25番ホール 夢の中で会ったような

(なあにここ……みどりばっかり)


(おっと。どうした嬢ちゃん? こんなところで迷子かね?)


(おじさんだぁれ?)


(おじさんかい? おじさんはね、ゴルフの上手なおじさんさ)


(ゴリラのグッペイのおじさん???)


(嬢ちゃんに英語は難しかったかな。でも残念だ、私も中国語は話せないんだ。これでおあいこかな? あーっとあっと! そっちには行かないほうがいい。本当に迷子になって帰れなくなっちゃうといけない。きみは何もない所だからヒマなんだろう? だったらおじさんとゴルフをしてみないかな?)


(ゴルフ? ゴルフはきらい。だってゴルフがお母ちゃんをころしたんだ)


(いきなり物騒な話だなあ。だけど悲しいかな、きみは知っていたかい? ここにはゴルフが大好きな子しかやって来られない不思議な場所なんだよ)


(そんなことを言われてもきらいなものはきらい)


(ふむう。それは困ったね。ここはなにか折り合いをつけないと帰ることができないんだ。おっと、それだと伝わらないか。いま悩んでいることが全部なくなって、困らなくならないと帰れないんだよ)


(それはむり! えーん!)


(やれやれ、こいつは困ったなぁ)




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(君は見た目よりもずいぶんとお姉さんなんだね。しかしそうか、お母さんが)


(うん。だからもうゴルフはやめようと思ってて。クラブはぜんぶお父ちゃんに捨てられちゃったし)


(やめるだなんてもったいないことだよ。きみは誰よりもゴルフを愛している。大好きで大好きで、大好きだからここにきた。さっきも言ったが、ここは誰にでも来られるようなところじゃないんだ)


(ほんとはやめたくなんてないんだ。だってゴルフのことがすきだから)


(だったらこれを使うといい)


(これって? おじさんの?)


(ああそうさ。クラブを見て思い出すのなら、クラブを見なきゃいい。そこでこいつの出番だ。一度構えてみてくれるかな?)


(そんなこと言ったって、かまえただけで気持ちわるくなるんだ。どうせダメだよ)


(おじさんのお願いだよ。ちょっとでいいから。一瞬だけでも)


(ふぅん? ヘンなの。木でできた? 木のドライバー?)


(ほぉら、ボールだってない。安心して構えるだけ構えたらいいよ)


(ほんとだ、これだとふしぎとへーきかも)


(……時間が止まったかと思った。なんて綺麗なアドレス、みとれてしまっていた……。まるで緊張も力みもない。あの年齢だからか? いや、あの年齢であれだけの構えをとれるなどと? まるで……)


(どうしたのゴリラのおじさん)


(いやいやなんでもない。しかしだね、せめてゴルフのおじ——。いや、私のことはボビーと呼んでくれ。私はロバート・タイアー・マクダネル・ジュニア。気軽にボビーと)

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