第27話 「連れてって」の一言が言えなくて。
給食を食べ終わるとすぐに治朗が、
「タカちゃん、今度の土曜、どこ行こっか?」
孝満の席にやってきて週末の釣りの話を始める。
「そーやねぇ~…。」
しばらく考えて、
「陥落?」
提案してみたものの、
「いーね。ばってんが、この頃汽車の運ちゃん、でったん喧しくない?すぐ汽車止めるやろ?マッタリ釣りしよるげなだんじゃなくない?」
訳:だけど、この頃 マッタリ釣りしている場合じゃなくない?
実際のハナシ、大変なことになっているわけで。
というのも、ここ最近「西中の佐々木」作戦は見破られたようなのだ。
前回止めたときは、
「きさん、ウソばっかゆーな!マジでぶち殺すぞ!西中に電話したけど佐々木っちゆー生徒おらんやったったい!ホントの名前おしえんか!」
訳:いなかったんだよ
といって怒鳴られた。
こんな言葉が出てきたということは、もう通用しないということ。
それにしても、完全にブチ切れている運ちゃんは、まるでどこかの組の者のようだった。
あまりにも怖かったため、
「ごめんなさい!ホントは渡辺でした!ウチの学校、覚せい剤流行っちょってから!自分もこの頃し過ぎよるもんでから、我がの名前があやふやになるもんやき!」
訳:あやふやになるものだから
咄嗟に別の名前を出して誤魔化したけど、当然そんな言葉には耳を貸すわけもない。
「おら!何テキトーなアゴばっか弾きよんか?教えな今日の晩、貴様の家探し出して火ぃ着けるきの!」
とてもカタギとは思えない、というか、本物のヨゴレが吐くセリフが飛び出す始末。
今にも車両から降りてきて殺られそうな雰囲気を醸し出していたから、ダッシュでその場を去ったのだった。
警告!線路内での釣りは大変危険なので、絶対やらないように!!
と、ゆーワケで、陥落でのライギョ釣りはリスクが高い。かと言って、他の池だと足場が少なかったりスレていたりで思うような釣りができない。
どーせ行くならみんなで釣りたい!とゆーのが本心なわけだから、場所選びは自然と真剣になる。
結局ターゲットをバスに変更し、場所は前の川になったのだった。
セイコの席では遥花、朋美、葵、ハルといった、いつもの五人組がいつものように集まって雑談している。
お喋りしながらもセイコは、
タカくんたち釣り行くんやん!歩いて行ける場所やったらいいのにな。もし近くやったら偶然のフリして見に行くのに。
聞き耳を立てている。が、
どげんやって偶然を装えばいい?
なかなか良い案が思い浮かばない。
考えている間に、
「前の川なら、どの辺にしよっか?」
「そーやね…いっつも家の前ばっかやき、土曜は気分を変えて上流の方の深場行ってみらん?」
ボチボチ決まりそうな雰囲気が漂ってくる。
治朗からの提案に孝満は、
「いーね!」
即、賛成。
「うん。あと、誰が来る?」
「シゲちゃんは来れるっち言いよったばい?」
「そっか。テッちゃんとリョウちゃんは、放課後にでも聞いてみよ。」
「そやね。」
無事決定である。
セイコは、
やった!上流の深場っちゆったら歩いてすぐのところやん!でも、「連れてって」っち言うの恥ずかしいっちゃんね~…どげんしよ?ん~っと…そーだ!コロ(飼い犬。シェパード風味の雑種♂で無駄にデカい。すぐ脚に飛びかかって腰を振りだす)の散歩っちコトにすれば自然じゃない?
なかなか良い案を思いついたのだった。
おしゃべり中、セイコの落ち着きが無くなったことで、連れてってもらいたいことに呆気なく気付いた他四人。
「セイコ、でったん行きたそうやね。」
「それね。もぉホンット、バレバレなんやき。見よるこっちが恥ずかしくなってくるちゃ。」
「もう何回か一緒に行っちょーっちゃき、いい加減言えるようになれ!っち感じよね。」
訳:行っているんだから
「どーせ、恥ずかしがって『連れてって』の一言、言いきらんっちゃき、ここは助け舟かな?」
「うん。ウチがゆっちゃろ。」
セイコの知らないところで「くっつけよう大作戦」が発動していた。
すかさず孝満と治朗との会話に遥花が、
「なんですって?我が家の近くで釣りをなさると?ならば、ワタクシたちも見に行ってもよろしくって?」
全然さまにならない中途半端なお嬢様言葉らしきモノを使い、割って入る。
すると、
「は?」
「何、そのキャラ?」
一瞬戸惑いはしたものの、相手は女子である。
そして自分たちは毎日欠かさず数回コスっている男子中学生。
断る理由なんかあるわけがない。
「一緒行っていい?」
な~んてコト言われてしまうと嬉しさが限界突破してしまうため、選択肢は
「いいばい!」
しかない。
同行は秒で決まった。
やった!遥花、グッジョブ!!コロ連れて行かんでもいいやん。
まさかの展開にセイコは大喜び。
でも実際のトコロ、セイコの好意は他のみんなにモロバレで。
これ、気付いたときでったん恥ずかしくなるヤツ。
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