第28話 可愛い顔して

 そして当日。

 合流は昼過ぎ。


 ポイントに向かうセイコと遥花と朋美。←葵は家の用事、ハルは部活で同行できず。

 ここは見通しの良い土手。

 彼らが言っていた場所には三人の釣り人の姿。

 集まって何やらしている様子。


 近寄ってみたらやっぱり北小三人組だった。

 合流し、


「よっ!釣れた?」


 話しかける朋美。


「まーね。オレ、一本釣ったばい。」


 釣果自慢する治朗。


「マジで?その魚、まだおる?」


「今、逃がしたとこ。」


「そっか。見たいき、また釣りぃよ?」


「魚、見せてよ。」


 セイコは会話に加わるのが恥ずかしいから、横でじっと見ている。


 ポイントに散らばるタイミングで各々がツーショットになる。

 内訳は孝満とセイコ、治朗と朋美、茂晴と遥花。

 余談だが、全て未来の夫婦な組み合わせである。




 釣りを再開してしばらくしたところで、


「ねぇ、有吉?」


 遥花が話しかけてきた。


「なぁん?」


 顔を見ると何やら苦しげな表情。

 どうしたのかな?とか思う間もなく、


「お花を摘みに…っち、あ゛~、たまらん!でったん腹痛くなってきた。クソしに連れてっちゃらん?」


 トンデモなことを口走る。

 この時にはもう緊急事態に陥っていた。昼食の時一気飲みした牛乳が見事ヒットしたのだ。遥花は若干お腹が弱い。特に牛乳はヤバくて、ゆっくり飲む分はいいのだが、一気飲みなんかしようものなら、かなりの確率でお腹を壊す。


 突然の女の子からの大便宣言に、


「はぁ?何ち?」


 聞き返してしまう茂晴。


「腹痛いき、クソしに連れてって。」


 聞き間違いじゃなかった。

 同時に漂ってくるモーレツな気まずさ。←尚、茂晴に限る


 ここ何回かの釣行で複数回同行したため仲良くはなっているとはいえ、余所のクラス。

 というのも気まずさの一つではあるのだが、それよりもなによりも顔がえげつないくらいに可愛らしいのだ。

 そのことが気まずさをさらに加速させる。


 戸惑っている間にもどんどん痛くなってきているようで、


「あ~…痛ぇ。」


 腹を押さえ、うずくまる。


「大丈夫?」


「大丈夫なわけ…あるか。だき、恥ずかしいの我慢してクソしに連れてけっち頼みよるんやんか。」


 と言っている遙花の顔には微塵の恥ずかしさも見られない。これほどまでに恥ずかしさのこもっていない「恥ずかしい」は、初めて聞いた。


 え~…コイツ、どげな神経しちょーん?


 不思議な感覚に襲われつつも、緊急事態には変わりなくて。

 限界が近付いてきているのは一目瞭然だ。


「わかった!連れてっちゃーき、立てる?」


「なんとか…。」


 どうにか立ち上がったものの、限界が近い遥花はケツの割れ目を押さえ、


「うぉ~!ヤベー!すぐそこまで来ちょー!」


 体をよじらす。

 変な歩き方になってしまっていた。

 腕を引き、土手を上らせ、


「ここで待っちょって!チャリ取ってくるき。」


 自転車まで猛ダッシュする茂晴。

 急いで戻ってきて荷台に横向きで座らせると、


「あっこまで我慢できる?」


 1kmほど先に見えている河川公園の公衆便所を指さして確認。


「わからん。ヤバい。いよいよタレかぶりそう。」

 訳:いよいよ漏らしそう


「そんなにか?」


「うん。あ゛~~~…たまらん!でったん痛ぇ!」


「マジでか?じゃ、行くぞ?」


「うん。頼む。」


「急ぐきの?落ちんごと、どっか掴んじょきないよ!」

 訳:急ぐからな?落ちないようにどこか掴まっときな


 荷台を掴んだのを確認すると同時に立ちこぎで力いっぱいペダルを踏みしめる。

 突然の加速についてゆけず、振り落とされそうになってしまった遥花は、


「おい!ばか!シワ~ッといかな、出るっちゃ!」

 訳:ゆっくり行かないと出てしまうよ!


 目一杯パニクる。

 今のはかなりヤバかった。


「あ~…今ので少し出たかも。肛門がチリッときたもんね。なんかヌルヌルしよーし。」


「もー…険しくなる前に言えっちゃ~。タレかぶったら帰りどげんするんか?」


 呆れかえる茂晴。


「ごめんっちゃ。でも、いきなし険しくなったんっちゃ。それに男に『うんこ連れてって』とか言うの、恥ずかしいんぞ?これでも女の子なんやきの?」


「いやいやいや。全然恥ずかしそうやねーし。それよりもタレかぶる方が恥ずかしかろーもん?」


「たしかに。そこまでは考えきらんやったや~。」


「もぉ~…頼むぞ?お前のキャラは分かったき、次からは我慢せんで言えよ?」


「わかった。」


 遥花は二ケツ中、茂晴から教育的指導をされていた。


 これに懲り、次からは早めに知らせるようになった。




 この様子をそれぞれのポイントから見ていたセイコと朋美は相方に、


「あ~、アイツ…うんこやな。」


「は、遥花、お腹壊したんやね。」


 ネタバラし。



 治朗&朋美組は、


「マジでか?」


「うん。アイツ、すぐ腹壊すクセにいっつも牛乳一気飲みするっちゃん。」

 訳:一気飲みするんだよ


「でも給食ん時、牛乳出よるやん。午後から便所行ったことやらないよね?」


「給食ん時は気を付けてゆっくり飲みよーきね。問題は休みの日よ。昼ご飯食べる時、一気飲みするっちゃん。」


「あ~、そら~いかんばい。気を付けるごとゆっちょき?」


「言いよんっちゃ。ばってんがゆーてもいっちょん聞かんのよ。」

 訳:言ってんだよ。でも、言っても全然聞かないんだ


「大事やな。」


「そーなんちゃ。ウチらだけで遊び行ってもしょっちゅうやもんね。あと、わざっと聞こえるごと音出して屁ぇコクし。トイレの外まで聞こえてくるき、恥ずかしいっちゃんね。」


「マジでか?」


「うん、マジ。アイツ、その手の羞恥心、どっかに忘れてきちょんなーき。もし一緒に遊び行ったとしたら、多分、オトコおってもヘーキで『うんこ行ってくる』っちゆーばい。」

 訳:忘れてきているからね


「そらまた…っちゆーか、一気飲みは困ったもんやな。」


「ホントっちゃ。タレかぶらんごとしちゃらな、遊び行くとき着替えやら持ってってないきね。だき、昼ご飯食べたあと余所行くときは、まず着いたらトイレある場所ちゃんと確認しちょかな大慌てになるんよ。ホント、いかんっちゃ。」


 呆れかえっていた。



 孝満&セイコ組は、


「高橋さん、大変やね。」


「う、うん。は、遥花、しょっちゅうお腹壊すもんね。」


「そーなん?」


「うん。お、お腹弱いのに、い、いっつも、ぎゅ、牛乳をね、一気飲みするんよ。きょ、今日も、多分お昼ご飯の時にしちょーはず。」

 訳:しているはず


「あ~、それで。牛乳はくる時あるよね。注意してやればいいのに。」


「い、いっつも注意、しよんよ?で、でも、家で別々にお昼ご飯食べたときは、の、飲んだかどうか、わ、分からんやん?」

 訳:注意しているんだよ


「たしかに。」


「お、お昼ご飯食べたあとで、あ、あ、遊び行ったときは、ぜ、絶対っちゆっていーぐらいトイレ行くもんね。それも何回も何回も。」


「大変やね。」


「うん。も、漏らしてなかったらいーけど。」


「そこまで?」


「うん。たま~に間に合わんで漏らしたハナシやら溢したハナシ、するよ?」


「でったんヤバいやん。」


「うん。あ、有吉くん、自転車立ち漕ぎしてでったん飛ばしよったもんね。も、もしかしたら、漏らしたかもね。か、替えのパンツやら持ってきてないやろーし、どげんするんやろか?」


 心配していた。

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