つぎはぎ研究所の今日も一日

テンタクルヘルス

つぎはぎの労働者

誕生 つぎはぎ11号

 大きな胸が揺れ動いています。


 縦縞ニットのセーターにより強調されたおっぱい。

 おっぱいが目の前に広がっております。

 まさに、眼前いっぱいにおっぱいです。


 そのおっぱいは上下に左右に動いて、その弾性を表しています。

 おっぱいは人の胸部についてますので、持ち主が動けばそれについていくのは当たり前。

 しかし、そこには単なる物理現象以上の、「奇跡」と呼ぶべき何かがあると僕は思うのです。


 腕の動きに合わせて伸び縮みするおっぱいは素晴しいです。

 いつまでも眺めていられます。


「ここをこうしてこうやって……。どうかな? ……ダメか。うーん、どこか間違ったかな……?」


 頭上から声が聞こえてきました。 

 女性の声……というか目の前のおっぱいの持ち主の声ですね。

 彼女は僕の頭部に何やら処置をしながら唸っています。


 前傾姿勢で作業する彼女に対して僕は床に座っている状態のため、ちょうど胸が目線に重なるわけですね。


 胸以外にも意識を向けてみましょう。

 服装はノースリーブの縦セーターにホットパンツ。メリハリのついた美しいボディラインが出る服装ですね。

 大変えっちです。


 そしてその上から白衣を羽織っているようです。

 他も見たいところですが、おっぱいと白衣に阻まれ、うかがい知ることができません。

 残念ですがね、おっぱいを見るしかないわけです。


 あと、気になるのが腰に巻いたツールベルト。

 道具を保持するための穴には、大小さまざまなメス、アイスピックのような太い針状の道具、片手用の小さい鋸などが刺さっています。

 そして、恐ろしいことにそれぞれの道具には血が付着しています。


 おそらく、脳をいじくるための道具でしょう。

 なんといっても、頭の中でぐちぐちと粘着質な音が聞こえますし、目の前のおっぱいが揺れる(女性が手を動かす)たびに、電流の走ったような痺れを全身に感じていますからね。間違いありません。


 何をやっているのか分かりませんが、脳に処置している以上は下手に身動ぎすることもできません。

 だからずっとこのおっぱいを眺めているのは不可抗力なんですよね。うぉおっぱいでっか……。


 ここらで一回深呼吸。

 息を吸い込むと、女性特有のミルクのような香りが肺に広がります。

 うーむ、テイスティ……。視覚だけでなく嗅覚でも楽しめるとは、これが噂の4DXというやつですか。


「合ってる。ここも合ってる……。ええーっ、どこがおかしいっていうのさ! もう!」


 トラブルかな? 白衣の女性は僕の頭を弄りながら唸っています。

 僕がバカなことを考えている間にも彼女はかれこれ一時間くらい同じような発言を繰り返しています。大変だなぁ。


 いやぁ、しかしわかりますよ。原因が分からない不調は困りますよね。

 それではひとつ提案を。


「そういう時は意外と簡単な見落としにハマっていたりするものです。一旦休憩入れて落ち着かれてはいかがですか?」


 彼女自身もそうしたほうが良いと思っていたのか、一度軽くため息をつくと、僕の言葉に同意を返してきました。


「そうだね……お茶でも入れようか。葉っぱはまだ残りあったかな」


 言葉と同時におっぱいが離れて行く。

 おっぱいを失った喪失感が僕を襲いますが、それによって初めて、彼女の全体像を見ることができました。


 年の頃は20代中盤くらい?

 縦ニットにより強調された形の良い胸。下もホットパンツなため体のラインが美しく出ています。

 ただ、白衣を羽織っているため、全体的なシルエットは広いです。


 髪は冴えるような赤色。腰辺りまである長髪を後ろで乱雑にまとめ上げています。

 顔にはゴテゴテと機能を追加したような片眼鏡をかけていて知的ですね。


 作業の疲れと体のこわばりをほぐす様に彼女が伸びをすると、乱雑にまとめ上げられた長髪が一緒に跳ねました。

 おっぱいも跳ねたし、それを追う僕の目線も跳ねました。


 と、そこで驚いた顔の彼女と目が合いました。

 やっべ、おっぱい見すぎたか?

 急いでにっこりスマイルを張り付けます。


「オ、オッパイミテナイヨ……」

「き、起動してるうううっ!!」



「というわけで実験は成功だっ! やったぁ!」


 僕が起動(目を覚ましたこと?)したのに気が付いた彼女は糸と針をベルトから取り出し、また僕の眼前をおっぱいで覆いながら頭部に処置をし始めます。


 そして、彼女は僕の頭になにか乗せる(頭蓋の蓋?)と、チクチクと縫い付け、パッと離れて笑顔で実験の成功を告げました。

 なんか実験が成功したらしいです。


「おめでとうございます。よく分かりませんが僕も喜ばしいです」


 とりあえず称賛しておくと、彼女は上機嫌に笑う。

 うーむ、満面の笑みの縦セタ白衣おっぱいさんは可愛いですね……。


「うんうん。受け答えも異常ないね。完璧。さすが私。身体の方も異常ない?」

「異常ですか?」

「立って軽く動いてみてくれ」


 促されたので試しに体を動かしてみる。

 右腕あげて右腕下げて、左腕上げて右腕上げない。右足あげて左足上げない。


 そこで重大な事実に気が付きました。

 異常、あります。看過できない程のとんでもない異常が……。


「あの、異常ありです……」

「む、完璧な肉体を作り上げたはずだけど、どこか見落としがあったかな」

「はい恐らく……」

「そうか……、なら不調を言っていってくれる? ひとつづつ調整していこう」


 あ、良かった。どうやら調整可能らしい。

 天才の私に間違いはないと言われたらどうしようもなかったですからね。


 それなら遠慮なく言っていきましょう。

 では……。


 右腕を上げて力を籠めると、肘からから先……束ねられた5つの砲身が高速で回転し始めた。

 殺意を物質化したような機能美。弾こそ出ていないが、僕の意思次第で放射が始まることを直観的に理解できる。


「とりあえず、僕の右腕はガトリング砲ではなかったですね」

「ふむふむ……」


 次に左腕を見やる。その手首から先、手が付いているべき場所には、鋭利なトゲが複数生えた鉄球が代わりとして付いていた。

 これで人を殴れば無事に済むことはないだろう。


「左腕にもトゲ鉄球が付いていた覚えはないですね」

「ふむふむ……」


 右足は硬質。

 金属製の鎧のような見た目の外骨格は、一見なかに人間の足が入っていそうだ。

 しかし、左右に分割するように溝が入っている。

 右腕と同じ要領で力を籠めると、溝部分が開いてふくらはぎから弧を描いて刃が飛び出た。


「右足もブレードが出る変形機能付きではなかったですね」

「ふむふむ……」


 次は左足。

 左足は一番人間に近いかもしれない。肉の質感をしている。

 ただ、その膝部分には砲口が取り付けられていた。拳大の砲弾が飛び出して来そうだ。


「左足も膝に迫撃砲はついてなかったですね」

「ふむふむ……」


 さらに、砲口は左膝だけではない。

 僕の胴体、胸部の真ん中には、まるで指向性エネルギー砲撃が撃てそうな近未来的砲口が開いている。


「胸にもレーザーキャノン砲はついてなかったですね」

「ふむふむ……」

「というか砲多すぎ。一体何と遠距離戦するつもりですか」

「ふむふむ……」


 四肢の凶器もそうですが、それより気になることがあります。

 気になると言えば、他にも何故か2mを超えている身長や体中に走った縫い目など色々ありますが、それよりも……。


 それよりももっと気になる異常。


「ここに来るまでの記憶が思い出せません」

「ふむふむ……」


 異常がある。と言うよりすべて異常。

 目が覚めると僕は、何も思い出せなかった。

 そして全身に凶器を取り付けられた、つぎはぎの巨漢になっていた。


「ふむふむなるほど……っと」


 僕の報告を聞き終えると彼女はチェック項目の書かれた紙を机に置き、ニヤリと笑って続けます。


「どうやら異常はないようだね」


 どうやら異常はないそうです。それは良かった。


「どれも完璧に仕上げられているね。さすが私」


 どれも完璧だそうです。さすがですね。


「というわけで、完成だ! ハッピーバースデー11号君!」


 両手を挙げて万歳する縦セタ白衣おっぱいさん。

 どうやら11号君が完成したようです。喜ばしいですね。

 美人が喜ぶ姿を見ると、僕も嬉しくなってきます。


 それで……、11号って僕のことですか?

 というか僕、化物じゃん。

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