第20話 汽車を止める
季節が進み、水温もだいぶ上昇してきた。
昼休み、幼馴染たちは集まり帰ってからの計画を立てる。
「今日みんな用事無い?」
「うん。」
「無いばい。」
「オレもないよ。」
「オレも。」
「オレもオレも!」
珍しく全員で釣りに行くことになった。
「なら、どこ行く?」
「もうライギョがトップで出るっちゃない?」
「そーやね。」
「ヒシがいー感じやない?」
「なら、南良津の陥落?」
「あっこ、山越えないかんき学校帰ってからじゃキチかろーもん?」
「そっか。」
「なら鴨生田の下の池は?」
「いーけど、全員釣られんよ?」
「なら、磯光の陥落?」
「そーやね。」
「あっこならみんなで釣らるぅね。」
訳:釣られるね
「今日こそは汽車に気を付けよーね。」
「そやね。」
釣り場が決定する。
6時間目も無事終わり、バタバタ帰宅。
ソッコー着替えて準備をすると、
「タカちゃ~ん!」
「行こーや!」
続々と集まってくる。
全員集まると、陥落に向けていざ出発だ!
自転車で約15分。
陥落が見えてくる。
周囲をガマに覆われた広大な陥落地帯。その真ん中を貫くように単線の線路が走っている。
ガードレールの継ぎ目から自転車をぶち込んで止め、釣り具を持つと線路の中へ。
各々が得意なポイントに散っていく。
水面には所々ヒシ藻の葉が浮いていて、いかにもライギョが好みそうな雰囲気。
静かに水面を観察していると、時折、
パスッ!パスッ!
ライギョが発する独特の呼吸音。
音がした方に目をやると、そこには黒い影。
ブチ上がるテンション。
カチッ!ヴ―――――ン…ポチャ。
魚が警戒しない程度。
陰の向こう側に着水する※かへるくん。
※コーモランの名作ルアー。アラフィフの人なら涙なしじゃ語れないルアー…だと思います。
着水の波紋が消えるのを待って、
スイ―――…スイ―――…スイ―――…
脚を屈伸させるように泳がせ鼻先を通すと、その影がルアーに気付き、追跡を始める。
そして、後ろについた!
食え!
モゾッと動かしながら念じる。
緊張の一瞬。
そして、
パスッ!
独特な吸引音と共に水柱が上がる。
浮いていたルアーが消えた!
僅かに待って糸が走るのを確認すると思い切りアワセる。
キュイ―――――ッ!
糸が水を切る音。
同時に沖へと突っ走る。
太いトルクで突進する魚。
こんなの最早快感でしかない。
なのに、こんな時に限って、
プア~ン!
警笛。
やっべ~!間に合わん!
必死こいて巻く孝満。
「タカちゃん!逃げな、汽車来たばい!」
「わかっちょー!わかっちょーばってんが!」
「線路の外、出ちょくばい?」
「うん!」
「みっからんごと、しゃごんじょき!」
訳:見つからないようしゃがんどきな
「分かった!」
みんなが線路から出終わったタイミングで、
ガタンゴトンガタンゴトン
音が大きくなってくる。
高満は草の陰に身をひそめ、やり取りしながら汽車の通過を待つ。
行ってくれ!今日は止まるなよ!
念じながらファイトを楽しむ。
大暴れする魚。
水面にはド派手な水しぶき。
こら!暴れるな!
ガタンゴトンガタンゴトン…
近付いてくる車両。
通り過ぎれ!
ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン…キ、キィ~~~~…
ジョイント音の感覚が長くなり、遅くなる車両。
そしてブレーキ音のあと、完全に背後で停車する。
プア~ン、プア~ン、プア~ン!
激しくならされる警笛。
やっべ~…また止まったき。
と思っていると、
「オラ、きさん!どこの中学校のもんか!」
大声を張り上げ大激怒の運転士。
巻き舌が、まるでヨゴレのようである。
「西中の佐々木です!ごめんなさい!」
大嘘である。
東中の草杉だ。
汽車を止めて怒られると、毎回この名前を言うことにしている。
「中学校に通報しとくきの!もう二度と線路に入るなよ!今度入ったらぶち殺すきの!」
「は~い!すみませんでした!」
そして列車(一両編成)は走りだす。
線路の外では他の四人が大笑いしている。
車両が見えなくなると釣り再開。
ライギョはというと、怒られたあとどうにか引き摺り上げて本日の釣果となったのだった。
60cmの中型だった。
「汽車、向こう行ったっちゅーことは、ちょっとしたら戻ってくるよね?」
この次の駅が終点。そして一旦行った汽車は一時間もせず絶対戻ってくるというのがひとセットとなっている。←町の中にある高校の下校時間帯だから。
しばらく釣って、戻ってきそうな時間になると全員で線路の外に出た。
そしてやり過ごしていると、完全に線路の外に出て全く関係ないところにいるにもかかわらず、汽車は止まり、
「おらぁ!貴様ら、まだおるやねーか!さっさ、どっか行け!っち殺さるぅぞ!」
訳:ぶち殺すぞ
またもやヨゴレ運転士に怒られた。
汽車が去ったあと、再度線路に入って釣り。
この一往復が終わったら、赤字路線なのであと2~3時間は次の汽車は来ない。
日が暮れるまで楽しんで釣り場を後にするのだった。
そして次の日。
朝のホームルームにて。
担任が、
「昨日、西中の生徒が列車を止めたそうです。線路の中には絶対入らないように。」
聞いた瞬間、
「「ぷっ!」」
思わず吹き出してしまう孝満と治朗。
「またお前らか?」
近くの席の友達から笑われる。
「でったん焦ったっちゃが。ちょうど汽車来た時掛かるっちゃもん。」
「やっぱお前らか。懲りんやっちゃのー。」
「まーね。」
「たしかにライギョオモシレーもんね。」
結局この後も何度となく汽車を止め、すべて嘘で切り抜けた。
警告!線路の中での釣りは危険なので、絶対に止めましょう。
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