第22話 送ってもらう
下履きに履き替え昇降口を出ると、家の庭で何度も見たことがある黒いボディにガンメタのエアロパーツが付いた車高の低い軽自動車が停まっている。
もちろん運転席には見たことのあるおばちゃんが。
「…じゃ、バイバイ。」
赤面しながら手を振る孝満。
「…う、うん。ば、バイバイ。」
やはり、赤面しながら恥ずかしそうに小さく手を振り返すセイコ。
手、振り返してくれた!
バイバイしてくれた!大収穫やん!
些細なことで喜びまくる二人。
助手席のドアを開け、レバーを踏んでシートを前にスライドさせると後部座席に乗り込む。
昇降口から出てくるところの一部始終を見ていたセイコママは、
あら?一緒におる子、タカくんやん!
秒で気付いて嬉しさ爆発。
しかも、名残惜しさに満ち溢れる二人の様子から、
あっ…はは~ん、そーゆーこと?
絶賛育ち中の思いにもいきなり気付いてしまい、
これっちセイコの隣に座らせたらゼッテー面白いよね?
悪戯を思いつく。
セイコがクルマに乗ったことを確認し、傘をさそうとしたちょうどその時。
二人にとって完全に予想外の展開が待っていた。
ウィ――――ン。
助手席のガラスが開くとセイコママが、
「タカくん!送ってやるき、乗んなさい!」
スンバラシイ提案をしてきたじゃ~あ~りませんか!
あからさまにビクつくセイコ。
同時に、
やった!まだ一緒におれる!!
嬉しさが爆発する。
食い気味に、
「え?いいんですか?」
聞き返すと、
「いいくさ。はよ乗りぃ。」
訳:いいよ。はやく乗りなさい。
だそうで。
先程までのドキドキが甦る。
やった!草杉くん家が分かる!そしてそれまで一緒!
表情がパァ~ッと明るくなるセイコ。
セイコママはこの変化をルームミラー越しに見てしまう。
想像以上の喜びっぷりに気付き、
分かりやす!これは、思ったより好きかも!あとでケイチョン(孝満ママ=恵子という)と語りあわなくては!
ニヤニヤが止まらなくなってくる。
孝満はというと。
こんな嬉し過ぎる提案、断る理由なんかまったくない…のはいいのだけど、ここで大問題発生。
どのシートに座るのが正解?
悩んでいた。
後部座席に乗ると隣には超絶気になる子。流石にこれはわざとらしいし恥ずかしい。
なら、先に降りるし助手席に乗るのが正解…よね?
助手席のドアを開け、そのまま座ろうとする孝満の表情を見て、
あ!これは!タカくんもかなり好きなんやないん?
ソッコー気付いてしまう。
ならば!
これはもう隣に座らせるしかないよね!
作戦開始である。
乗り込もうとする孝満に、
「そこは愛するオイチャンの指定席なんよね~。だき、ゴメンばってんが後ろに乗っちゃー?」
訳:申し訳ないけど後ろに乗ってくれる?
悪い笑顔でとんでもない指示をしてくる。
母親の言葉を聞いた途端にセイコは、
「ちょ!待っ…お母さん?」
慌てふためき始める。
このリアクションで、
やっぱし!
確信に変わる。
こうなってしまうともはや断る手段なんかない。
孝満は仕方なく(?)、
「お、お邪魔します。」
シートをスライドさせ、申し訳なさそうにセイコの隣に乗り込むことに。
セイコは急いで運転席の後ろへと体をずらす。
どちらも平均以上に大柄で、肉付きはいい方。
クルマは天井が低いボンネットバン。しかも旧規格軽自動車(550ccのH21V三菱ミニカダンガンZZ)である。貨物車のため後部座席の背もたれは垂直で、足元が極端に狭い。
密着度はかなりのモノになっていた。
背筋をシャンと伸ばし、肩や太ももをぴったり密着させないと座れない。
マジか!チ●ポ起つ!
ヤッベー!濡れるばい!
既に体が反応し始めている二人。
家まで持つやか?
心配になってきた。
ドアを閉めて走り出す。
校門を出て左に曲がり、坂を下りだす(学校はかなりの高台にあり、坂が急。二つのヘアピンカーブがある)。
最初のカーブの直前でブレーキを踏みながらクラッチを踏み、4速から2速に落とし、回転を合わせると同時にクラッチを繋げ、エンジンブレーキ。
グォ―――――ン。
3G81 DOHC5VALVE インタークーラーターボエンジンのこもった音が室内に響く。
ステアリング(パワステ無し)を切ると同時にかなりの遠心力。
おかげでセイコが孝満に寄りかかるカッコになってしまい、
「ぅわっ!」
極々自然に声が出た。
同時に、
むにゅ~~~❤
マジで?
お約束すぎる展開。
とんでもなく優しい、それでいて重量感たっぷりの柔らかさが二の腕に伝わり続けている。
咄嗟に、
「ご、ごめんね!」
謝るセイコ。
「う、ううん、大丈夫。」
出会って以来、ずっと触ってみたかった気になる人の大きな胸。
いとも簡単に触れてしまった。
でも、
うっほ~!柔らけぇ~!ありがとう、木藤さんのお母さん。
とか、喜ぶ心の余裕なんかあるわけがない。
それどころか親が同じ空間にいるから純粋に恥ずかしい。
セイコはというと、
マジで?でも、なんか…。
イヤな気が全くしなかったことに焦る。
ウチ、スケベなんやか?
実際そうなのだが、それはそれ。
やっぱり純粋に恥ずかしい。
遠心力から解放されると同時に大慌てで体を離す。
互いに顔を見ることができなくなってしまい、仕方なく各々外に視線を移す。
二人、耳まで真っ赤になってしまっているが、いずれもイヤそうには見えない。
むしろ嬉しそうに見える。
すぐさまやってくる次のヘアピンカーブでは逆のことが起こる。
孝満からセイコへお返しが待っていた。
グォ――――ン…。
エンジンブレーキの音と同時に、腕が柔らかく巨大な胸に埋まりこむ。
反射的に、
「うそ?ご、ゴメン!」
謝ると、
「う、ううん。だ、だ、だいじょぶ…」
顔を真っ赤にして俯く。
この様子をルームミラー越しに見たセイコママは、ひとつ前のカーブのリアクションと今のリアクションから、
この子たち、ゼッテー両片思いやん!しかもこれ、まだお互いが気付けてないヤツ!甘酸っぺぇなー、もぉ!これはご飯が進むばい!
いよいよ確信。
大喜びである。
サイコーの笑顔になってしまっていた。
普段ならもう少しだけ大人しい運転の母親。一回目は偶然だと思っていたのだが、二回も同じことが起こると流石に違和感。同時に不信感が芽生えてくる。
悪戯好きの母親のことである。
ルームミラーを見ると、
やっぱし!
悪い笑顔。
そしてミラー越しに目を合わせてきた。
!
計画的犯行だと気付くと共に、
「もぉ!お母さん!わざっとしよるやろ?」
かなりオコ。←元々は温厚な性格なのだけど、怒った時の表情や仕草がかわいいのでイジラレまくる。よって怒っている場面に出くわすことが多い。
教室で聞いた声よりはるかに大きかったことに驚く孝満。
へ~。木藤さん、おっきい声出すことあるって。
意外な一面を見ることができて嬉しくなる。
セイコママは悪びれもせず、
「当たり前くさ。あんた、タカくんにおっぱい触ってもらえて嬉しかったろーもん?お母さんに感謝しなさい。今からも交差点とかでどんどん行くよ!」
訳:嬉しかったでしょ
とんでもないことを言ってくる。
次があることでセイコは焦りまくり、
「止めろ!バカ!うんこ!」
猛抗議。
とはいえ。
イヤじゃなかったことは紛れもない事実。
しかも、もっと触ってほしいと思っている自分がいることに心の底から驚いている真っ最中である。
何なん…ウチ。マジでこげなんただのスケベやん…。
初めて抱く感情に戸惑う。
母親のいる空間でこんなことを考えてしまっている自分。
さらに恥ずかしさが加速する。
その後も母親は有言実行しまくりで。
交差点では危なくない程度に遠心力を最大限働かせてクルマを傾かせ、その度胸に触れさせる。
セイコは、
「お母さんのバカ!」「またしよる!」「いい加減止めれ!」
大激怒である。
そんなセイコのリアクションは完全に無視し、
「タカくん、セイコ、おっぱいでったんおっきいやろ?気持ちよかったやろ?」
とても返答に困る質問を平気でしてくる。
「いや…その…」
当然答えは「はい」または「YES」しかない。が、そう答えるわけにもいかず俯いてしまう。
セイコは、
「お母さん、何聞きよん?バカやないと?」
訳:何聞いてんの
完全に呆れている。
セイコママは大笑いしながらそんな二人を観察。
お~!セイコだけやないでタカくんもかなり好きやん。ウチ、もしかしていい仕事した?これっち完全に脈ありやんね。帰ったらマジでケイチョンとこのハナシで盛り上がらないかん!
楽しく嬉しい気分に浸りまくる。
こんなやり取りの間に家に到着。
あ、やっぱこの家見覚えがある!
小さい頃の思い出がよみがえってきた。
孝満を送り届けた後はというと、
「もぉ!お母さんのバカ!恥ずかしかろーが!アンポンタン!うんこ!」
クルマの中で大げんか。というか、セイコからの一方的な抗議なのだけど。
これを大笑いしながら受け流すセイコママ。
このことも含め、帰って夕飯の支度をしながら孝満ママと盛り上がったのは言うまでもない。
というのがセイコと孝満の初接触(物理的にも)だった。
これを機にもっともっと接触が濃いものとなっていく…の、かも?
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