第7話 魅了薬使いと忠義メイド、アン

 王都に着いたアリサは、すぐに、ブラウン侯爵家の王都別邸に入った。

 しかし・・・


 この少女、来た早々トラブルを起こす。




「私はリリアよ。貴方がユニーグス家から来たメイドね。行儀見習い頑張るのよ。さあ、私が自ら焼いたクッキーよ。お食べなさい」


「はい、・・・・ウゲ、不味い!ペッ、ペッ、何か変な物が入っている!水、水」


「「「無礼者!」」」

「お嬢様のクッキーを不味いだなんて」

「美味しいわよ!」



 ・・・え、もしかして、この娘、気がついた?そんな馬鹿な。確かに、黒髪だけど、目は違う。異世界人、黒髪族?!あれだけには近づいてはいけない。

 まあ、そんなことはない。黒髪族が、メイドなんてしている訳がない。


 私は慈愛の令嬢のリリアよ。


「オホホホホホ、ごめんなさい。口に合わなかったようね」


「全くだ。人が口にするものに、変な物をいれるんじゃない」


 ・・・このクッキーは魅了薬入りよ。魅了薬に体液を混ぜて、対象者が私の目の前で食べれば、魅了が発動されるハズだけど、

 完璧のようで、欠点もある。定期的に食べさせなければいけないことだ。


 まあ、効かない者もおろう。

 遠ざけるか。


「まあ、私とは性格が合わないようね。そうね。マリアベルお姉様のところでお仕えなさい」


「そもそも、お前、誰だ?ここにいる令嬢はマリアベル様だけと聞いたが?それに、お前はBBAじゃないか?」


「これ以上、無礼な口を利くのは許さない!」

「この女!躾けてやる」

「さあ、こっちに来い!」



 ☆☆☆ゴミ集積所



「どうだ。臭いだろう」

「イジメ令嬢だ。王国の至宝、慈愛の令嬢リリア様をイジメたブタだ」

「おい、アン、こいつを仕込んでおけ」

「ヒィ、分かりましたのです」



 ・・・・



「これは、ヒドイ、令嬢が汚物まみれで、鎖につながれている。意識は朦朧としている」


「あの、その、お嬢様は、悪い方ではありません。突然、リリア様という方が現れて、イジメられていると言って、始めは誰も信じなかったのですが、いつの間にかに、こうなりました。執事長まで、グスン」



「私はアリサ」

「アンです。前はランドリーメイドでした。今は、お嬢様付きをしています」

「クッキーは?」

「食べましたが、変な気持ちになったので、吐いたのです。私がお嬢様を嫌いになる訳ないのです。どこも雇ってくれなくて、路頭に迷っていたら、採用してくれたのです。グスン」


「・・・じゃあ、アン先輩、まずはお嬢様を綺麗にして、お粥を食べさせましょう」


「ヒィ、鍵なんて、外してもらえる状況ではないのです。食べ物だって、ここに捨てられた残飯です。だから、私の分を差し上げたり。お給金で清潔な食事を用意している状態なのです」


 ガギン!ブチン!


「ヒィ、素手で手錠を、ヒィ、素手で、鎖を!怖いのです!」


 ボン!


「ヒィ、空間から魔道具が出てきたのです」


 ボオオオオオオーーーー


「ヒィ、魔道具でお湯を沸かしているのです」


「湯浴みをする。これは野外ボイラー」

「はい!タライを持ってきます」


(早く清潔な部屋に移動しなければ、中隊ハブ、忠誠心強化で足りるか?)


「中隊ハブ!WAC(じょせいじえいかん)の魅惑!!」


 ボア~~~


「ヒィ、右手をあげて、お屋敷に何か呪いをかけているのです!」





 ☆☆☆数日後、本館


「あら、人が減ってきたわね。皆、どうしたのかしら」


「「・・・・・・・・」」


「あの、大変失礼ですが、どこのご婦人の方ですか?」

「それは、お嬢様のドレスでは?」



 婦人?私は38、化粧で18歳に見えているはずよ。

 切れたか。おかしい。2,3日前に食べさせたのに、


「まあ、私のクッキーをお食べなさい」


「はい」

「ウグ、これは、変わったお味ですね」


 効かなくなっている。


 もしかして、上位の魅了使いが現れた?

 私の魅了薬は初歩、本物にはかなわない。


 しかし、魅了使いは絶滅したハズよ。

 こうして、令嬢の家に潜り込んで、イジメ抜いて楽しんでいたのに、


 私は元娼婦、

 たまたま、先輩娼婦から、禁忌、魅了薬を教えてもらった。

 50前でも客がひっきりなしだったが、衛兵隊に捕まり。私は逃げた。


 この魅了薬は、客じゃなくても使えるのではないかと閃いた私は、


 生まれだけで贅沢をしている令嬢を懲らしめることにした。親と離れて暮らしている令嬢なら、簡単に潜り込める。


 奴ら、コジキである私に、慈愛をかける。


 マリアベルは私をゴミ捨て係で採用しやがった。ふざけやがって、だから、復讐をしているのよ。これは正義の行いだわ。



 本物の魅了使いは、大昔に討伐されている。

 しかし、何度も使うと、効き目が悪くなるのか?

 そろそろ、次の寄生先を探すか。





 ☆☆☆夜




 ガタガタ~


 使用人達の足音で目が覚めた。


 声が聞こえる。


 ガヤガヤガヤ~~~~


 人だかりが聞こえる。ゴミ集積所の方だ。様子をうかがおう。マリアベルは何も出来ないハズだけど、


 人だかりが出来ている。

 庭木に隠れて、様子をうかがう・・・あの黒髪のメイドだ。

 整列した使用人たちの前に立っている。




「傾注!私の愛が欲しかったら、アン先輩の言うことを聞け!これより、真のお嬢様の部屋奪還作戦を行う!アン先輩お言葉をどうぞ」


 アタフタ、アタフタ~~

「ヒィ、マリアベル様の部屋を、取り返して下さい!!」


「「「はい!アン様!」」」


「命令補足!真のお嬢様の部屋を占拠している女はリリア、コードネームは『ゴミ』!ゴミはどうしたらいい?」


「「「踏んづけます!」」」


「そして!」


「「「蹴飛ばします!」」」


「最期に!」


「「「燃やします!」」」


「大変です。ゴミがいません。さっきまで、ブタのように寝ていましたが、いません!」


(ヒィ)


 私は逃げた。こいつは、本物の魅了使いだ。世界が滅ぶ!!




 ☆☆☆王都騎士団本部


「信じて、下さい。本物の魅了使いがいるのです!三番通りの侯爵家の別邸です!」


「・・・女、嘘だったら、縛り首だぞ?」

「本当です。信じて下さい!」


 カラン~~


「何だ。この瓶は?」

「怪しいな。鑑定士を呼べ。この女の持ち物を調べろ!」


「ヒィ、それどころではありませんよ!」




 ☆☆☆侯爵家王都別邸



「使用人達は、アンとアリサ以外は、数日間、記憶がないそうです。皆、吐いています。

 魅了薬の成分は・・・生理の血や、○○汁が含まれていましたから・・」


「女の使っていた薬は、魅了薬もどきです。真の忠義者、真の愛を誓った者には効かないものです。

 まあ、勇者様には効きませんが、それは考慮する必要はありません」


「そうか、貴族学園に通学されるために、王都に滞在されていた侯爵令嬢マリアベル様は、病気で、長期欠席されていたが、そんな理由があったのか。この女が潜り込んだのか」


「ヒィ、信じて下さい。あの黒髪の女が、魅了使いです!」


「黙れ!来たばっかりで、薬が効かなかったのだろう」

「アンというランドリーメイドは、自力で薬を吐いた。まさに、忠義メイドだ」


「頭、わいてんのか?だから、私が、魅了薬を使って、こいつが、更に、その上の魅了使いだ。調べろ!私は世界を救うために、身を犠牲にしているのよ!!」


 ボカッ!


「黙れ!」

「こいつは、縛り首だ」

「黒髪だけで差別するのは禁止されている!」


「ヒィ、私は世界を救おうとしているのに、お前からも何とか言え!魅了使い!」


「お嬢さん。この女、おかしいから、気にしちゃいけないよ。後は騎士団に任せなさい」


 コクッ


「・・・・・・・・」

 ・・・終始、黙秘を続けるアリサだった。




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