第12話 はづかしゐニックネーム

 入学後のゴタゴタもある程度落ち着き、授業が本格的に始まってきた頃。


 友達を作る動きが活発になってきた。




 休み時間。

 幼馴染の治朗が孝満の席にやってきて、


「タカちゃん、帰ったらどこに釣り行こっか?」


「そやね~…ジロちゃんは何が釣りたい?」


「バスかライギョがいーね。」


「オレもそげな気分やね。場所、場所…なんかいっつも行きよるき、場所的に飽きてくるよね。」


「それなんよ。」


 釣り計画を立てていると、


「なん?自分らも釣りするん?」


 隣りの席でたむろして、やっぱり釣りの話をしていた南小出身の三人組が突然話しかけてきた。


「うん。するばい。」


「オレらもなんちゃ。」


「何釣りしよん?」


「ん?セン●リ。」


「うっは~!お約束!!オレも毎日ゴリゴリしよーばい。で、何釣り?」


「色々やね。でも、今はライギョとバスが多いかな?」


「マジで?オレらもっちゃ!」


 突然の展開にもかかわらず大盛り上がり。


「自分ら、名前は?なんちゆーと?おれ、広川重明。」←みんな最初にした自己紹介なんか覚えちゃいない。


「自分は草杉孝満。」


「オレは中村治朗。」


「オレ、鷹野春平。」


「河野三郎。」


 終わると釣りの話再開。

 すると、


「道具、何使いよん?」


 お約束の質問、キター!


 孝満は、


「オレ、サオはブレイゾンでリールはタトゥーラ。」


 春平は、


「マジで?オレもばい。」


 治朗は、


「オレは両方ともBASS ONE。」


 重明は、


「オレ、両方ともBASS X。」


 三郎は、


「自分はスティーズ。」


 バス釣り人が友達になった時、最初に高確率で交わす極めてどーでもいーネタである。

 さらに、


「は?スティーズ?サオもリールも?」


「うん。」


「でったんスゲー!もしかして金持ち?」


「いやね、オヤジが凝っちょーだけなんよ。たまたま新しいの買ったき、誕プレでお下がり貰ったっちゃん。」


「いーなー。」


「なんか、みんなベイト使いよんやね。」


「投げきーごとなったき、嬉しいやん。」

 訳:投げれるようになったからね


「たしかに。」


 盛り上がりも落ち着いてきたところで、


「今日、釣り行くんやろ?一緒行ってみらん?」


 重明が提案してくる。


「いーねー!」


「どこ行く?」


「徳丸とか、どげ?」

 訳:徳丸とか、どう


「お!いーね。あっこならどっちからも同じくらいの距離やし、広いき全員で釣らるぅね。」

 訳:釣られるね


 悩んでいた場所が呆気なく決まった。

 人数が多いと選択肢も広がるのだ。


 新しい友達と初めての釣り。

 なんだかとても楽しそう。

 これがきっかけとなり、さらに仲が深まって、釣り以外の遊びでもつるむようになる。




 仲も深まった5月下旬。

 初めての中間テストが実施され、答案用紙が全て返ってきた。

 結果はというと…全員もれなく玉砕。

 目も当てられない点数を叩き出してしまい、途方に暮れている。

 それはもう、見慣れなぁ~い服を着た…キ~ミ~が今ぁ…出~て~行ぃったぁby大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」ぐらいに激しく。


「最悪や~ん。文系の科目、木端微塵やし。」


「オレも。しかも数学もヤバい。」


「マシな点数あるだけいーやん!オレ、全部ダメやったばい。」


「やっべ~…高校行けんかも。」


「オレ、文系科目しか分からんかった。」


「お母さんに怒られる…。」


「ハハハ!お前、お母さんっち…。」


「何言いよんか?お前、知らんめ?ウチのお母さん、はらかいたらでったんコエーんぞ!」

 訳:何言ってんの?怒ったらものすごく怖いんだぞ


「そうそう。コイツ、オレが見よる前でちかっぱい打っ叩かれてマジ泣きしたもんね。」


「マジか!」


「マジぞ。」


「アレは、コエかった。」

 訳:怖かった


「どん引きやったし。」


「コイツら、オレが痛いっちゆって泣きよるんに、全然助けてくれんっちゃき。」


「助けらるぅか!」


「まだ死にたむねぇし。」


 ホームルームが終わって帰るまでの間、集まってバカ自慢をしていた。


 と、ここでこの集団でもだいぶヤラシイ重明が、


「ぷっ…ねぇ、これ。ククク…」


 孝満の答案用紙を指さし、笑い出す。

 そして、


「これっち『臭過ぎコー●ン』っち読めるよね?」


「ははは!ホントやん!」


「マン●臭過ぎたらいかんやろ!」


「ゴシゴシ洗わんと。」


 みんなから大爆笑された。

 孝満は、


「お~!なるほど!上手いな!山田く~ん、歌さんに座布団一枚!」


 あまりの上手さに絶賛感動中。

 けどでも。

 同時に、


 これ、人前で呼ばれたら恥ずかしくない?


 ということにも気付いてしまう。

 どうやって止めさせようかと考えているところに、


「こーまん。」


「よっ、こーまん。」


 早速、試し呼びする南小組。


「お!いーね。」


「なんかシックリくる。」


「キャラ的にピッタシ。」


 これがきっかけとなって南小出身のヤツら全員から呼ばれることになってしまう。

 インパクトあるし、スケベなのでピッタシということで、このニックネームは瞬く間に広まってしまい、挙句の果てに女子までがそう呼ぶようになってしまう始末。

 孝満は、


 もういいや。


 内心諦めつつも、


「やめい!学校の外とかで呼ばれたらかなり恥ずかしいぞ!」


 とりあえずツッコむことはやめないでおこうと心に誓う。

 結局このニックネームは高校卒業するまで定着することになった。




 ちなみにセイコはこのニックネームでは呼ばない。極度の恥ずかしがり屋なので男子の前じゃヤラシイことは言えない、というのもあるのだけど、気になる人の嫌がることをしたくないというのがいちばんの理由。

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