさといったらただ事ではないわけで。

 母親が買ってきたら絶対に穿かないスリムなジーンズでさえも、これからは履いてみようという気になるのだから不思議なものである。


 レジを済ませ戻ってくると、


「はい、お釣り。お、お母さんに返しちょってね。」


 茶封筒を渡される。

 そして、


「い、今買ったの…ほ、他の女の子の前では絶対に、着らんでね?」


 不自然な注文。

「絶対に」にものすごく力がこもっていた。

 無意識に独占欲が爆発してしまったのだ。


 これっち…オレのこと好きなんよね?


 秒で正解に辿り着いてしまった孝満だが、そこは自己評価が低いヘタレ。

 すぐに、


 いやいやいや。自意識過剰は大事故のもと!


 いつもの展開になってしまう。




 それにしても嬉し過ぎる。


 こんなにも二人きりが嬉しいとは!また、来たいな。


 とは二人の心の声。

 デートの味を占めていた。

 ガッツリ二人の世界を築き上げ(とはいえ恥ずかしいから少し間が空いてはいるが)、色んな店を回る。


 あまりにも嬉し過ぎて、楽し過ぎて。

 完全に油断しきっていた。

 雑貨屋で可愛らしい小物を物色していると、


「ふーん。昨日誘い断ったの、そーゆーことやったんやね~。」


 背後から聞き覚えのあり過ぎる声。

 仲良しグループ4人の登場である。

 ビクッとなり、恐る恐る振り向くセイコ。

 モーレツに気まずい顔をしているのに対し、イヤラシイ笑顔の4人。

 呆気なく


「なん?こーまんとデート?」


 言い当てられてしまい、


 シクったな。気ぃ悪ぅしたかな?


 罪悪感が溢れだす。

 幸いにも孝満は少し離れたところで面白い小物を見ている。

 正直に、


「…う、うん。」


 そうであってほしいという自分の願望そのままに肯定した。


 こいつらにかかっては孝満もイジリの対象であるから、


 なんかイヤごとゆってくるかな?それとも人前でからかわれるかな?


 この後の展開が憂鬱になってくる。

 心配そうな態度がモロに出てしまっているため、端から見るとかなり挙動不審である。

 しかし予想に反して、


「邪魔したら悪いき、オネーサンたちは退散しますかな。」


 あっさり去っていった。



 入れ替わるようなタイミングで戻ってきた孝満。

 セイコの顔を見ると、なんだかビミョーな表情になっていたので心配になって、


「なんかあった?」


 尋ねてみると、


「…え、い、いや、あ、あの…ね?」


 えらく歯切れが悪い。

 先ほどの驚きがまだ治まっていないのだ。

 優しく、


「どしたん?」


 先を促すと、


「あ、アイツらもココ来ちょった。ビックリしたぁ…。」


 気まずそうに答えた。

 続けて、


「う、ウチね、き、昨日アイツらにね、イオン行こうっち誘われたんちゃね。」


「よかったん?そっち優先してもよかったんに。」


「いやね、アイツら誘ってきたのね、帰ったあとやったきね、こっちの方が先やったん。」


 なるほど、そういうことか。


 しかし嬉しい。仲良しの友達よりもこっちを優先してくれたとか!


 好き好きポイントがまたさらに上昇した。

 後日、二人してイジラレまくったのは言うまでもないのだが。




 家に帰った孝満はというと。

 セイコから渡されたお釣りを母親に返すため、台所に行く。


「はい、これ。」


 差し出すと、振り返って服装を見られるなり、


 は~~~~~…。


 大きな溜息の後、


「もぉ~…ホ・ン・ト、勘弁しちゃらん?」


 呆れ果てられたのだった。

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