第4話 苦労人

 四十分間のお昼休み時間、作業場脇の休憩室。盛夏のお昼休みはほとんどのワーカーがへとへとになりテーブルに崩れ落ちる。


「顔色、少しはよくなったんじゃないの」

 ポロシャツの前をはだけた男が言う。

「ですか?でも、まだまだしんどいけですけど」

 女性が呟く。盛り上がったヒップラインを描くスキニー。伏し目がちな漆黒の瞳。

「しんどいって、からだ、金?」

「どちらもですね」

「でもさあ」

 男が、少し言い澱む。

「前よりずっと状態、よくなってるとオレは思うよ。アイツとは縁、切れたんでしょ?」

「夜中とかに押しかけてきて、私の財布から何枚も抜き出しては怒鳴り散らして出て行くというようなことは、もうなくなりました」

「よかったじゃん。あと、幾らぐらいで、完済になる」

「それでも、まだ八年位は残っています」

「まだ長いな。でも、からだ、元気そうだからさ」

「私、夜勤も入れてもらますか?」

「今は依頼量多いから入れられるけど。からだしんどいなら、無理しない方がいいと思うけどな。夜勤日勤の連続が何日も続くぞ」

「それくらい、覚悟です」

「心配だな」

 男は、腕組みをして俯いた。

 周りが、騒がしくなり始めた。午後の作業開始時刻が近づいている。

「営業所には、ちゃんと言っておいた方がいいよ。事情があるので夜勤と日勤のシフト、常識の範囲内で組んでくれって。そうしないと、昼夜兼行のメチャクチャなシフト、平気で入れられるから」

「分かりました」

「なんかあったら、連絡して。力になれることあればなるからさ」

『午後、始まりです』

 作業場の奥から声が伝わってくる。休憩室でスマホを必死にチェックしていたワーカー達が三々五々立ち上がり、ロッカーに荷物をしまう。現場の入口に、セキュリティーチェック待ちの列が出来始めた。

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