第4話 高利貸し男爵

 この騒動は、男爵令嬢の一言から始まった。


「お父様!メイドに、伯爵令嬢が欲しい」


「おお、スザンナ、いいぞ。良い趣味だ。お父様に任せなさい」

「やったー、男爵家だけど、伯爵令嬢のメイドを仕えさせられるわ。お友達に自慢できるわ!」


 我家は男爵家だ。

 金貸しを生業にしている。


 力は、伯爵家の上級、侯爵家未満だ。あまり、力をつけたら、潰される。

 しかし、舐められたら、貴族社会は終わりだ。

 目立たないように、王国へは男爵家の義務だけで済ませるようにしている。


 没落した伯爵家はつまらん。伯爵家の生粋なお嬢様を、スザンナの専属メイドにしよう。


 ここらで、有名な伯爵家は、ユニーグス家のコレットか??


 いいぞ。代替わりで、世間知らずの令嬢ならどうとでも出来る。


 まずは、文だな。たった、書状一枚で上手いことやってやる。





 ☆☆☆ユニーグス家



「まあ、お父様が借金を、そんな話は聞いていないわ。それもこんな大金を・・・」

「お嬢様、私も、そんな話は聞いておりません」


 使者は、口をつぼめて、さも、秘密の話のように言う。


「ええ、ご家族の方に内緒の借金のようですよ。何でも、酌婦に入れ込んでいたみたいです」


「そんな・・お父様が、グスン、生前にそんなことを」


 ガクッと膝を落とした。



「借用書を確認しなければ、何とも言えませんわ」

「ええ、勿論、しかし、大事な借用書です。当家で確認頂くのが筋でございます」

「ええ、そうね」


「いつでも良いので、一度、メリガー男爵家まで、お越し下さい。何、旦那様の事です。悪いようにはしません」


「分かりましたわ。先触れを出します」




 ・・・・


「どうしましょう。どうしましょう」


「お嬢様!落ち着いて下さい。まずは事実確認です」


 しかし、いくら、探しても大金を借りた形跡はない。


「もし、貴族裁判でも起こされたら・・・メリガー男爵家、あまり、良い噂を聞かないわ」

「ええ、財力では完全に当家の負けです」





 ☆☆☆数日後

 

 ☆メリガー男爵家



 先触れの書状が、男爵家に届けられた。

 届けたのは、メイドのアリサだ。


「ほう、ほう、3日後に、当主、自らいらっしゃると、お嬢ちゃん。若いね。いくつだ?」

「・・・14歳」


 ほう、黒髪だ。瞳は、少し青の黒か。さすがに異世界人ではないな。

 ここは、相手の伯爵家の使用人には親切にする。乗っ取った際、支配しやすくなるからな。


 こんなメイドでも、噂は馬鹿にならない。お菓子でもあげて、男爵は善い人と噂を流してもらおう。


「ケーキでも食べていくか?お給金はいくらだ?お小遣いをあげよう」


「ところで、お前、お嬢様のお父様の借金は、貴族院の債権登記簿に登記してあるのか?」


 貴族院に届けるときは、債権者と債務者が同時に出頭し、誰の目にも家の借金が明らかになる。

 貸した貸さないの紛争を未然に封じるためと、破産したときに優先順位で配当をもらえるメリットがある。


「「「!!!」」

「タメ口!ユニーグス家は、使用人の教育は出来ていないのか?」


「アハハハハハ、まあ、いい。お嬢様が大好きなのだろう。よし、少し、遊ぼうか?」


 使用人には親切にするが、たとえ、他家であっても、舐められたら別だ。

 少々、お仕置きをしてやろう。お尻ペンペンでもしてやるう。


 ワシは鑑定のスキルを持っている。

 鑑定と言っても様々だ。


 ワシは相手の財力、兵力を総合して、戦闘力として見ることが出来る。

 だから、生き延びて来た。

 少し、お仕置きをして・・・・


 ピコン!


 巨大ドラゴン級・・・


 ・・・えっ、何だと、間違っているのか??

 国中の騎士と兵を集めて、やっと討伐出来る代物じゃないか。


「おい、魔力波を感じたぞ。スリーサイズでも計測したか?変態か?それとも、馬鹿か?聞こえているのか??債権登録簿に登記してあるのか?」


「・・・・していない」

「なら、借用書を見せろ」

 偽造したものだ。


 こやつ、認識阻害魔法を使って、クラスを誤魔化しているのか?

 同じ鑑定士か?なら、ワシよりも上級だ。

 なら、殺そう。一人で来ているな。


「アハハハ、さすがに、一使用人には見せられませんな。コレット嬢に見て頂きます」


 先代の筆跡を真似て作ったのだが、こやつに見せたら、一発でバレるかもしれない。


「その借用書に、契約魔法は掛かっているのか?」


「いえ。あくまでも、前の伯爵殿との個人的な貸し借り・・・です」


・・・これも、個人特有の魔力波がかかっているので、貸したことが証明される。



「ほお、貴族院にも届けずに、契約魔法を掛けない・・・そして、突然、借金があると言い出す。舐めているの?」


「旦那様!抗議しましょう!」


 あれ、ワシは何で敬語を使っているのか?


 プルプルプル~~~~

 足が震えている。


「なら、仕方ない」


 少女はそのまま帰ったが、

 脂汗が出てくる。

 嫌な予感がしてたまらない。


 奴はもしかして、異世界人か?

 異世界人がメイドを?


 意味が分からない。


「ええい。用心棒を・・・いや、ワシ一人だけで行く」

 ワシは少女の後を追った。


 やっぱり、まだいる。

 屋敷を見下ろせる丘にいた。


 何だ。空間から、鉄の筒を出している。

 定規を出して、屋敷を見ている。距離を測っているのか?


 少女の体が青く光っている。

 間違いない。身体強化魔法、個別鑑定、魔王級!


「はあ、はあ、はあ」


 ワシは土下座した。

 何か分からないが、とんでもないことをしようとしていることだけは分かった。


「全て、嘘でございます。コレット様を、我が娘、スザンナのメイドにしようと思っておりました。

 ええ、全て、私の一存です。どうか、娘だけは、殺さないで下さい」


「・・・・・・」


 長い沈黙が続いた。


「厳しい中にこそ幸せがある。お前の娘は優しい不幸の中にいる。だが、・・・娘を庇った。今回は見逃す。全て、穏便に対処しろ」

「有難うございます・・・有難うございます。グスン、グスン」


 少女は迫撃砲をしまった。

 この丘から、攻撃しようとしていたのだ。




 ☆☆☆数日後


 ☆メリガー男爵家


「まあ、全て、間違いでしたの?」

「ええ、申し訳ございません。当方のミスです。勘違いでございました!」

「書状で示しましたが、来て頂かなくても良かったのに、いえ。女伯爵様に来て頂いて大変光栄です!」


 あの化け物を従える女傑だ。下手なことをしたら殺される。


 ガチャ


「お父様、この人が、私のメイドになるの?」


「コラ!ボケ!アホ!ノックもせずに、来客中に入ってくるな。

 礼儀を・・・すまない。礼儀を教えてなかったのは、ワシの責任だ。家庭教師をつけるぞ!スザンナを連れ出しなさい!」


「どうして!」


「まこと、申し訳ございません。早急にマナー講師を娘につけます。お詫びは後日・・」


「まあ、帰りますわ。気にしていないですから、お詫びは大丈夫ですわ」


 読み違えるなワシ、つまり、お詫びは(お前の命の保証で、あげれば)大丈夫ということか?



 ☆後日


 お詫びが届くことになる。


「ヒィ、鉱山の権利書と、王国債証書が届きましたわ!」

「これは、メリガー家の10分の1の資産です。意味が分からない!」



「・・・・・」

 食えない奴とアリサは思った。





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