第30話 えっちな釣り指導

 うんこ事件もひと段落し、釣り再開。


 隣に座って興味津々のまなざしで見ていた朋美に気付いた治朗は、


「鈴木さん、してみる?」


 フッてみる。


 実際興味はあった。

 面白そうでもあった。

 でも身近な者は誰も釣りなんかしない。

 いい機会だったので、


「うん!」


 即答。


「なら、とりあえず見よって?」


「うん。」


 カチッ。ビュッ!ヴィ――――ン…ポチャ。


 投げてみせる。


「流れとしてはこげな感じ。」


「なるほど。」


 リールを見せながら


「これ、クラッチ。」


 説明して、


 カチッ。


 実際に動作。


「こーやったら糸が出る。この状態のとき飛んでいく。」


 スプールを押さえていた指を離すとルアーの重みで逆転しながら落ちてゆく。


「でったん回るき、着水と同時に糸止めちゃらんと、もつれるばい?」


「わかった。」


 もう一度、


「ここでクラッチ切って~、振りかぶったら~、前さい振りながら~ここで離す!そして~水に落ちると同時に押さえて止める。手首のスナップは慣れんうちは効かさん方がいいきね?」

 訳:前の方に振りながら


 ゆっくりとした動作で説明し、サオをわたすと、


「りょーかい。お~…そげん重たくないんやね?なんか、メカ!っち感じでカッキー。」


 目をキラキラさせていた。


 うっ…可愛っ!


 思わず見惚れてしまう。

 そんなふうに思われているとも知らず、朋美は、


「サオ振った時に指離して水に落ちたら止める感じでいーんよね?」


 最終確認し、


「うん。だいたいそげな感じ。」


 早速投げてみる。

 すると、


 カチッ!ヒュッ!ヴィ―――――ン…ポチャ。


 いきなりうまくいった。しかもかなりの飛距離。


「お~。こげな感じか。」


 一人、納得していると、


「マジで?でったん上手いやん!」


 感動する治朗。

 予期せぬところで褒められ、ついつい照れてしまう。


「そう?なら、もっといっぱい褒めてよね!そしたらもっともっとうまくなるよ。ウチ、褒められて伸びるタイプなんやき。」


 照れの混じったドヤ顔が可愛過ぎて、直視できない。

 少し目線を逸らしながら、


「いや、マジで上手い。経験者っちゆっても通用するばい。」


 ベタ褒めすると、


「ホントに?んじゃ、もっと調子に乗ってみんね。」


 さらに照れながら、投げの動作に入る。


 それにしても、一回説明しただけで投げきるようになるとは。


 本人が納得いくまで投げ続けたけど、その間激しいバックラッシュは一度もなかった。



 勉強もできてスポーツ万能な朋美は、初めてのことでも割となんでも器用にこなす。ただ、できるのと好きなのは違うようで、キャラ的には超絶文化系。趣味は漫画とかラノベを読むことだったりイラストを描いたりすることだったりする。だから、身体を動かすことはどちらかといわなくても大嫌いなので、一般に「スポーツ」といわれるものは全て大嫌い。

 これは遥花も全く同じで。

 二人して入学直後、体育の授業で目立ってしまったため、体育会系の部活への勧誘合戦が激しかった時期がある。


 といったことを頭に入れつつ、遥花の場合はというと。


「ねぇ、有吉?そっちやない方のサオ貸して?」


 股間を指さしつつ真顔で聞いてくる。

 茂晴も、


「ばーか。オレ的にはこっちの方でもいいけど?」


 ジャージを下そうとしつつ答えると、


「いやいやいや。そっちやないっちゆったやんか。あ!もしかしてウチがカワイーき、したくなったとか?」


「なんか、その自信?まぁ、否定はせんけど。させてくれるんなら今すぐするぞ?」


「あはは。マジでか!困ったな。今日はダメぞ。さっきパンツにうんこ付いたき、肛門の位置に2cmぐらいの黄土色の丸がある。脱がされたら恥ずかしい。」


 自分で言って大ウケしている。


「お前ねぇ~…せっかく蒸し返さんごと気を使ってやりよるのに、台無しやんか。」


「あはは!悪ぃ悪ぃ。」


 とは言いつつも、全く反省した様子はない。


 サオをわたすと、


「ほぉ。本物初めて触ったぞ。これ、どげんやって飛ばすん?」


「ここ押したら糸出るごとなるき、投げる時に指離したら飛んでいく。」


「ピュっち飛ぶ?」


「うんにゃ、ドピュドピュっち飛ぶ。」


「元気いいね。」


 いちいち下ネタをぶち込んでくるのがなんか面白い。


「当たり前て。まだ中学生やし。」


 バカなやり取りをしながらクラッチを切ってルアーが地面についた瞬間、止める練習。

 何回かやってみたところで投げる練習に入る。

 一旦サオを返してもらって、


「クラッチ切って、こーやって、ここで指離す。で、落ちると同時に止めてやる。」


 実際に投げながら、治朗とほぼ同じ説明をする。

 茂晴のサオはブラックレーベルFM701MHFBで、リールがT3 1016H-TW。

 バックラッシュしたら楽しくないのでブレーキを最強の設定にする。

 3Dを「MAX BRAKE」モード、ダイヤルを「20」にし、再度サオを貸す。


「これよね?」


 カチッ。


 確かめながらクラッチ切って、バックスイング。


「で、こうよね?」


 ビュッ!ヴ―――――ン…ポチャ。


 とてもきれいなフォームだった。


「お~、飛んだ。これ気持ちいいね。」


 いきなり力を入れて大遠投をぶちかます遥花に、


「は?何なん、お前。最初っから投げきるげな、スゲーね!もしかして、したことあるん?」


 驚く茂晴。


「スゲー?したことないばってんが、そげん難しくないぞ?」

 訳:したことないけど


「マジでか。フツー、ちゃんと飛ばんやったり糸もつれたりするのに。ホントは投げきぃごとなるまで結構時間かかるんぞ?」

 訳:投げれるようになるまで


「ウチ、なんでも上手やもん。」


 腰に手を当て、胸を張って自慢する姿がエライ可愛らしい。

 とか思っていたら、


「なんちか?乳が無いっちか?それはまぁ、いーやねーか。」

 訳:何て?


 予想外の方に話が飛んだ。

 セルフツッコミし、ちっぱいネタで大笑いしだす。

 全然気付いてなかった茂晴は、改めて胸を見る。


「おー…ホントに無いの。見事なまでにまっ平らやし。少年のようやんか。」


 自己申告通りのペッタンコ。

 とはいえ、気にしている様子は全くない。

 それどころか美味しいとさえ思っている節がある。

 その証拠に、


「ね?無いやろ?でも、もうちょい待っちょけ。今、牛乳飲んでおっきくしよる真っ最中やき。来年になったら、セイコもビックリなくらいバインバインのタユンタユンになるぞ。そん時は、有吉もちょっとだけ揉ませちゃーかもね。」


 そこからさらにネタを発展させてきた。


「お前ね~。そげ思っちょーんならタレかぶらんごと気ぃ付けぇよ。一生懸命飲んでもタレかぶったら意味無いやんか。乳に行く前に出て行ってしまいよーやんか。」


「は!そーやん!だけんか~…だき、おっきくならんのやの。今度からゆっくり飲も。」


「気にしちょーんか?」


「うんにゃ、別に。」


「なら、無理して牛乳飲んでおっきくせんでもよくない?」


「たしかに!でも、無理しよんじゃねぇぞ?ウチ、牛乳大好きっ子やもん。今のまんま体型維持できたら抵抗無いき、走るのも泳ぐのも早いもんね。」

 訳:無理なんかしてないよ


「スポーツ向きな身体やの。」


「まぁ、スポーツ大嫌いやけど。球どげかしたり、走ったりして何が楽しいんやか?ウチにはよー分からん。マンガ読んだりアニメ見たりする方がよっぽど楽しいし。」


「なんか、それ?スポーツ一生懸命しよる人に謝れ。」


「イヤだね〜。好かんもんは好かん。」


「まぁ、そりゃそーか。」


「そうそう。人それぞれ。」


 くだらないやり取りをしながら、


 オモシレー女。一緒におって飽きんの。


 不思議な心地よさを感じていた。


 その後、ベイトにはすぐに慣れ、


「なんかもーちょい飛ぶごとならん?投げた力がどっかで無くなりよーげな気がするっちゃけど?」


 と言ってきたため、ブレーキはいつも茂晴が使っているのと同じモード(LONG CASTモードでブレーキダイヤルは「6」)に落ち着いた。

 その頃には茂晴に匹敵するぐらいの飛距離を出せるようになっていた。

 呑み込みの速さに驚かされっぱなしだった。




 セイコはというと。

 やっぱり横で興味津々のまなざしで見ている。


「ね、ねぇ、く、草杉くん?」


「ん?何?」


「そ、そ、それ、ウチでもしきぃ?」

 訳:わたしでもできる


「さぁ、どやろ?やってみたい?」


「う、うん!なんか、朋も遥花もしよるし。負けられん。やっちょかな、ウチ、それやないでもダメダメキャラなんやき。」


 向こうの方で見えていたのがずっと気になっていて、変なスイッチが入ったのだ。


 とりあえず一連の動作を見せるため、


「こげな感じ。」


 実際に投げてみせる。

 サオを貸してもらい投げてみるのだが、運動がまるでダメなセイコは二人とは違って苦労することになる。

 絶望的にリズム感が無いため、指を離すタイミングが安定しない。よって、遅くて目の前にライナーでドボンとやってバックラッシュしたり、早すぎて高く上がり、やっぱりバックラッシュしたりでなかなかまともに飛ばない。とはいえ、すぐにできないのは分かっていたようで、諦める様子はない。おしえてもらいながら楽しんでいるのは見ていてわかる。

 それでも早くちゃんと楽しめるようにしてあげたい孝満は、親切心から背後にまわり指導するつもりで、


「この時ね、腕をこげんやって。」


 手を添えた。


 接触を伴うイベントが始まると、確実に発生するのが乳にまつわるアクシデント。

 激しくデカいので当てたり当てられたり当たったりするのは最早お約束。


 今回の場合、不意にやられたことにより驚いて、ビクッとなって両腕が委縮。結果、孝満の両腕をセイコが腋に挟み込んでしまい、両乳を鷲掴みされる形になってしまった。

 今はもうかなり暖かい季節で、それなりに薄着でもある。暑がりなセイコの服装は上半身がロングTシャツ。下は保持力弱目のスポブラのみ。よって、制服の時よりも圧倒的に素肌感覚。

 ちょうど掌が乳首を刺激するような位置関係で固定されてしまっているため感じてしまっていた。

 突然のくすぐったさに、


「ぅはっ!きゃはは!」


 小さな叫び声と笑い声を発し、しゃがみ込んでしまった。

 端から見るとセイコが後ろから羽交い絞めされ、襲われているようなカッコになっている。

 腕を極められ身動きの取れなくなった孝満はそのまま引っ張られる。


「ちょ!待った待った待った!」


 背中に全体重をかけられたセイコは当然耐えられるはずもなく。

 背後から抱きしめられたカッコのまま崩れ落ちる


「ごめん!ホント、ゴメン!」


 咄嗟に謝りまくる。

 でも嫌じゃない。

 むしろ嬉しいセイコは、


「う、ううん、いーよ。だいじょぶ。」


 全く嫌な顔はしちゃいなかった。


 なんとか解放されると起き上がり、気を取り直して釣り再開。

 ここからセイコのスケベが発揮されマクることになる。


 この手があったか~。これなら合法的に触ってもらえるよね!


 とってもいいことを思いつくと、


「あ、あ、あの…さっきは、び、ビックリしたけど、も、もっかい今みたいにして、お、おしえて?」


 甘い声でお願いする。

 再度チャレンジする孝満。

 胸に触れないよう細心の注意を払い、補助をしようとするのだが…太ってはいないけど、背の高さに比例して全てのサイズがデカいのだ。だから、今の位置関係だとどこからどうやっても乳に当たってしまう。

 触ってしまう度、


「ごめん!」


 謝る。

 わざとじゃないのに意識的に触っているかの如く、頻繁に触れてしまう。

 でも、嫌じゃない。

 むしろ嬉しいので、


「い、いや。そ、そげ気にせんでいいんよ?」


 すぐに許す。



 しかし、まぁ。


 端から見るとこの様子、まるでスケベオヤジが若い女の子に手取り足取りゴルフを教えている感がある。

 にもかかわらず、


「も、もっかい。く、草杉くん、今みたいにしておしえてくれる?」


 わざとらしくならない頻度で何度でも要求してくる。

 その結果、


「おまえら、一体なんしよん?ヤラシイ~!外ですんなっちゃ。」


 罰が当たる。

 朋美に見つかったのだ。

 そして、


「お~い!コイツら外でヤラシイことばっかしよーぞ?」


 大声で言いふらかされ、


「セクハラこーまん。セーシも嫌がれよ。」


「タカちゃ~ん…ないわ~。」


「それはダメやろ。チ●ポ勃っちょーやん。」


 モーレツに非難。

 恥ずかしさは呆気なく頂点に達し、真っ赤になって即座に離れた。

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