第5話 いろいろ判明

 臨時駐車場となっているグラウンドで親のクルマを発見すると、後部座席に乗り込んだ。

 するとすぐに母親が、


「あんた、セイコちゃんと同じクラスやんね!」


 嬉しそうに喋りかけてくる。

 誰のことか分からなくて、


「ん?それっち、誰かね?」


 聞き返すと、


「あんたの前の席に、キレイな金髪の女ん子おったろーもん?」

 訳:キレイな金髪の女の子いたでしょ?


 どう転んでも間違いようのない説明。


 …あ~!そーいや、なんかそげな名前やったね。


「なん?オカン、あの外人さんのこと知っちょーん?」


「知っちょーもなんも、セイコちゃんのお母さん幼馴染やし。ほら、さっき後ろで一緒におった、家によー来るおばちゃんがお母さんばい?元の名前、山田さんやき実家あっこよ?」

 訳:知っているもなにも


 なるほど!


 彼女に関する有益な情報、まずは1個GET!

 その名前は知っているし、お遣いでよく行かされる家だ。

 同じ組内で同じ並び。

 畑で採れた野菜や晩御飯のおかずを交換し合うような関係で、7件向こうのご近所さん。

 思わぬトコロで繋がりができて嬉しくなった。


 でも、そうなってくると当然、


 なんで?あのおばちゃんっち、でったん日本人やん。なら、おいちゃんが外人さん?で、ハーフっちコト?

 訳:ものすごく日本人じゃん


 という疑問が湧いてくる。

 嬉しさ絶賛大爆発中の母親は、心を読んだかの如くテンション高めに、


「セイコちゃん、キレイな金髪やし、目ぇ碧いし、お人形さんみたいにカワイイやろ?あの見た目で外人さんやないっちゃき不思議よね。あれ、何代か前、お父さん側の身内に外人さんおったき、らしいんよね。でも、クォーターよりもま~だ薄いき、オイチャンも見た目は完全に日本人やもんね。だき、セイコちゃん生まれてきたとき金髪やったき、でったんビックリしたっち言いよったもん。両親、完全に見た目日本人なんに、何代も前の特徴あんだけ強く出るとかスゴイよね?パッと見、ほとんど外人さんやもんね。」


 聞いてもないことを一方的にベラベラとしゃべってくる。が、これらは恥ずかしさが先に立って本人から聞くコトが出来ないであろう有益な情報なので、もうすぐ13年落ちになるエロ特化型超低性能センズ●専用脳内コンピューターにて有難く保存させてもらうことにする。


 ほぼ純粋な日本人だったことにまたまた驚かされる孝満。

 同時に母親の知り合いの子供だと判明したことで、抱いていたエロい感情が自動的に1/3ほど減った。

 実に不思議である。



 調子に乗ってきた母親の一方的なトークはなおも続く。


「でね、セイコちゃん、ちっちゃい頃お母さんと一緒に何回もウチ来たことあるし、あんたとも遊んだことあるき、幼馴染っちゃ幼馴染なんよね。覚えちょらん?」

 訳:幼馴染といえば幼馴染なんだよね


 なんと!


 またもや有益な情報GET!

 先ほどから驚きの連続である。


 なん?あの可愛い子とオレが幼馴染的なアレなん?


 嬉しさが爆発し、一気に身近に感じだす。

 しかし、あれほどの分かりやすい特徴(勿論金髪の方。幼い頃のことだから乳はまだ膨らんでいない)がある女の子だから、いくら小さい頃とはいえ覚えてないわけがないのだが。


「へ?マジで?あんだけの金髪なら、なんぼ小さい頃っちゆっても覚えちょーっち思うけど?」


「あの頃のセイコちゃん、自分の金髪が好かんでね。赤ちゃんの頃は被っちょらんやったばってんが、色々分かりだした頃から帽子被って来るごとなったもんね。だき、覚えちょらんっちゃろ。」


 そっか。あれだけの特徴、隠されたら覚えきらんかもね。たしかにあのおばちゃん、女ん子連れて来ちょー時あったもんね。あの子かぁ。そーいや「セイコ」っち呼ばれよったげな気がする。


 徐々に思い出してくる昔のハナシ。

 とはいえ、顔は思い出せなかったけど。




 週末もあっという間に過ぎ、週明けからは入学後のあれやこれやでかなり忙しい。


 まずはロングホームルームで自己紹介。


「順番が来たら、前に出てお願いしま~す。」


 ということらしい。


 前に出るやら恥ずかしいやんか!


 とは思ったものの、彼女の順番が楽しみでもある。


 しばらくすると、気になる彼女の順番がやってきた。

 立ち上がると、酷くおどおどした様子で前に出る。

 教壇に上がり、コチラ側を向く。

 背が高い。

 スタイルの良さがハンパない。

 そして可愛い。


 少し間を開けやっとのことで口を開くと…


「…き、きき、木藤シェイコれしゅ。みみ、み、南小出身れしゅ。」


 金曜日に聞いた可愛らしい声、再び!

 その時は「はい」の二文字しか発してないから分からなかったが、今回は違う。

 作った可愛さではなく、本当に素の声だということが判明した。

 舌足らずで滑舌がかなり悪いということも同時に判明。それに加え、空気が漏れる音が混じるため、かなり聞き取りにくい。

 それにしても、名前と出身校を口にしただけなのに、一生懸命さがスゴイ。そこに顔の可愛さがそのまま上乗せされるため、トータル的な可愛さはモーレツに増幅される。

 見ているだけで抱きしめたくなるような衝動に駆られる。


 声だけでも可愛さ100点満点なのに、喋り方まで可愛いとか、えげつねー!


「…え、えっと…あ、あの…しゅ、趣味は…」


 たどたどしくしゃべる彼女は極度の上がり症らしく、一度途切れてしまうとそのあとの言葉がなかなか出てこない。

 泣きそうにも見える困り顔がまた可愛くて。


 既に何度目か分からなくなるほどの、「何なん、この子?可愛過ぎにもほどがあるやろ!」。

 こんなの完全に大量破壊兵器でしかない。


 途切れてしまったままの言葉。

 無言の時間は続く。

 他の者よりも時間を食った挙句、恥ずかしさに耐えきれなくなり、


「…しゅ、しゅ、趣味は…あ、ああ、ありましぇん。」


 強引に打ち切り座ってしまう。

 胸の奥の方にある「カワイイ」を感知する部分に重大なダメージを食らった。

 カワイ死寸前。

 致命傷である。


 ふと気が付くと、同じように悶え苦しんでいる同小出身のヤツ(主に♂)が多数いる。

 犠牲者は自分だけではなかったのだ。


 コイツら…っち、何?この感覚…。


 何故か怒りが込み上げ、イヤな気分になったことに再び焦りを覚える。

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