フラン=シュタイン博士

「11号とは僕のことですか?」

「うん、そうだよ」


 そうらしいです。


 はい。というわけで、完成した11号君ですけども。

 実は、何もわかっておりません……。

 この部屋で目が覚めるまでの記憶がありませんし、目覚めてからはずっと目の前の縦セタおっぱいを鑑賞していたため、何も分からないんですよね。


「うん。何も分かっていないことが分かりました。無知の知です」

「無知の知? 知らないを知るということか。面白い言い回しをするね11号君は」

「ムチムチです」

「は?」

「すみません……。とりあえず説明してもらっていいですか?」

「何を?」

「身体ヤバい理由と、記憶ない理由です」


 ムチムチのあたりで縦セタおっぱいさんは「知能に若干問題あり」と呟くとメモになにやら追記する。僕の知能は正常ですが?


「ふむ、その説明をするなら、まずは私のことを話しておいたほうがスムーズだね」


 メモを書き終わると、彼女は僕に向き直り目線を合わせてきた。

 彼女の身長は目算170cm弱くらい。僕の今の身長は2m超えて30cmくらいなので、目を合わせると自然に背中を丸めることになります。


「私はフラン=シュタイン。王立魔導大学で魔法生物学の特別研究員として働いていた。フラン博士と呼びたまえ」


 はぇ~、おっぱいさんはフランさんというらしい。可憐な名前だ。

 それに王立魔導大学。王国が運営している魔導を研究する大学だろうな。なんかすごそう(IQ0)。

 しかも特別研究員……特別はすごいんじゃないでしょうか(IQ0)。


「が、クビになってね……」

「クビ、ですか?」

「学会の連中では天才の私の高尚な研究を理解できなかったようでね。不当に罪を被せられて、学会を追放されてしまったのさ……」

「それは……ひどい話ですね」

「ああ、わかってくれるかい? あいつら本当にひどいんだよ。私の考案した戦闘用魔法生物をやれ国際法違反だやら、人道に反するやら難癖つけてくるのさ!」

「ん?」

「あまつさえ、「物さえ用意すればこっちのもの!」と、私が秘密裏に研究開発していた対都市用殲滅魔法生物の現場に衛兵を送り込んできてぇ……」


 おや、話の雲行きが怪しくなってきましたね。国際法違反をすると、国際法違反なのでは?(IQ1000)

 というか王国の倫理観ずいぶんちゃんとしてますね……。

 それに対してフランさん、普通に犯罪者じゃないですか……。


「なるほど、フランさんが犯罪者なのは置いておいて、話が見えてきましたよ」

「ほう、話が早い。知能の問題は訂正したほうがよさそうだ」

「つまり、僕がその対都市用殲滅魔法生物ってやつで、フランさんをこんな目に合わせた学会の奴らをその力で懲らしめてくればいいということですね?」

「全然違うけど……」

「全然違うんですか……」

「え、ていうかそれ学会追い出された腹いせに王都焼き払うってこと? 怖……考えもしなかった……ヤバい奴じゃん君……」

「なんだこの女」


 違法研究して学会追い出されたのを逆恨みしてる女よりヤバいやつあんまり居ないですよ?

 あと、僕は焼き払うなんて言ってないのでその考えはフランさんから出た発想です。


「じゃなくて、学会追い出されたから研究費が入らなくなったの。特許も全部剥奪されちゃったし」

「なるほど、そうなりますね」


 研究の援助を受けていた組織から追い出されたらそうなるでしょうね。


「だから、資金源がいるでしょ?」

「ふむふむ、そうなりますね」

「でも私は働きたくないでしょ?」

「ん? そうですね、働きたくないんですね」


 大抵の人は労働をしたくないですからね。

 それにフランさんは研究者だと名乗っていました。研究の時間を削りたくないでしょう。


「だから、代わりに働いてくれる魔法生物を作ったの」

「……なるほど」

「それが君、我がつぎはぎ研究所の製作品第11号。つぎはぎワーカー君」


 はい。というわけで、何のために生まれて何のために生きるのか答えられる系魔法生物つぎはぎワーカー君なわけですが。


 期せずして自分の種族……分類?が明らかになりましたね。魔法生物らしいです。

 イカれてます。


 労働させる為だけに意志を持った生物を新たに生み出すの、倫理観終わってるだろ……。いや、それよりも……。


「労働するだけならガトリング砲やらスイッチブレードやらは要らないと思うんですが……。というか邪魔……」

「要る」

「え? それはなぜ……?」

「カッコいいから」

「カッコいいからですか……」

「うん」

「それならしょうがないですね……」


 カッコいいのは重要ですからね。

 綺麗な女の人にカッコいいと言われただけで、全身凶器のつぎはぎ怪人にされてしまったことを許せてしまうのは我ながらちょろいなと思いますが……。


 もう右腕がガトリングでお箸も持てない体になってしまいましたが、僕は元気です。


「納得しました」

「納得してくれたかい」

「はい。それで、もう一つの理由をお願いしても?」

「記憶がない理由だね?」

「はい」


 そう、自分でもよく取り乱していないなと思いますが、記憶がないんですよね。最古の記憶は縦セタニットのおっぱいです。


「記憶がない理由は簡単だ。私が消したからだね」


 はぇ〜、フランさんが消したんですね〜、僕の記憶。

 え、やっぱり倫理観とかない感じですかね?


「記憶はそう簡単に消していいものではないと思うのですが……」

「まぁ、聞いてよ。これには理由があってね」

「聞きましょう」


 理由があるらしいので拝聴いたします。

 でも、さすがの僕もよっぽどの理由がないと納得しませんからね?


 聞く姿勢になった僕にフランさんが説明を続ける。


「君の体……脳を除く五体すべては私が今持つ技術をすべて詰め込んだ。最高傑作と言って過言じゃない」

「それは……素晴らしいですね?」

「だろう? でもね、その最高の体を作るのにお金を使いすぎちゃって……。ホントは脳にも演算能力に優れた種族のものを使いたかったんだけど、資金不足で手に入らなくてね……」

「ふむふむ」


 資金不足……。さてはコストとか考えない人?

 どう考えても資金が尽きた理由は不要な兵器を取り付けたからだと思うんですけど(名推理)。


「代わりに処刑場から晒し首をひとつ拝借してきてそれを入れたの」

「晒し首ですか……」

「うん」


 さっき国際法とか高倫理なこと言ってたのに、晒し首はあるんですねこの世界。どうなってるの……?


 ん? その晒し首って僕のこと……?

 この、今思考している脳を晒し首から採取したってことですよね。


 僕、処刑されてない……?

 されてるね。死を与えられる程度の罪を犯してるよね前の僕。


「僕死んでないですか?」

「死んでるねぇ」

「死んで……あ、なるほどそういうことですか」

「お、思い至った?」

「一度死んだときに、脳の記憶を司る部分に欠けなどの問題が起きたということですね? 有り得そうな話です」

「全然違うけど……」

「全然違うんですか……」


 さっきもこのやり取りしましたよね。僕が馬鹿みたいに見えるのでやめてほしい。


「というか私が消したって言ったでしょ」

「そうでしたね……」

「それに、腐ったり欠けたりして脳にダメージが入っているものは素材として適さないからね、最初から弾いてるよ」

「そうなんですね」


 ふむ、死体から魔法生物を作ると聞いて、ゾンビ的なものかと考えていましたが、腐っているとダメなら違いそうです。


「その点君は良かった。死ぬ直前の健康状態も死体の状態も最高。あと数か所は処刑場巡りをする覚悟だったから、手間が省けてラッキーだったよ」

「はぇ〜」

「死んでくれてありがと♥」

「その発言はライン越えじゃないですか?」


 あと、この国の法律を知らないですが、処刑場から死体持って来るのはダメな気がする……。

 死者蘇生もさっき言ってた学会を追い出された理由の国際法違反か倫理に反する案件ですよねたぶん……。


 なんなの、このひと……。




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