第37話 お出かけ決定!

 孝満の部屋にて。


「…な、な、なんかごめんね、う、ウチのお母さんが。」


 申し訳なさそうに謝るセイコ。


「いやいや。それはウチもやろ。」


「うん、まぁ、そ、そうやけど。」


「止めてほしいよね?恥ずかしいのに。」


「…うん。ホント、それ。」


 互いに謝りあったトコロで、


「夏休み、何しよった?」


 やっと本題に突入。


「う、ウチはね、い、いつものみんなでね、イオンやらに買い物とか行ったよ。」


「そうなんて。オレもいつものみんなと釣りばっかかな。」


「ふーん。」


 先程冷やかされたこともあり、二人きりがものすごく恥ずかしい。そのため、ちょいちょい会話が途切れてしまう。

 これがまた気まずくて。


 なんとか自然に会話できるようになった頃、庭の方から


 シュシュシュグオ――――ン…


 エンジンがかかる音。そして、


 グオ―――――ン、プシュー!グオ―――――ン、プシュー!…


 去っていく音。


「あーっ!お母さん、何も言わんずく置いていきやがった!」

 訳:何も言わないで


 少しオコな表情で不満をタレていると、信号に引っ掛かっただろうタイミングで、


 ピロン。


 着信音。

 見てみると、


『タカくんのお母さんが送ってくれるっちやき、ゆっくりしてき?ナマでしてもいいけど外に出しなさいよ。』

 訳:送ってくれるそうだから


 とのこと。

 ついつい生々しい場面を想像してしまい、真っ赤になりながら、


「もぉ!ホント、お母さんは!バカ!」


 恨み言を吐きながら、


『うるさい!そげなことせん!』


 返信した。


「何ち?」


「ん?あ、な、何でもないよ?バカらしいことをね、送ってきた。な、なんかいっつもゴメンね。草杉くんのお母さんがね、送ってくれるみたい。」


 からかわれて恥ずかしい思いはしたものの、一緒に過ごせる時間が引き伸ばされた。

 このことが純粋に嬉しくて。

 よってセイコは内心ニッコニコである。

 これは孝満も同じで。


 せっかく逢えたんやき、遊ぶ約束できたらーいのにな。


 二人して考えるものの、


 こんなの恥ずかし過ぎて言えるわけないやん…。


 あまりのハードルの高さに心が折れそうだ。

 タイミングを探るからどうしても会話が途切れ、不自然な間が生まれてしまう。

 おかげでかなり気まずい。


 悩みに悩んでいるところで、


 コンコン。


 ノック。


「な~ん?」


 返事すると、


「ちょーいーね?」

 訳:ちょっといい?


 母親の声。

 気になる子と一緒にいるのに母親の登場は恥ずかしいので、不機嫌さを作り、


「あ~い。」


 ドアを開ける。

 その隙間から顔だけを出して、


「あんたら、せっかく夏休みなんやき二人でどっか遊びに行って来ればいーやんね。」


 言えなかった言葉を代りに言ってくれた。

 二人して


 グッジョブ!タカくんのお母さん!


 グッジョブ!オカン!


 大喜びである。

 そして、しばし(とはいっても何秒か)考える二人。

 で、沈黙を破ったのはセイコ。


「…あ、あのね?え、えっと…ね?」


「うん。」


「あの…い、イオン行ってみらん?あっこならいろんなモンあるき、ひ、ヒマすること、ないよね?」


 申し訳なさそうに誘ってくる。

 すぐさま、


「いいよ!」


 良い返事。

 あまりの嬉しさに、ものすごく食い気味になってしまっている。

 でも、この反応が嬉しくてたまらない。


 孝満はというと、


 ヤベ!また食い気味に。


 反省するのだけど、気になる人からの誘いだから意識していても反射的にそうなってしまう。

 照れつつも、


「いつ…行くん?」


 聞いてみると、


「…あ、明日…とか?」


 流石にがっつきすぎか?とも思ったセイコだったが、間は開けたくない。開けると連絡しにくくなるから。

 というのもあるけど、できることなら毎日でもこうしていたいのだから。


「分かった!」


 二度目の良い返事。

 今日は嬉しさマシマシだ。

 欲を言えば下ネタ満載のからかいが無ければもっとよかったのだが、結果オーライ。

 親には感謝だ。


 せっかく逢うのだから、できるだけ長い時間一緒にいたいというのが本音。

 だから、自然と午前中から、ということになる。


 お出かけ(=△、デート=○)が決まった瞬間。


 もう、これだけで嬉しさが止まらない。



 この様子の一部始終を目の当たりにしてしまった孝満ママは、


 うっわ~…甘酸っぺ~!


 叫びたくなる衝動を必死で抑え込むと、冷静さを装い


「決まったみたいやね。んじゃ、セイコちゃん、ちょー来てん?」


 おいでおいでをしてセイコだけを部屋の外に連れ出してしまう。


 何しよっちゃろ?

 訳:何してんだ


 孝満が疑問に思っている頃。


「あのバカ、おばちゃん選んだ服いっちょん着やがらんっちゃき。今もやけど普段着、雑巾みたいやろ?だき、セイコちゃん選んでやって?そしたら絶対喜んで着るはずやき。」


 重大な任務を言い渡されていた。

 好きな人の服を選んであげられることに嬉しさを隠せないでいると、


「フフフ。これ、よろしくね!自分が買ってやったフリしてサプライズしちゃり。お釣りが出たらお小遣いにしちょっていーき。」


「あ…は、ハイ!」


 茶封筒に入ったお金を預かった。

 それから部屋に戻り、しばらくおしゃべりをして帰ることになった。




 家に帰ると、


「おかえり。まあまあ遅かったけど、何発したとね?」


 いきなりこれである。


「うるさい!そげなことしちょらん!」


 恥ずかしいので、とりあえずいつものように怒ったフリして誤魔化した。

 帰ってからこれまでの間に孝満ママとのやり取りがあったのだろう。


「あんたたち、明日イオン行くんやろ?タカくんの服買いに。」


 セイコからは何も言ってないのに全て把握されていた。


「うん。」


「なら、送り迎えしちゃーね。どーせ大した小遣いやってないっちゃき、お金無かろうが?」


 それはまさにその通り。

 有難い提案なので、


「うん。」


 素直に喜んだ。


「なら、タカくんに連絡しちょき。」


 とのことなので、早速孝満に伝えた。

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