初めての児童労働

「つまり、私は君の命の恩人。感謝してくれていいよ?」

「でも、僕の記憶消して怪物にしたんですよね?」

「そうだよ?」


 記憶と身体が違うなら、もう別の人間でしょ……。それの恩返しをしろと……?


 はい。というわけで、記憶のない怪物の11号です。

 倫理観激ヤバ系学会追放研究者のフラン=シュタイン博士に怪物として蘇生された上、恩を強請られていますが僕は元気です。


 肉体を怪人ガトリングトゲ鉄球可変ブレード砲砲男にされてしまったことは納得しましたが、記憶を消された理由はまだ説明されていません。

 まずはそこを答えてもらいましょう。


「それで、なんで僕の記憶を消したんです?」

「ん? ああ、それは簡単。処刑されるような人間の記憶を残してたら、何しでかすか分からないから」

「それは……確かにそうですけどね……」


 それを言われると僕は反論しにくい。

 記憶がないから、前の僕が何して処刑されたか分かりませんしね。

 だけど、国際法無視した虐殺兵器作ろうとして学会追放されたマッドサイエンティストから言われるのは納得できかねる~!


 僕が感情の処理をしていると、フランさんは説明義務は終わったとばかりに伸びをした。おっぱいも伸びた。やったぁ!

 ひどい扱い受けてるのに、おっぱいが大きい女性と話すの楽しすぎて許しそうになるのはなぜ……?


 きっと脳に細工をされてしまったんです。

 許せねぇよな、このマッドサイエンティスト!


「それじゃ、協力してくれるってことでいいよね」


 伸びを終えたあと、フランさんはそう聞いてきた。


「研究資金を稼いで来いと」

「そうそう」

「うーん、別に構いませんよ」


 実際のところ、記憶がないので他に行く当てや目的を持っていないんですよね。

 自分で脳みそをいじくって記憶を取り戻すなんてこともできませんし。


「それは良かった。処刑場に行って別の晒し首を探すのは面倒臭かったんだ」

「うーん、人の心とかなさそう」

「じゃ、よろしくね。私は疲れたから寝てくるよ」


 そう言ってフランさんは階段を上って行ってしまいました。


 あの僕、記憶ないんでこの町の地理とかも知らないんですが……?




 そして冒険者ギルドにやってきたわけです。


 いえね、道行く人に仕事はどこですれば良いか尋ねたところ、冒険者ギルドに行けと何故か震えながら教えてくれました。

 なんで震えていたんでしょうね。不思議です(腕のガトリング砲を見つめながら)。


 それでその冒険者ギルドとやらにやってきた訳ですね。


 今いるのが冒険者ギルド前。「冒険者の酒場 腹減り針熊スティグマ」と書かれた看板が掛けてあります。


 冒険者の酒場とは、つまり冒険者ギルドのことですね。

 受付と冒険者同士のコミュニケーションの場を兼ねたものらしいです。

 これも道行く人に尋ねたら何故か震えながら答えてくれました。

 なんで震えていたんでしょうね。不思議です(腕のガトリング砲を見つめながら)。


「では、いざ入店」


 冒険者ギルドの扉をくぐり(身長が2m以上あるので自然と身を屈めることになるんですよね。不便)入店しました。


 僕の冒険者ライフは始まったばかりだ!



 衛兵に突き出されました。


 うそだろ……?

 この世界の住人は右手がガトリング、左手にトゲ鉄球、右足にブレード、左足と胴に砲口を付けた人間がいるだけで衛兵に突き出すんですか……!?


「そりゃ突き出すだろ……」

「ですよね」

「あと人間でもないだろ……」

「人間ではありますが?」


 はい。自称人間の全身凶器こと労働用魔法生物11号君なわけですが。現在衛兵の詰め所に来ております。

 で、今いる部屋は拘置所ですね(笑)。笑じゃないが。


 そして至極当然の指摘をしてくれた方が衛兵のおじさんです。

 でも僕は人間ですからね。心が人間なので。


 拘置所は頑丈そうな石造りの建物。さらに僕は全身凶器(直喩)ということで金属製の檻に入れられて事情聴取を受けているところです。

 ここまでしなくても逃げられないでしょ……。いや、どうだろ。使ったことないですが、体に付いた兵器を用いれば行けるか……? やりませんが。


「それで、なぜこんなことをしたんだ……?」

「いや僕は何もしてないんですが……」


 何かした前提で聞くのはやめてください。身体は兵器でも心は繊細なんですよ?

 そういう高圧的な態度は良くないと思うな。これ任意同行ですよね。


 こういった場合は気圧されないように強気で行くのが鉄則です。

 この勝負、ビビったほうが負ける……ッ!


 強気で睨めつける僕に対し、衛兵のおじさんはため息をつきます。


「町中で刃物や火器をケースに入れずに持ち歩くのは違法と知っているね?」

「すみません、知らなかったんです……」


 はい、完敗です。

 言い訳できないよ、だって町中で重火器持ち歩いてるってただの事実だし……。なんなら今も剥き身です。現行犯。

 まぁ、止めようにも体に埋め込んであるのでどうしようもないんですけどね。


「それで、なぜこんなことをしたんだ……?」

「母の趣味で……」

「ふざけてる?」

「ふざけてないです……生まれたときからこの身体なんです(生後数時間)」

「反省の意思なしと……。では次の質問に移る」


 言葉の枕に怖いこと言わないでね。ただでさえ取り調べなんて初めてです。そんな怖い顔で怖いこと言われたら失禁するよ? 僕はさっき生まれたばかり赤ちゃんですよ?

 赤ちゃんを舐めるな。


 そんな僕の気持ちは無視して取り調べは続く。


「年齢は?」

「0歳です……」

「やっぱりふざけてるよね?」

「ふざけてないです……」

「……職業は?」

「無職です。仕事を得るためにギルドに入ったら通報されました……」

「家族構成は?」

「母がひとり……。あ、あとは兄弟がたぶん10人ぐらいいます」


 僕が11号だから、僕の前に少なくとも10人の犠牲者がいるはずなんですよね。

 まぁ、人型ですらない可能性も高いですが。


「それで、なぜこんなことをしたんだ」


 また僕ができない自供をするまで終わらない尋問が始まりました。拘置所に来てからずぅっとこんな感じです。

 そんなこと言われても、目が覚めたら記憶消されて肉体を生物兵器にされてたんだよーッ!


 改めて考えるとひどいな……。しかしそれを言ったところで衛兵さんたちが信用してくれるとも思えません。

 もう神頼みしかありませんね。この世界の神様知りませんが。誰でもいいからお助けお願いしますー!

 そんな僕の切なる願いが届いたのか、拘置所に救いの声が響く。


「やれやれ、ひと眠りしている間に衛兵の厄介になるやつがあるか」


 こ、この声は!?

 声の方向を見ると女が一人立っていた。

 縦縞のセーターで強調された乳! 痴女じみた丈のホットパンツ! そして白衣!

 間違いない。我が母フラン=シュタインだ!


「あ、ママ! ママいたよ!」

「私は君のママではないが……」

「なんだと? あなたが僕をこの世に産み落としたんだろうが! 認知しろ!」

「うわ、2m超の巨漢にママって迫られるの怖ぁ……」


 頑なに僕を認知しないフランさん。

 しかし、僕を尋問していた衛兵のおじさんに加え、フランさんの後ろから着いてきた衛兵達は僕たちの今のやり取りに驚いたのかざわめき立つ。


「ゲェッ!? つぎはぎの魔女!!」

「あれがあの悪名高き……」

「経産婦だったのか……」

「え!? しかも他に10人も!?」

「それであの体型維持してるのすごくない?」

「それにあの胸、只者じゃないぜ」


 はぇ~、衛兵たちの話を聞くにフランさん有名人なんですね。つぎはぎの魔女ってなんですかね? 悪名みたいですけど。

 まぁ、悪名は無名に優るって言いますし、良いんじゃないでしょうか。


「ちょっと! 君のせいで変な誤解されてるじゃないか!」

「元からの悪名は僕の責任じゃないですし、僕を産んだのも事実ですよね」


 というか、衛兵の人たちがここまで恐れてるフランさん怖いよ……。



 はい、そんなわけで研究室に帰ってきました11号君です。

 町中で火器を持ち歩いた件に関しましては、フランさんが引き取りに来てくれたおかげで罰金と厳重注意で済みました。稼ぎに出てマイナスを叩き出す系魔法生物です。面目ない……。


「そんなに気にしないてもいいさ。何事もトライアンドエラー、次は同じ失敗をしないようにすればいい」


 なんてこった。フランさんが優しい言葉をかけてきました。……ママ? これは認知していただいたということで宜しいですか?


「とはいえ、お金は無限にあるわけではないからね。早めに稼いでくれると助かるよ。というか無限にあったら君を作ってない」

「ええ、任せてください。次こそは必ずや」

「その意気だよ。ふふっ、これが子を持つ親の気持ち、か」

「いや、フランさんは処刑場から僕の脳みそをくすねて魔法生物の材料にしたマッドサイエンティストであって、親ではなくないですか」

「なんだコイツ……。さっき君が自分で言ったんだろーっ!」


 ツッコミをされつつ、二人で笑い合う。


 ……それはそれとして、フランさんが僕の四肢に凶器を付けなければ起こらなかった問題ですよね?

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