第33話 雨といえば相合傘。いざ、相合傘!
靴を履き替えるといよいよ相合傘タイムの始まりだ!
位置関係は左がセイコ、右が孝満。
歩き出してすぐ、屋内で見たよりもはるかに強い雨だということが分かる。
風も強く、断続的に降りこんでくるから足が冷たい。そして、衣替え間近の時期なのでまだ夏服。これが意外と寒い。
傘自体、特に小さいわけではないが、恥ずかしさが先に立ち密着できないセイコは防御範囲から少しはみ出てしまうせいで徐々に肩が濡れてくる。
それでも、
ちょっと冷たいかも。でも、帰ってすぐお風呂入れば風邪ひかんよね?これ以上近付くの、恥ずかしいし…家まで我慢しよ。
あと少しの距離を縮めることができないでいた。
しばらくするといよいよ体が冷え切り、
へっくち!
可愛らしいクシャミ。←孝満の前でしたときのことを想定し、密かに練習しておいた。一人の時や女友達といる時はもっと下品。「ぶえっくしょ~い!おりゃ~!」みたいな。その時は鼻水ぶちまけたり痰を飛ばしたりすることもある。
反射的にセイコの方を見ると、
うわっ!やべ!木藤さん、肩、濡れてしまいよるやん!
一目で分かるほどの濡れっぷりに、
このまんまじゃ風邪ひいてしまうばい!
焦りまくって、
「ごめん!全然気付ききらんやった!肩、でったんビショビショやん!もうちょいこっち寄らんと!」
傘を持ってない方の手で引き寄せた。
反射神経が非常に鈍いセイコは無防備の状態で急に引き寄せられたりすると対応できなくて。
結果、お約束の如く盛大によろける。
勢い余り、
「ぅわっ!」
小さな悲鳴。
ヤベ!激し引っ張り過ぎた!っちゆーか、オレが寄ればよかったんやん!
考えなしの行動に呆れ果てる。
引っ張った方の手で庇おうとした瞬間、
むにゅ❤
とか、
フワッ❤
とか
ホワッ❤
とか、文字で表すとそんな感じの、とんでもなく優しく重量感を伴った弾力の中に腕が埋まり込んだ。
こげなことっちある?よろけたの支えて胸触るとか…。
最早漫画やアニメでも見ないようなハプニング。
何が起こったかは十二分に理解できてしまっている。
しかも意識し過ぎるほどしている者同士。
今の体勢はというと、限りなくハグに近い。
ほぼ0距離で視線が重なる。
顔、近っ!しまった!オレ、マジで何しよーん?
サーッと血の気が引き、咄嗟に、
「あのっ!ごめん!わざっとやないんっちゃ!」
謝った、が…。
うっひゃ~!顔、ドアップ嬉し過ぎ!
内心大喜びなのである。
耳まで真っ赤になって恥ずかしそうにはしているものの、
「…フフフ…そ、そげん…謝らんだっちゃ…い、いいのに。」
訳:そんなに謝らなくても
全く怒っている風ではない。
それどころか嬉しそうにさえ見える。
よかった~…怒ってねぇごたー…。
訳:怒ってないみたい
ひとまずホッとした。
セイコはというと、
わざとでもタカくんやったら嬉しいっちゃけどね。何ならナマで触っても怒ったりせんけど。っちゆーか、むしろ触ってほしいけど。いつか絶対触ってもらうけど。
かなりえっちぃことを考えていたりする。
ベッタベタなハプニングのせいで互いに照れてしまって会話が致命的に続かない。
テレビネタでも話すことができればいいのだが、元々あまり見ない派で、ここ何年かは特に見ていない孝満。
そのため流行りの芸能人ネタには全くついていけない自信がある。
だからといって趣味の話をしようにも釣りぐらいしかない。あとはエロい動画を見ながらチ●ポをシゴキ倒すぐらい。
相手は女の子なので、そんな話には興味なんかあるワケが無いだろう(と、勝手に決めつけているが、セイコ的にはどちらにもモーレツに興味はある)。
激しく意識してしまっている女の子だからこそ、つまらないハナシをしてドン引かれたくはない。
彼女は大人しくて謙虚で優しいから、相槌くらいは打ってくれるだろう。でも、そこにつけこんで一方的に盛り上がるコトだけは絶対にしたくない。
そんなことならば喋らない方がよっぽどマシ。
にしても、沈黙は気まずいのだけど、同時になぜか妙に心地いいのは何故?←答:好きだから
このままずっと相合傘続いたらいいのにな。
なんてことを考えている二人。
それからさらに歩くのだけど…やっぱり致命的に会話が続かない。
ヤベー。オレ(ウチ)はいいっちゃけど、セイコちゃん(タカくん)ゼッテーつまらんっち思っちょーばい。
同じことで悩んでいた。
せっかくの二人きりなのに…。
話下手な性格が恨めしく思えてくる。
この状況をどうにか打破したいセイコは、
えっちぃハナシしたいけど、ドン引かれたらイヤやしな。ウチが一緒に行ってない時の釣りの話、してくれんかな。
と思っているのだけど、一向にしてくれる気配がない。
だから、
何もせんやったら帰り着くまでこのまんまよね?なら、こっちからハナシフッてみるの、ありかな?
勇気を出して実行に移してみた。
沈黙が訪れたタイミングで、
「…あ…あの…う、ウチ行ってなかった時の釣りのハナシ、して?」
おずおずと聞いてみると、一瞬戸惑った表情をしたものの、
「そぉねぇ。っち、そげなん聞いて面白いん?」
「…う、うん、お、面白いよ。」
どうやらホントみたい。
勝手に盛り上がってしまうのは申し訳ないから、
「そっか。なら…いちばん新しいの…昨日、ジロちゃんたちと前の川行ってね、30cmぐらいの一本釣ったよ。っち、マジ、こんなんで面白い?」
フラットな口調で続けることにした。
でも、セイコ的には話してくれたこと自体がとても嬉しくて。
「…うん。お、面白いよ。」
会話が終わってしまいそうになったから、さらに勇気を出して、
「こ、こ、今度、また、つ、連れてって?」
やっと!
やっと、遥花や朋美の助けなしで言えた!
ビックリしている孝満。
少し間を開け、
「…い、いいよ!」
嬉しそうな顔でOKした。
これがきっかけとなり、終わりかけた会話が再び盛り上がる。
「でも、釣り場、今の時期、まだまだ虫おるよ?」
「あ、う、ウチ、む、虫、全然だいじょぶばい。」
「もうだいぶん暑くなくなってきたけど、日焼けとかは?」
「…き、気にせんよ?ウチね、白いきね、もっと焼けてもいいくらいやし。」
「ふうん。なら、予定が合う時一緒いこ?」
「…うん!」
こんな調子でポツリポツリと話ししながら歩いていると、
さっき胸に腕当たった時、濡れたウチのこと、ものすご心配してくれよったな。あんな風にされたらなんか脈あるっち勘違いしてしまいそう。っちゆーか、これまでのリアクションからしてちょっと期待できたりする?
一緒釣り行きたいとか嬉しいやん!これっち脈があるっちゃないん?無いなら行きたいとか言わんよね?期待していい?いいよね?
互いの「好き」が溢れだす。
まさに相合傘効果!
でも、不器用で臆病な二人は、
…っちいーよろ。いかんいかん。自意識過剰はダメ。もし違かったら…勘違いやったら悲しい思いするき、深く考えんごとしちょかんとね。
訳:…とか言ってみたりして。
妄想の後、ブレーキを掛けた…つもりだったけど、胸に宿った想いは加速度的に膨らんでいき、やめられない止まらない状態にまで発展するのだった。
多分これ、どちらかに別の相方できたりした日にゃマジで発狂し、精神蝕まれるヤツ。
幸せな時間はやがて終わり、セイコの家に到着。
塀の切れ目から中に入ると、見覚えのある黒い軽自動車が止まっていた。
「…あ…お、お母さん、もう帰ってきちょったんやね。は、反対方向なのに、あ、ありがとね。助かったよ。気を付けて帰ってね?」
「うん。じゃーね。バイバイ。」
「…じゃね、ばいばい。」
小さく手を振るセイコ。
雨の中、傘もささずに見えなくなるまで見送った。
家の中に入り、濡れた服を脱いだ。既に風呂が沸かしてあったのでそのまま入る。
ボチボチ涼しくなってきつつあるのに夏服のせいでかなり冷え切っていた。
湯船に浸かると心地よい暖かさ。
十分温もったので上がることに。
髪を乾かしているところで背後に気配。
鏡に目を移すと母親が立っていた。
一旦ドライヤーを切って振り向くと、
「あんた、タカくんに送ってもらったんやね。」
嬉しそうに聞いてくる。
バレていた。
「なぁ~ん~?」
文句を言おうとするけど母親はどうやら全てお見通しのようで、
「なぁ~んも。よかったね。」
とだけ言って台所の方へ。
どうにも居心地が悪いので、とりあえず、
「うるさい!知らん!」
怒ったフリして誤魔化したら、
「なんで帰らせたん?言えば送ってやったのに。」
反撃された。
あっ!!!そうやん!なんでウチ気付かんやったん?
その後出しはいくらなんでも反則だ。
悲しさが溢れだした。
帰り道。
セイコちゃん、でったん可愛いやんか。しかも優しいし。オレ、でったん好きかも!いや、「かも」やない。好きやん!
治朗に指摘されたことを改めて自覚したのだった。
バッチリ両片思いになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます