第32話 雨といえば相合傘。お誘い❤
夏休み気分もほぼ抜けた(と思われる)9月下旬。
体育祭も無事終わり、これから文化祭の準備へと移っていくのだけど、その前に。
嫌なことこの上ない中間考査をやっつけないといけないわけで。
只今試験一週間前。
今日もみんなで頑張った。
既に外はだいぶ暗くなっている。
試験前ということで学校はいつもより早く閉まるから、ボチボチ帰らなくてはいけないのだけど、今日に限って雨。しかも結構な勢いで降っていて、止む気配はまったく無い。
セイコは母親を呼ぼうとしてポケットのスマホに手をかけるものの、
あ…そっか。お母さん、おばちゃん家の用事で18時過ぎるかもっち言いよったんよね。
思い出し、
今、何時かね?
確認するけど、母親の言っていた時間はまだだいぶ先。
まだ終わらんね。今、電話してもすぐには来られんのやんね。
ちょっとガッカリ。
つるんでいる友達に、
「きょ、今日、お母さん用事で遅いっちゃんね。御一緒させてもらえなくって?」
頼んでみるものの、
「ごめん。ウチ、今日帰りに寄るとこあるみたいなんよね。」
こんな時に限って見事なまでに全員が同じ内容の返事。
まぁ、期待していたわけじゃないから大したダメージではないのだけど。
それよりも、
失敗こいたや~…折り畳み傘持っちょーんに、なんでバッグに入れちょかんかな。これじゃ、持っちょー意味無いやんか。
訳:失敗したなー
自分のアホさに心底呆れてしまう。
10分ほど喋っていると、遥花の方から着信音。
どうやら親が到着したようだ。
電話を切ると、
「送っちゃられんでごめんね、セーシ。んじゃね~。」
訳:送ってあげられなくて
手を振って教室から出ていく。
「ううん、いーよ。バイバイ。っち、その呼び方、やめろ!」
「はいは~い。」
いつものツッコミでパターン成立。
この後、葵、朋美の順に似たようなやり取りを繰り返す。
残ったハルとおしゃべりしながら時間を潰していたけど、やがて着信音。
「うん。分かった。」
受け答えから迎えが来たのだと分かる。
「んじゃね~、セイコ。また明日。」
「うん。バイバイ。」
教室から出ていった。
他に誰もいなくなり、一人になってしまったセイコは、
「あ~あ…朝、晴れちょったのになぁ。」
外を見つめながらぼやく。
このままボケーッと待っていても仕方がないから試験勉強の続きをすることにした。
30分ぐらい経った頃。
黙々と勉強していると、
「木藤さん?」
声をかけられた。
タカくんやん!
大好きな人の登場にブチ上がるテンション。
ニヤケそうになるのを堪えながら、
「…あれ?く、草杉くん、まだ残っちょったんやね。」
喋りかけると、
「うん。図書室でジロちゃんたちと試験勉強しよったきね。今終わって、みんな親呼んで帰った。オレは親が迎え来れんっち言いよったき、このまんま帰ろっかなっち思って。んで、教室の前通ったら誰かおったき見てみたん。」
とのこと。
ここで。
いかにも!な、偶然を装っている孝満なのだが、違う、そうじゃないby鈴木雅之。
このような目立ちまくる特徴(この場合、胸じゃなく金髪ロングの方)の女子生徒はセイコしかいない。しかも教室に一人だけなので確認するまでもない。
よって、偶然なんかじゃないのである。
で。
このシチュエーションで声をかけるということは、意識しているということでもある。
実際、端から見るとモロバレで、見ている方が恥ずかしくなるくらいあからさま。
一緒に帰っていた治朗はこの空気に当てられるのがキツいので、
「タカちゃん、オレ、オカン待たせちょーき行くね。」
と言い残し、返事も聞かずにこの場を後にした。
まさか気を使われているとは思っていない孝満は、「自然なやり取りができた!」と思い込んでいたりする。
セイコはセイコで鈍いし、やっぱしちょっぴりおバカさんなので、
「…そ、そーなんて。」
言葉通りの意味に捉えていた。というわけで、残念ながら今回も互いの「好き」は伝わらない。
「うん。木藤さんは?」
「…う、ウチもね、こ、ここでね、試験勉強しよったん。で、で、でもね、草杉くんと同じでね、み、み、み、みんなね、お、親迎え来たきね、帰ったんよね。ウチもね、お母さん待っちょーっちゃけどね、きょ、今日ね、遅いっちゃんね。も、もーちょいしたらね、用事済むはずやきね、そ、それからね、で、で、で、電話してみよぉっち思いよん。」
訳:待ってるんだけどね 電話してみようかと思ってるんだ
鼻にかかる甘い声。
舌足らずでやたら「~ね」が入る独特な喋り方。
少し桃色に染まった頬。
合わせようとしてすぐに逸らしてしまう視線。
ツーショットになると、改めて可愛さを実感する…のは、いいとして。
困った顔が少し気になった。
「お母さんを待っている」ということは、傘を持ってきてないということでもある。
今のニュアンスやったら、オカン迎え来れんっち可能性もあるんよね?学校も今は試験前やき、はよ閉まるやん。来れんやったら閉め出されてしまうよね?そげんなったら、濡れて帰らないかんくなるき、風邪ひいてしまうかもやん。どげんしたら…。
13年落ち、エロ特化型超低性能セ●ズリ専用脳内コンピューターをフル稼働させ、
「あ、あの…えっと…も、もしかしたら、親、でったん遅くなるか、来れんかもっちこと?」
聞いてみると、
「…あ、う、うん。そーやね。ど、どっちも可能性あるね。」
やっぱし。
「それじゃ学校閉まるき、ここで待たれんくなるやん?」
「う、うん。」
へ?この流れ…。
いくら鈍くても、流石に気付き始める。
そして、次の瞬間、
「そげなったら傘無いまんま帰らなごとなるき、ビショビショになるやん。い、イヤじゃなかったら…入っていかん?家まで送るよ?」
訳:そうなったら傘無いまま帰ることになるから
嬉し過ぎる提案、キター!
っちゆーことは、相合傘…よね?
まさかの展開に嬉しさ大爆発。
こんなの断る理由なんかこれっぽっちもない。むしろお金を払ってでもお願いしたいくらいである。
「えっ!い、家、ぎゃ、逆方向なんに、い、いいと?」
確認すると、
「うん、いいよ!」
いい返事。
気付けば
「じゃ、お、お、お願い!」
食い気味に応えてしまっていた。
契約が成立したところで我に返り、
ヤベッ!はしゃぎ過ぎた!
いつもの如く、キョーレツな恥ずかしさに襲われ真っ赤になって縮こまる。
そんなリアクションに、
やった!木藤さん、勢いよくオッケーしてくれた!しかも、でったん嬉しそうやし!相合傘確定っ!ダメモトやったけど、ゆってみるもんやね。
孝満のテンションもブチ上がる。
サイコーの展開に、
オレ、今日帰りがけ、クルマにひかれて死んだりせんよね?
心配になってくる。
「んじゃ、行こっか?」
「…うん。」
勉強道具を片付け、帰る準備を済ますと二人並んで下駄箱へと向かう。
途中、
タカくん、嬉しそうやったな。
セイコちゃん、嬉しそうやったな。
互いの大喜びっぷりが完全にバレていた。
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