第23話 メガネが!
これは下校途中、なかなかレアなハプニングに見舞われたセイコのお話。
今日は、いつも一緒に帰っている遥花と朋美がいない。
どちらも用事で先に帰ったのだ。←親が迎えに来た
そのため一人で帰ることになった。
とはいえ、ちょいちょいこういうことはあるので、
たま~にこげんこと、あるんよね~。
訳:たま~にこんなこと
納得して一人、帰ることにする。
交通量の多い県道の歩道にて。
あ!セイコ!
長身金髪な幼馴染の後姿に気付いた葵。←いつもつるんでいる幼馴染。幼稚園の年中さん(この町の幼稚園は年中さんと年長さんの2年間だけ)からの付き合い。フルネームは「森田葵」。
只今母親のクルマに同乗中。
そして今はちょうど信号待ち。
声かけたら気付くかな?
思い立ったらすぐ実行。
パワーウィンドーのスイッチを押してガラスを下し、
「おーい!セイコ!」
大声で呼んでみた。
完全に油断しきっていたセイコは、
へ?葵?
端から見ていても分かるくらいビクッとなり、勢いよく声の方に振り向いてしまう。
その瞬間…メガネが、飛んだーっ!
カラカラカラ…
乾いた音を発し、回転しながらアスファルト上を滑っていく。
ここで。
セイコのメガネは超絶ド近眼仕様である。通常のプラスチックレンズにしようものなら激しく分厚くなってしまう。だからと言って特殊なレンズにすると親に申し訳ないほど高額になってしまうのだ。だからメガネを作るときはいつもガラスのレンズにしている。
ということは。
重量はかなりのものになってしまう。
勢いよく振り返ってしまったことにより、メガネには強烈な遠心力が働く。
そしてよくないことに、掛りがかなり甘かった。
セイコはベッドで寝転がって漫画を読むことが多い。そのまま寝落ちすることも少なくない。メガネをかけたまま眠ってしまうと、うつ伏せだった場合、高確率で変形する。一直線になってしまったことや破損させたことも一度や二度ではない。
入学式の時に孝満と直に目が合ったのも、掛かりが緩くズレていたことに由来する。今回も数日前にやらかして、自分で必死こいて元に戻したところだった。よっていつもより掛りが甘く、簡単に外れてしまう。
といったメガネ事情を踏まえつつ。
反射的に顔を掌で覆ったのだが、そこは鈍さに定評があるセイコである。
当然間に合うわけがなくて、奪われてしまう視界。
へ?ウソ?
メガネはというと…大変よろしくないことに、車道の方へと飛んでしまっている。ただ、幸いなことに、飛んだことで入射角が浅くなり、なおかつ畳んだ状態だったためレンズが上向きになり、衝撃は最小限に抑えられ割れなかった、というわけだ。
しゃがみ込んで、
やっべ~、見えんぞ。でも音からして割れてないみたいやき良かった。
少し安心しつつ、まるで漫才のネタのように「メガネメガネ」と手探りし出すセイコ。
この一部始終を見てしまった葵は、
しまった!アイツ、でったん鈍いんやった!悪いことしたやー。
申し訳ない気分になる。
と同時にセイコのキャラを考えると、そのまま車道に出てしまう危険性がある。
心配になってきた葵は、
「そこじゃない!車道の方!もう信号変わるき危ないばい!」
大声で叫ぶ。
セイコはハッとなり、立ち上がる。
直後、信号が青に変わり、クルマが動き出した。
間に合ったことに安心したのも束の間、先頭はクラッシャーランを満載した大型ダンプ(1987年式いすゞ810スーパー。青メタリックでキャビンが全塗装してあり、バイザーやミサイル、デカいバンパー、行燈、マーカーランプなど、飾り多数。フロントガラスには「男一匹一人旅」のカッティングシートと34567プレート。横浜ピーヒャラ装着で、勿論マニ割りもしてある)。
バッパッパッパッピヨピヨピヨ…バッパッパッパッピヨピヨピヨ…プチュ~ゥ~ゥ~ゥ~ン…バッパッパッピヨピヨピヨ…
マニ割り特有の排気音と横浜ピーヒャラの音を響かせながら通り過ぎると共に、
クシャメキッ!
何かが砕け散る音。
あ、これ…ゼッテー踏まれた。
見えてなくても分かってしまう。
クルマの列が途切れ、恐る恐る音がした方に近寄ってみると、
やっぱし…
拾い上げてみると、数10秒前までメガネだった何か。
あ~ん、もぉ~…ウチ、目が見えんとに~…どげんするとよ?予備やら持ってきてないんよ?困ったな~。信号ないところで道渡りよったら、クルマ見えんき危ないよね?
訳:見えないのに~…どうすんの?
呆然とした。
クルマの中では、
「も~。葵、あんた、何してくれよん?セイコちゃん、あれ絶対メガネダンプに踏まれたやろ?弁償せなやきね。」
葵ママから大説教を食らっていた。
すぐ近くに歩道が公園風に整備され、ベンチが設置してある場所があるのでひとまずそこに座り、電話を取り出したところで、
あ…そうやん。お母さん、今日、おらんっち言いよったんよ。今かけてもダメやん。用事、何時までかかるっちゃろ?
朝、言っていたことを思い出す。
ここで、用事終るまで待っちょかんと、しょーがないかな?
訳:待っていないと
「そして僕は途方に暮れる」by大沢誉志幸くらい途方に暮れていたところで、
「あれ?木藤さん、どげんしたん?」
不意に名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声。
顔は見えないけど、只今絶賛気になり中である男子、孝満氏の声だ。←サイコーにお気に入りなので1095%聞き間違えるはずがない。
「へ?あの…えっと…」
嬉しいのだけど、今起こったハプニングのことを考えると恥ずかし過ぎて言葉が出てこない。
砕け散ったメガネの残骸は、これまた見られるのが恥ずかしくて、反射的にスポーツバッグ(学校指定、校章入り)にin。
テンパってオロオロしだした瞬間、
あれ?木藤さん、なんか雰囲気違くない?
異変に気付いたところで不安げに見上げてくるセイコと思いっきり目が合った。←セイコは目が悪いため、視線が重なっていることに気付けない。
素顔をマジマジと見つめてしまい、
うっわ~…初めてこげな近くで完全な素顔見た。可愛さ、でったんエグイいな。
激しく感動。
同時に、
素顔?…っち、ちょー待ってん?なんで?メガネしてないやん!さっき学校おった時、ゼッテーしちょったよね?←もちろんお気に入りなのでそんなところは見逃すわけがない。
異変の原因が分かってしまう。
レンズの厚さからして日常生活に支障をきたすほど低い視力のはずである。だから、余程のことがない限り、長時間メガネを外すなんてありえない。
とても気になったので、
「木藤さん、メガネは?」
尋ねると、一気に赤面。
ドジでやらかしたことに触れたくないのだ。
「え…あ…え、と…その…」
なんかいい答えは無いものかと言葉を選んでいると、心配そうに、
「なんかあった?」
優しく先を促す。
すると、ようやく目を逸らし、
笑われてもいーや。
観念すると、
「え、え、えっとね、あ、あのね、今ね、あ、葵からね、よ、呼ばれたんよ~。きゅ、急に呼ばれたもんやき、び、び、ビックリしてね、声の方に振り向いたらね、め、め、メガネ飛んでってね、だ、ダンプに、ね、踏まれてね。ダメになったっちゃん。」
正直に答える。
今まで聞いたことないタイプのレアなハプニング。
聞かされた孝満は、
「は?マジで?メガネっちそんな簡単に外れるもんなん?」
驚いて聞き返す。
「う~ん…ど、どーやろ?ウチのメガネ、ビン底やき、お、重たいもんね。そ、それに、掛かり、緩いんよね。だき、ちょ、ちょいちょいなんかの拍子に落ちたりするよ?」
「へー。そーなんて。っちゆーか、大丈夫なん?信号ないところで道渡たんのとか、危なくない?」
訳:道渡るのとか
「…う~ん、どやろ?あ、危ないかもね。」
他人事のように答えはしたが、実際はそれが怖くてベンチに座り、呆然としていたのだ。
孝満の友達にもド近眼のヤツが何人かいる。メガネを外すと何も見えなくて困ることもよく知っている。セイコのメガネもその友達と似たようなレベルなのは、目の小さくなり具合で分かるのだ。だから、間違いなく同じことが言えるはずなのである。
木藤さん、家、そんなに近くじゃないよね?目が見えんまんま帰るのっち、でったん危なくない?←今の時点で家は知らない。ただ、雨などで親を呼んでクルマで帰ることがちょいちょいあるから、それなりに距離があることぐらいは想像できる
考えると心配になってきた。
しかも、困っているのはモーレツに気になる女の子。
ならば!
「目、見えんき動けんやったっちゃろ?家まで送ろっか?」
訳:動けなかったんでしょ
下心半分(以上?)で提案してみる。
すると、
「い、いーと?」
モーレツに食い気味な返事が返ってきた。
この食い気味具合がとてつもなく嬉しくて!
喜びまくりの孝満は、
「いーくさ!見えんまんま帰るの、危ないやろ?」
もっともらしい理由をこじつけた。とはいえ、あとの半分は純粋に心配な気持ちなのだけど。
「あ、あ、ありがと。た、助かる!」
というワケで、付き添ってもらい帰ることになったのだった。
下心があるのはセイコも同じなので、
やった!草杉くんに送ってもらえる!そんなコトならこれからも一緒帰る人おらん時は、ちょいちょいメガネぶっ壊そっかな?レンズ分厚くなってもいいき、メガネ市場で使い捨てできるくらい安いの買おうかな。
ウッキウキでとんでもないことを考えだす始末。
早速家に向かって歩きはじめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます