第25話 ん?

 五月の連休が終わった頃。


 いつもの仲良し四人組で、駄弁りながらの帰り道。←学校にいる時は五人組。あとの一人は北小校区でなおかつ部活に入っているので今はいない。名前は佐々木ハル。19話で登場した「ハル」はコイツ。


「あ、あんね、この前ね、く、草杉くんがね。」


 セイコがご機嫌な笑顔で話し始める。


 この時朋美は、


 ん?


 違和感を覚えた。




 後日。

 やはり帰り道にて。


「さ、さっきね、く、草杉くんね、」


 ん?


 またしてもセイコの言葉に違和感。


 何やろ?何かが引っ掛かるんよね。


 考えてはみたものの、すぐには解決しなくて結局帰り着いてしまう。


 原因を究明するため、引き続き考える。

 夕飯までの間、ボーっとテレビを見ながらこれまでのセイコとの会話の内容を思い出す。


 セイコは基本ドン臭いので、


「この前ね、歩きよってね、コケそうになった時ね、たまたま隣歩きよった草杉くんがね、支えてくれたんばい。」


 とか、


「朝、来るときね、ウチ、バッグでスカート捲り上げちょーの知らんでね、パンツ丸見えやったんね。でもね、草杉くんがね、そっとおしえてくれてね。誰にも見られんでね、済んだっちゃん。」


 とか、


「この前ね、歩きよってね、葵から呼ばれたき振り向いたらね、メガネ飛んでってね、トラックに踏まれてね、木端微塵になったんね。でね、何も見えんくなって困っちょったらね、草杉くんがね、家まで付き添ってくれたんよ。嬉しかったぁ。」


 とか、この短期間でかなりの回数やらかしていた…のはいいとして。


 え?何これ…ほとんどがこーまんとのエピソードやん!


 ということに辿り着いてしまう。


 これまで舌足らずでたどたどしくて、やたら「~ね」が入る独特な喋り方が可愛くて。

 そちらの方にばかり気を取られてしまっていたのだが…気付いてしまうと、なんかもぉ!


 無自覚のうちに惚気るとか、どゆこと?


 普通ならこんな話聞かされるとイライラしそうなものだけど、セイコである。


 甘酸っぺえなぁ!何なん、アイツ!可愛過ぎか!


 愛おしさが爆発して、悶え狂いそうになった挙句、ニヤニヤが止まらなくなってしまう。

 朋美は、


 これっち、もしかして…。


 ある予想をしてみた。

 それを確かなものにするため、次の日他の二人にも聞いてみたのだった。



 いつも立ち寄る駄菓子屋でお菓子を物色中。

 セイコだけが少し離れたタイミングで行動開始。

 コソコソ声で、


「ねぇっちゃ。この頃セイコ、こーまんの話ばっかしよない?」

 訳:話ばかりしてない


 切り出すと、途端にニヤけだす遥花。


「あ~。朋も気付いたって?ウチもちょい前気付いたっちゃんね。」

 訳:気付いたんだね


 この言葉がきっかけとなって盛り上がりだした。

 葵も気付いていたようで、


「これっち、どげん思う?」


 聞いてみると、


「やっぱ、そーゆーことやないん?」


 期待通りの答えが!

 それからは、セイコが離れるたびに、


「そもそもこーまんの名前が出るときっち、ほとんどが嬉しかったネタやろ?」


「…はっ!そういえばそうやね!」


「自分でもわからんうちに惚気よるっちゃん。」


「たしかに!アイツ、可愛過ぎんか?」


「たしかに可愛いんばってんがくさ、聞かされる方の身にもなれ!っち感じよね。セイコ自身、はよ気付かんと、ウチらいつまんでん聞かされ続ける羽目になるばい。たいがいしてもらわな、こっちのが恥ずかしくなってくるっちゃき。」

 訳:たしかに可愛いんだけどね。いつまでも聞かされ続ける


 どうしようもなく盛り上がる。

 そして、話題は「今後どうするか」という方向に。


「どげんする?セイコに直で聞いてみよっか?イジッたらでったん恥ずかしがるき、ゼッテー可愛いリアクション見れるっち思うばい?」


「それもいーけど、アイツ自身気付いてない可能性だってあるばい?」


「だいぶんお子ちゃまっぽいトコ、あるもんね。」


「そっか。たしかに!」


「ちゃんと恥ずかしがってくれな、面白くないしね。」


「このまんまで十分オモシレーし可愛いんやき、しばらく観察しよこーや。」

 訳:観察しようよ


「それがいいね。」


 結局、見守ることで落ち着いた。




 翌日。

 意識して観察すると、かなり目で追っていることが明らかになる。

 そしてさらに数日後、決定的な出来事が!

 北小出身で孝満たちと仲が良く、南小出身の仲良し四人組とつるんでいるハルがついに仕掛けたのだ。←駄菓子屋の時はいなかったので、見守る話は知らない。よって、独断で行動している。


「んじゃね~、セイコ。」


 バイバイした直後、


「タカ~?ジロちゃんおらんめぇ?今日部活無いき、一緒帰ろーぜ。」←部員が少なく廃部寸前の美術部だから活動は週に数回、不定期でしかしない。

 訳:ジロちゃんいないでしょ


 後ろの席で帰る準備をしていた孝満に声をかけると、


「おっけ。」


 二人で教室を出て行ってしまう。

 ビクッとなってすぐに目で追い始めるセイコ。

 その表情といったら、もう!

 この世の終わりかといわんばかりに哀しさが溢れていた。

 目元を見ると僅かに潤んでいる…ようにも見える。


 あ~…モロやな。っちゆーか、ハルも気付いちょったんやね。まぁ、あんだけ好き好きオーラダダ漏れやったら気付かん方がおかしいか。

 訳:気付いていたんだね


 納得しつつ二人が出て行ったあと、笑いを堪えながら遥花の席に行き、


「ねぇっちゃ。」


 声をかけると、


「うん、分かっちょー。ハル、あれ、わざっとしよんばい。だき、こーまんに声かける前、わざわざセイコにバイバイしよったやろ?」

 訳:わざとしてるんだよ


 やはり気付いていた。そして、なおかつハルの行動まで完全に理解している。


 帰る準備ができたので、


「セーシ、帰ろうぜ!」


 あえての「セーシ」呼びで声をかける。


 すると、


「…うん。」


 消え入りそうなほど小さい声で返事。

 普段なら「その呼び方やめて!」的厳重注意が必ずあるのだが、今回に限ってそれが無い。


 あらあらあら、ショック受けてから。可愛いなあ、もう!


 あまりにもわかりやす過ぎて吹き出しそうになるけど、今、それをやってしまうと本気で泣いてしまいそうなのでやらない。

 かなり我慢しながら、


「なんか?どげしたんか?泣きそうな顔して。」


 聞いてみると、


「…へ?そ、そ、そげなことないよ?」


 辛うじて誤魔化した。

 今度は遥花が、


「なん?悲しいことでもあった?」


 聞くけど、


「…う、ううん。…何もない…よ?」


 やっぱり誤魔化した。

 でも、悲しんでいるのは一目瞭然で。

 普段よりも言葉が出てきにくい上、あからさまに鼻声だ。しかも肩が微妙に震えている。


 ほぼ泣いちょーやんか!

 訳:ほぼ泣いているじゃないの!


 一緒に帰るため横にいた葵もセイコの異変には気付いているから、


「何?こーまんとハルが一緒に帰った件?」


 そのものズバリをこそこそ声で聞いてくる。


「そ。」


 セイコの帰る準備ができたので、四人そろって教室を後にする。

 帰り道。

 セイコだけが離れたタイミングで、


「「「あ~あ、可哀そうに。」」」


 大笑いした後、


「大好きやん!」


「どんだけ好きなんよ?」


「かぁ~っ!たまらん!」


 あまりの可愛さに三人で悶え苦しんだ。

 同時に予想は無事、確信へと変わった。




 次の日の朝。

 朋美は、


「ねぇっちゃ、ハル?」


 教室に入ってくるなり呼んで手招き。

 ハルは呼ばれた意味が既に分かっているらしく、


「なぁ~ん?」


 今にも吹き出しそうな顔して、自分の机に荷物を置くとそのまま朋美のところに駆け寄ってくる。

 朋美と駄弁っていた遥花はやはり吹き出しそうな顔をして、


「ハル~…昨日のアレ、ゼッテーわざっとやろ?可哀そうなことしてやんなっちゃ。セイコ、泣く寸前までいっちょったぞ?」


 ダメ出し。

 だが、


「当たり前くさ!」


 平然と言い切った。

 そればかりか、


「マジでか!そこまでか!でも、あれはね~。見よったらでったんジレッテーっちゃもん。どっちもモロ分かりなんやき、泣くぐらいならはよくっつけ!っち感じやん。だき、ウチがあえて悪者になってやったんよ?自分ら、あれ見よってどーもないん?」

 訳:あれ見ていて何も思わないの?


 逆にツッコんでくる。

 聞かれた三人は、


「いや、どーもあるけど。」


「あれはモロやもんね。」


「わかりやす過ぎるし。」


 呆気なく認め、セイコのいないところでまたもや悶えまくった。

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