ドブの上にも3年
前回のあらすじ。
事故で監督官を殺しかけて仕事を失った僕。
そんな僕が家に帰ると、フランさんが3万Gの借金を作って待っていた。
返済期限はあと2日。それまでにお金を用意することはできるのか……?
■
無理でしょ。
はい、というわけで猶予2日で3万G稼がなければいけない現状の魔法生物11号です。
猶予2日と言っても、もう1日過ぎたのであと半分しかないんですけどね(笑)。
ちなみに1日目だった昨日は何をしていたかというと、冒険者ギルドでドブさらいの依頼と少し調べものをしていました。
そうして依頼で得た報酬が30G。
つまり、今日中にあと29970G稼ぐ必要があるわけですね。
何とかできると思います……?
生まれてから稼いできた合計金額で300G超えてないんですよ?
3万って……。バカ?
ドブさらいの仕事を終えた後、渡された10G硬貨3枚を見た僕は思いました。
「いや、絶対間に合わないじゃん」って……。
フランさんがワーウルフ購入のために負った借金の返済猶予は2日。
このままドブさらいをやるだけでは絶対に足りない計算です。
まぁ、絶対間に合わないので、僕は手法を変えることにしました。
何か方法はないか情報収集することにしたわけですね。
そして調べたのが「冒険者以外の職業で稼ぐ方法」について。
落ち着いてください。
それは冒険者になる前に調べろよと思うのは分かります……。
ですが、当時の僕(と言っても1週間と少し前ですが)は生まれたばかりの赤ちゃんでして……。
記憶もない中でフランさんにお金を稼いでくるように命じられ、なんとなく湧いて出た「異世界転生者は冒険者ギルドに行くもの」という発想に従って行動していたのです。
たまに湧いて出てくる現代日本の知識は恐らく記憶を消される前の僕のもの。そう悪いことにもならないだろうという打算もありました。
そんなこんなで、今まで冒険者以外の仕事について調べていなかったんですね。
そこであらためて大金の得られる仕事について調べてきたわけですが……。
結論から言いますと、1週間前の僕が冒険者になったのは最適解でした。
そもそもの話ですが、信用が無いと大金どころかまともな仕事は貰えません。
たとえば町の治安を守る衛兵なんかは結構な高給取りでしたが、そんな仕事をポッと出てきた素性の分からない人間に任せませんよね。
今までやっていた冒険者の仕事はむしろ特殊。弱者救済や盗賊化防止の為に職を与える目的らしいです。
だから誰でも登録できる代わりに薄給なんですね。
ちなみに、フランさんの信用を借りるというのも考えてみたのですが、無理そうです。
理由はシンプル。あの人も信用ないから。
マッドサイエンティストで前科持ちですからね……。
しかし、打つ手なし。本格的に困りました。
このままではフランさんのこさえた借金を返せません。そうなると僕も廃棄されるかも……。
どうしたものか……。
■
「どうしたらいいと思います?」
「ん、変な名前の変質者じゃん」
「つぎはぎワーカー君です」
ここは、つぎはぎ研究所からほど近い空き地。住宅の多い立地のため、子供たちの遊び場になっている場所です。
冒険者ギルドから帰る途中にあるので、よく立ち寄るんですよね。
そして、僕のことを2回も変と言ったこの子供はクソガキ先輩。
以前、腕がガトリングとトゲ鉄球のため薬草採取ができずに詰んでいた僕に、足による採取を提案してくれた恩人です。
年齢はたぶん小学校高学年くらい。
褐色の肌に黒髪、半袖短パンの服装をしています。
先輩は僕の顔を見ると、なにかに気づいたのか正面に向き直って真面目に話すモードになりました。察しのいい人です。
「なんかあったん?」
「実は、明日までに大金を用意しなくてはならなくなりまして……」
「ふむ、いくらくらい?」
「3万Gです」
「……無理じゃない?」
「ですよね」
3万Gというのは、ドブさらい1000日分の給与ですからね。
約3年分ですよ? それをあと1日ない状態で稼げと?
もっと言うと、大抵の人間は衣食住を必要とするので、そういった生活費を引けば、かかる時間は何倍にもなります。
出費の感覚が一般人じゃないんですよフランさん。もう学会を追い出されて国から研究費も出ないのに……。
「なんでそんなにお金が必要なん?」
「母がオークションで支払えない金額の買い物をしまして」
「それが3万G?」
「はい」
「何買ったんだよ……」
先輩もドン引きしています。やっぱり一回の買い物で3万Gはおかしいですよね。
僕の感覚が正しそうで安心します。
先輩はそう言って引きつつも、顎に手を当ててしっかり考え始めました。
こんなの与太話にしか聞こえない額なのに、真面目に考えてくれてる……。やっぱり先輩は神的にいいひとなんですよね。
しかし、先輩が眉間にシワを寄せて考えてくれていますが、案は出てきません。
「うーん、思いつかん……」
「やっぱりダメですか……」
先輩でもだめとなると、いよいよ手詰まりです。
しばらく二人でうんうん唸っていると、先輩はこりゃだめだと両手を上げて降参のポーズをとりました。
そして少し笑いながら話を続けます。
「こりゃもう大道芸人ぐらいしかないかもな、ははっ」
「大道芸人ですか……?」
「あれ、伝わんなかった? 笑うとこだぞ」
先輩は雰囲気を和ませるために面白いこと言ったようですが、いまいちピンときません。
大道芸人って、大通りで芸をしておひねりもらうやつですよね。1日で3万G稼げるような職業なのでしょうか?
「あー、そういえばお前、この辺の生まれじゃなさそうだしな。そういうこともあるか……」
「お、人種差別ですか? わくわくしてきますね」
「なんで嬉々としてんだよ……。そういうわけじゃなくて、昔からあるおとぎ話なんだよ。『王様になった大道芸人』っていう」
王様になった大道芸人……。
ダメですね。知識が湧き出てくるのを期待しましたが、前の僕も知らなかったのか、その童話については全く分かりません。
「存じ上げませんね……。どんな話なんです?」
「うーん、ネタの解説するのなんか恥ずかしいな……」
「そこをなんとか」
「まぁ、簡単に言うと、しがない大道芸人が偶然通りかかった貴族に絶賛されて、そのままどんどん偉い人の前で芸をしていくことになるって話。最後は王様に気に入られて跡取りになる」
「なんか、オチに現実感ないですね」
「それはそう」
この世界の文化に疎い僕に、先輩は面倒そうにしながらも説明してくれます。ありがたい……。
あらすじを聞く限り、わらしべ長者的なテイストを感じますね。
あれもひょんなことから金持ちになる系の話ですし。どこの世界にも似たような話はあるのかもしれません。
「しかし、大道芸人ですか……」
「ああいや、冗談だから気にすんな」
「いえ、誰かに雇われる方向でばかり考えていたので、別方向からの発想はありがたいです」
ふむ……。
先輩はただの冗談と言いましたが、考えてみると良い発想かも……。
今のままドブさらいをしていても、3万Gなんて絶対に集まりません。
それならむしろ、大道芸人のような不確定要素の強い方法で一攫千金を狙ったほうがまし。まだなんとかなる確率が高そうです。
「ありがとうございます先輩。その方向でやってみようと思います」
「本当に冗談だったんだけど……。まぁ、死ぬような真似だけはするなよ。寝目覚め悪いから」
「上手くいったあかつきには必ずお礼をさせていただきます」
これでまた先輩には恩ができてしまいました。
この11号、受けた恩は返さなければ気がすみません。
「いいよそんなの、ただ雑談しただけだし」
「絶対お礼を受け取って貰うからな……!」
「なんでそこで睨めつけてくるんだ……。怖いよ……」
昨日からずっと悩んでいましたが、やることが明確になって気持ちも上がって来ました。
ここはひとつ目標を叫んでおきましょう。
「大道芸人王に、俺はなる!」
「おう、まぁ頑張れよ」
先輩は僕の海賊王ネタを完全にスルーすると、片手を上げて去っていきました。
あ、この世界じゃこのネタは伝わらないですよね……。
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