第18話 トラウマ

 セイコの英語に対するトラウマは小さいときに植え付けられた。

 まだ幼稚園に行くか行かないかぐらいの頃。

 隣町のイオンに買い物に行ったとき、母親と歩いていたらいきなり外人さんに話しかけられたのだ。

 これまで日本人としか接したことのなかったセイコは見たこともない大きな体に真っ白い肌の色、彫りの深い顔の白人に恐怖する。

 この時の外人さんは、「あら、可愛いねー。」的なことを言っていたのに、怖すぎてギャン泣きてしまったのだ。



 外に出ると、この手のハプニングがちょいちょい起こる。

 小学校の中学年くらいになってくると、親とは別行動することも多くなってくる。友達同士で隣町くらいならバスを利用して進出していけるようになったのだ。

 遥花や朋美、葵たちとで買い物に行ったりすることが増える。

 すると、結構な確率でセイコ目がけて外人さんがやってくるのだ。

 そして、


「Excuse me?」


 ネイティブと決めつけ話しかけられてしまう。

 それがもう怖くて怖くて。

 怒涛の如く本場の英語に曝され恐怖が爆発的に膨らんでゆく。

 青褪めるセイコ。


「…え?あ…ああ、あ、あの…。」


 この様子を隣で面白おかしく観察している友達。

 勿論助けなんか出すわけもなく。


 最早完全にパニックに陥っているセイコは、


「う、ウチ、英語やら分からんのに…」


 おろおろし出し、最終的には、


 え~ん…。


 泣きだしてしまう。

 話しかけてきた外人も泣かれて焦る。

 そうなってからやっと、


「こっち来て。」


 朋美が冷静に外人さんの手を引っ張って、インフォメーションに連れて行く。

 恐怖から解放されたセイコは、


「あ~ん、もう…怖かったぁ~。」


 さらに泣く。

 遥花は笑いをこらえながら一緒にベンチに座って頭をよしよししている。

 朋美が戻ってくると、


「「あ~はっはっはっは~!」」


 二人して大笑いである。

 セイコは、


「もーっ!最初からそげしてよ!」


 泣きながら大激怒である。


 この反応が可愛くて病み付きになった幼馴染たち。

 出先でセイコが外人に話しかけられると一斉に逃げる、という遊びを発明してしまっていた。

 鈍いセイコは必ず出遅れ、取り残されてしまう。

 そして外人の餌食になり、最終的に泣く。

 こういったことが続いたおかげで英語自体に激しく恐怖心を持ち、大きなトラウマとなって、それ以来抜け出せなくなってしまっていたのだ。



 トラウマは酷いもので、まずは小学校の体験学習で発揮された。

 見た目が外人なセイコは大人しくしているにもかかわらず目立ってしまうため、必ず指名されてしまうのだ。恐怖に怯え、腰が抜けて立ち上がれなくなる。そうとは知らず、


「 Stand up please!」


 追い討ちをかけられ、ついには、


 あ~ん!


 小学5年生にもなるのに怖すぎてギャン泣き。

 英語の教師は困り果てる。

 このような授業は6年までの間に年数回ペースで行われ、なおかつ違う先生が来るため、その度同じ目に遭う。

 このとき負った心の傷は今なお簡単に蒸し返す。

 中学に上がると英語の授業で最大限発揮されることになる。

 定期考査ではあまりにも英語の成績が悪いので、ついには担任(英語)に呼び出され、原因を聞きだされる羽目に。

 流石にしょうがないと判断されはしたものの、この先進学するにはどうにも避けようのない道なので、塾に通うことにしたのだが全く効果なし。理系教科なんかは平均点程度には取れているのに、英語が大きく足を引っ張ってしまい、総合点が思うように伸びない。これは大学を卒業するまで続くこととなる。


 ホント、困ったものである。

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