第6話 早起き奥様
「順調に処理できて、十六時半には終わるか終わらないかという感じです。お客様のご要望では、追加で処理しなければならない商材もあると伺っています。進捗状況に依っては残業のお願いもあります。その場合は各派遣会社のリーダーさん、よろしくお願いいたします」。
就業前迄残り二時間、中礼での申し送り。当日中に処理しなければならない商材がかなり残っているとの報告。作業場に戻り、商材の仕分け等々に取り掛かる。此の作業、一人が商材をスキャニング。もう一人は所定の箇所へ投入する作業。正確さはもちろん、同時に要求されるのはスピード。特に、投入担当は、上下左右横斜めへとかなり激しくスクワット系の動きを含め、躰を動かすことになる。
「さっき、やって頂きましたから、こんど私の番では?」
投入作業を始めようとすると、その日、交代で作業に当たっていた女性に言われた。
「いいですよ、疲れたでしょう?」
「いいんですか?」
目尻の小皺が少し垂れ下がり、上目遣いでサンキュウサインを出している。暫し見つめ合う。
『かなり、お好き?この奥さま』
またまた、イマジネーションMAXのままラストスパート。作業が黙々と再開される。真剣そのものの顔付きをしながら、ちらちらと彼女へ視線を向ける。半分程迄作業が終わる。
「でも、明日は仕事ですよね」と聞いてみる。
「そうですよ」
「朝、辛いでしょ」
「毎日、四時半には目が覚めてしまうの」
「あれ、私も同じですよ」
「会社行く前に洗濯物片づけて、ごはんの支度して、犬を散歩に連れて行くんです」
「眠く、なりませんか?」
「しょっちゅうですよ。こないだなんか、デスクの下のファイル取るふりして、そのまま」
「机の下で、寝落ちですか?」
目尻の小皺が綻んで、舌をペロリと覗かせる。ごちゃごちゃ舌を働かせていると、商材が溢れこぼれるカートが陸続と到着して作業再開。
手渡される商品の隙間から時折、小指と中指が触れ合う。
「腰、大丈夫ですか」
と訊いてみる
「え?」
「カートの底の方から商品を取り出す時、腰痛めますから」
「そうですね。大丈夫ですよ」
両脚を大きく広げて跨り、腰を振るのに慣れている奥さまは『腰は頑丈です』と強調して止まない。跨る?振る?勿論、乗馬教室でですよ。
NYCに本社を置くディベロッパーが、地底十数メートルまで基礎をガッツリと打ち込んで建設したハイテクウエアハウス。其のコンクリート床をガタピシ言わせて、色彩豊かなカートが一台、二台、そして三台と到着していく夕暮れ時。
ワンコールワーカー みう @mieux_kunio
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