つぎはぎの薬草採取人
薬草摘みで詰み
日を改めまして、やってきました冒険者ギルド。
はい、というわけで労働のために生み出された悲劇の魔法生物、11号です。
現在の総収入はなんとマイナス500G!
危険物所持の罰金が重すぎませんか?
生まれつき四肢に凶器が埋め込まれた人のことも考えて頂けると嬉しいです。
うーん、そんなバカみたいな身体の奴いないか(笑)。
それはさておき、皆様にご報告を。
なんと、今回は冒険者の酒場への入店に成功しました!
前回は凶器が剥き出しだったことで通報されましたが、今は全身に包帯を巻いているので、穏便に入店できたわけです。やったね。
では、いざ冒険者デビューといきましょう!
■
両腕がガトリング砲とトゲ鉄球だと何が困るか分かる?
答え:薬草が摘めない
はい、というわけで冒険者デビューしたのは良いけど最低ランクの依頼を達成できないので詰んだ系魔法生物の11号です。
皆さんいかがお過ごしでしょうか。
あの後ね、冒険者登録はできたんですよ。
ギルドカードは身分証替わりにもなるとかで、最近増えたらしい移民の管理のために無料作成キャンペーンやってました。お金がないので助かる。
晴れて冒険者にはなりました。
ですがね、いやはや盲点でした。まさか最低ランクの依頼が「薬草摘み」と「ドブさらい」のふたつしか存在しないとはね。
薬草摘み→手がないので摘めない
ドブさらい→手がないので掃除道具が持てない
詰みです。
なんでそのふたつなんですか……?
もう少し両腕がガトリングとトゲ鉄球の人のことを考えて設定してほしいものです。
という要望を受付さんにしたところ……。
「そんなバカみたいな身体の奴いないだろ(笑)」
「ここにいます……」
「そう……」
という応対を頂きました。ですよね。
あと、受付は男性でした。冒険者ギルドの受付は美人のお姉さんがやってるものじゃないんですか? これについては許せそうにありません。
さて、ともかくどうしたものか。
生まれてはや数日、このままでは生まれた理由であるフランさんの研究資金確保どころか食費すら賄えません。
フランさんに相談しても、「それを考えるのも君の仕事。わたしに研究以外のことで頭を使わせるな」と怒られました。
だから自分で解決しないといけないんですよね。どうしたものか。
どうしたものか……。
■
「どうしたらいいと思います?」
「え、あんただれ?」
「つぎはぎワーカー君と申します」
「へー、変な名前」
今僕の名前を馬鹿にしたこのクソガキは、近所の子供ですね。
今いる場所は住宅街にほど近い空き地。子供たちの遊び場になっているようです。
薬草を摘めない失意の中、彷徨っていたらたどり着きました。
全身に包帯を巻いた巨漢の不審者がいるにも関わらず、何も気にせずに遊びまわっています……。この街の子供は図太いですね。
「人の名前を馬鹿にするものではないですよ。母がつけてくれた立派な名前です。あなたも自分の名前を笑われたらいやでしょう?」
「なんか説教してきた」
「そんなことより、話聞いてくれます?」
「いきなり何? いいけど……」
「ありがとうございます」
ガキと言いましたが、僕が生後数日であることを考えると大先輩なんですよね。
亀の甲より年の功。僕の思い至らなかった考えがあるかもしれません。
よろしくクソガキ先輩。
「僕は冒険者なんですが、両腕がガトリング砲とトゲ鉄球なので薬草が摘めなくて困っているんですよ」
「ヤバ、化物じゃん」
「人間ですが?」
「人間であることに固執しているところが、より化物っぽい」
「それ今後禁止カードでお願いできますか?」
え、子供ってこういう感じ? もうちょっと優しい生き物かと思ってました……。
やっぱり人間と言い張るのは無理スジですかね? 実際魔法生物ですしね僕。
しかし、小学生ぐらいの子にこのまま言い負かされるの恥ずかしすぎます。ここいらで一勝もらっておきましょう。
「僕のほうが身体が大きですよね」
「え、まぁそうじゃない?」
「僕の勝ち!」
「えぇ? なにコイツ……」
勝ちました。これで心の平穏を保てます。
小さい勝利の積み重ねが強靭な精神を育むんですよね。
勝ち誇る僕にクソガキ先輩は心配そうな顔を向けてきます。
「あんまりそんなこと言ってると、友達いなくなるよ?」
「正論やめてもらっていいですか? それに、生まれてからまだ友達一人もいないので大丈夫です」
「えぇ……」
クソガキ先輩は「マジかコイツ……」とでも言うかのような表情でこちらを見てきます。
お、やるか? 赤ちゃんだぞこっちは!
「それより、問題が解決してないんですよ」
「いいならいいけどさ……。で、問題ってなんだっけ」
「腕がヤバくて薬草摘めないどうしようってやつです」
「まぁ、その腕じゃ摘めないだろうね」
「そうなんです。このままだと家にお金を入れられません」
実のところ大問題なんですよね。
フランさんは気にしなくて良いと言っていましたが、あの人は割と倫理観が終わっています。あまりにも稼げないでいると、脳みそを取り替えられて、つぎはぎワーカー君ver2にされてしまうかもしれません。
だから藁にも縋る思いで近所の子供にアドバイス求めているんですよね。
そんな僕にクソガキ先輩から一言。
「ふーん、足で摘めば?」
……足で?
■
右足を変形させてブレードを出し、それを地面に突き刺して体を安定させる。
そして片足立ちの状態を保ちつつ、左足の指で茎を挟み、少し上方向に力を入れると……。
プチッ
小気味いい感触とともに切れました。
そして摘み取った薬草を背負った籠に入れて……。
薬草採取成功です。
この草は生命力が強く、根さえ残っていれば何日かするとまた生えてくるらしいです。なので根ごと持っていこうとすると監督官に怒られます(一敗)。今回は成功。
足での薬草採取。最初は僕も「それは無理だろ……」と思っていたのですが、やってみると案外上手く行きました。
それもこの身体のおかげです。
さすが天才を自称するフランさん作の身体です。こんなゴツい見た目と武装の割に関節の可動域が凄いんですよね。
ほら、Y字どころかI字バランスも、M字開脚だって思いのまま。
足で頭の天辺もかけちゃいます。
なるほど……、フランさんはこれを見越して僕に手を付けなかったのか。これなら日常生活も問題なさそうです。
そして摘んだ薬草を提出して依頼を無事達成。足で採取籠を渡したら睨まれました。仕方ないじゃん……。
これで今日の報酬は10G。初任給ですね。
昨日の罰金が500Gだったので、合計マイナス490G……。今日はほとんど空き地で遊んでいたので、明日頑張ればもう少しまともな稼ぎになるでしょう。
つぎはぎワーカー君の頭脳(直喩)担当はまだ続けられそうです。やったね。
では仕事も終えたところで、いざ帰宅。
■
「あ、おかえりー」
「ただいま戻りま……っ!?」
家に帰るとフランさんが迎えてくれました。
美人に出迎えてもらうの嬉しいな……。
と、のんきなことを考えていた僕でしたが、彼女が両手で抱えているものが目に入り、絶句します。
彼女が抱えていたもの、それは脳。
微かに付着した血の赤さから、新鮮なものであることが伺えます。
新鮮……つまり、僕の頭に入れて、新しいつぎはぎワーカーを作れる脳……。
う、うそですよね。まさか新鮮な脳が手に入ったからと、僕と交換しようとしてしているんですか……?
「フ、フランさん。今日稼いできたお金です……。少ないですがお納めください」
「ん、ああ、そこに置いておいてくれ。今準備してるから、先に座ってなさい」
「あ、明日はもっと稼いで来ますので……」
「そうか。まぁ、だといいね」
と言って去っていくフランさん。
僕の精一杯の媚もすげなくあしらわれてしまいました……。
お別れの時が、やって来たみたいですね……。
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