第4話 名前

 全員が席に着いたタイミングで担任が教室に入ってきた。

 若くて愛嬌があり、親しみ易そうな女の先生だ。

 教壇に立って、


「ご入学おめでとうございます。担任の山下と申します。担当教科は英語です。初めての担任なので、至らないところもあるかもしれませんが、これから一年間、よろしくお願いします。それではまず出欠を取ります。呼ばれたら返事をしてくださいね。」


 お約束の挨拶。

「出欠」ということは、彼女の名前が分かるということ。


 何ち名前やか?

 訳:何て名前だろう


 なんだかとってもワクワクしてきだす。

 あまりよろしくない、というか非常に残念なアタマで、


 キャサリン?ジェーン?ナンシー?それとも…


 ベッタベタな外国人の名前を思い浮かべていたところでついに彼女の順番が!


「キトウ セイコさん。」


 呼ばれたのは見事なまでに予想を裏切るコッテコテな日本人の名前だった。


 は?マジで?


 思わず声に出してしまいそうになる。

 ほぼ同時に、


「え~!マジで?」


「あの人、日本人やったん?」


 ざわつき始める同小出身の人間ども。

 でもここで孝満は、


 掲示板に貼っちゃった名前っち、たしか男女混合のアイウエオ順やったよね?カタカナの、しかも外国人っぽい名前があったら、一個前やき絶対何か印象に残るよね?


 アホなクセに、まあまあいいトコロに気付く。


 なるほど。そーゆーことか。


 珍しくバッチシ理解した。



 彼女はというと、呼ばれた瞬間「ビクッ!」と身体を震わせ猛烈に赤面。

 一度大きく深呼吸をすると、


「…はい。」


 小さな小さな声で返事。


 この声がまた可愛くて!


 寝起きのような、風邪の時の鼻声のような、少し鼻にかかった甘~い声だった。

 モーレツに掻き立てられる庇護欲。

 もうホント、声だけでも惚れてしまいそうなレベルなのである。


「はい」の一言でこの破壊力とか、有り得んくない?しかも、あの顔やろ。こげなんカワイイのオンパレードやんか!


 悶え苦しんでいると、やはり教室の至る所から「声も可愛いね!」といった類の言葉が聞こえてくる。

 そのようなざわめきはイヤでも本人の耳に入ってしまうワケで、ますます真っ赤になると、大きな体を縮こまらせた。


 恥ずかしさが限界を突破してしまった彼女の様子を真後ろで見ている孝満は、助けてあげたい、でもできない、なんとももどかしい気分になるのだった。


 出欠を取り終わると祝いの言葉、今後の予定の説明へと移ってゆく。

 それが終わるとすべて終了。

 帰宅することになった。

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