第24話 付き添い
恥ずかしくないくらいの距離を空け、並んで歩く。
互いに嬉しさ満点なのである…のはいいのだけど、ここで問題発生。
遠近感が全くつかめてないため、段差や凹凸に躓いてコケそうになることが多い。というか、多過ぎる。
何度目か分からなくなるほどの、「ぅわ!…あ~…ビックリしたぁ。」。
最早口癖といっても過言ではない。
非常に危なっかしいこの状況に、
あっこで会えてよかったばい。一人で帰っちょったらおおごとになっちょったかもやんね。
訳:帰ってたら大変なことになってたかも
ゾッとする孝満だった。
しばらく歩いていると、歩道と車道を区切ってある縁石(クルマが道路沿いの施設に出入りする箇所だから、段差はほぼない)で躓いて、
「ぅわっ!」
これまでになく大きくよろけ、孝満の背中にダイブ。
思いっきり抱き締めた。
当然の如く、
むにゅ❤
は、ある。
優しくて重量感あふれる幸福感のいっぱい詰まった柔らかさ。
セイコ的にはこのまま抱き締めていたいけど、どうしても恥ずかしさが勝ってしまう。
「ご、ごめんね!」
謝ると同時に飛び退くと、
「い、いーよ?」
耳まで真っ赤にしながらあっち向きで答える孝満。
乳の柔らかさを堪能できたのはいいとして、
それにしてもでったん危ないな。さっき聞いた感じじゃ家までまだまだ距離あるし、大丈夫か?←会話の中で大まかな場所を聞き出した
何もないところでも頻繁に躓くドジっぷりである。
単独で歩くのは危険だと判断した孝満は、
ここは下心あるっち思われたっちゃいいや。手を繋ごう。
訳:思われても
これまでにない勇気を出した。
「木藤さん?」
「ん?」
「さ、さっきから何回もコケそうになって危ないき、手、繋ご?」
思いもしなかった魅力的な提案!
こんなの、断るなんて絶対にありえない!
激しく食い気味に、
「う、うん!お、お、お願い!」
返事をしてしまい、直後、モーレツな恥ずかしさに見舞われる。
でも。
そっと出された掌をギユッと握り返す。
うぉ~!柔らけぇ~!背は高いのに、手はそこまでおっきくないんやね。指、細っ。流石、女の子。
男の子の手っち、ゴツゴツでおっきいんやね。
二人してとってもとっても幸せな気分に満たされた。
ずっと、繋いじょきたい…。
訳:繋いでいたい
とは、二人の心の声。
しかし、幸せな時間は無情にも過ぎていき、セイコの家。
母親のクルマはまだない。
「ここ、家。」
大好きな人の家が分かってしまった!やっぱ、なんとなく見覚えあるね。
喜ぶ孝満。
セイコはというと。
あ~あ、もう着いたき…。
名残惜しさがハンパない。
何なら泣いてしまいそうなまである。
でも、こんなトコロを母親に見られでもしたら、美味しいエサを与えてしまうに違いない。
だからここは我慢して、
「あ、あ、ありがとね。じゃ、じゃあ、また明日、ね。」
礼を言って別れる、という選択肢しかない。
とりあえず、
でも、家覚えてもらえたき、いいことにしちょこ。
訳:いいことにしておこう
とでも思うことにして寂しい気持ちを封印した。
孝満は何度も振り返りながら家に入っていったのを確認し、帰ることにした。
玄関の戸を開け、
「ただいま。」
家に上がり着替えると、やっとのことで落ち着いた。予備のメガネをかけ、ベッドに寝転がると、少し前買った漫画を読み始める。
このまんま寝落ちせんごとしちょかな、またメガネぶっ壊すばい。っち、また送ってもらえるんなら、次はこのメガネ、わざっとぶっ壊そうかな?
不埒なことを考えつつ、寝落ちに気を付けながらマンガを読んでいると、
「セイコ、上がったばい。」
風呂の順番が回ってきた。
あ…そうそう。メガネぶっ壊れたこと、お母さんにゆっちょかないかん。
台所で夕飯の準備をしている母親に、
「ねぇ、お母さん?メガネ壊れた。買って?」
報告すると、
あ!なるほど!そーゆーことか。だき、あっこでタカくんとすれ違ったったんやね。
ソッコーバレた。
振り向いた母親は満面の笑顔だった。
その顔を見て、
はっ!しまった!!どっかで見られちょったんやん!
状況を把握。
一気に不機嫌になり、
「なぁん?」
突っかかる。
そんなことは一切気にもせず、
「どげしたんね?見えんかったき送ってもらったんね?」
ニヤケながら聞いてくる母親。
いよいよ恥ずかしくなって、
「うるさい!知らん!」
勢いで誤魔化すと、そのまま風呂場に向かう。
服を脱いでいると、後ろから、
「あんた、なんでタカくん帰らせたん?家に上がって待っちょってもらったら、送ってやったのに。」
訳:待っててもらったら
今更な言葉をかけられる。
!!!なんでこのタイミングでゆーかな!
腹が立ってしょうがない。
同時に、そのことに気付けなかった自分に心底腹が立つ。
「うるさい!バカ!」
怒ったフリしてこの場を乗り切った。
セイコママと孝満ママはこのネタで大盛り上がりしたのは言うまでもない。
翌日。
メガネ粉砕の原因を作ってしまった葵は、
「セイコ、昨日はごめんね。いらんごと声かけたばっかりに。メガネ、ダンプに踏まれたやろ?弁償するき!これで足りるよね?」
お金を差し出し謝ってきた。
勿論悪気があってしたわけじゃないのは分かっているので受け取るようなことはしない。
「い、いーよ。ウチがユルユルのメガネしちょったんがいかんかったっちゃき。お、お母さんからお金受け取ったらいかんっち、や、やかまし言われちょーき!」
訳:よくなかったんだから
「そーなん?なんか、ゴメン。」
「うん、いーよ。」
これにてメガネ事件は終息。
数日後、メガネは無事復活した。
それとは別に、孝満に送ってもらい、なおかつ手も繋げたという実績が追加されたので、セイコ的には大満足だったりする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます