10番ホール もう何も怖くない
——最高にかわいいですね! 明日もこの話題にふれたいと思いま〜す。
っさて、番組の途中ですが速報です。
全国47都道府県の高校生が競う第1回全日本高校生ファストゴルフ選手権大会は、本日が最終日なのはご存じでしょうか村井さん?
もちろん知ってますよ。この夏は長崎っ子なら全員が長崎東西高校の活躍に釘づけですもん。
そうなんです、その長崎東西が準々決勝まで駒を進めているファストペアゴルフなんですが、先ほど入ってきました情報によりますと!
同校が!
なんと!
おお!?
準決勝進出を決めたそうです!
マジで!?
やった! おめでとうございます大空選手! 水守選手!
いやあすごいわあの子ら。
球技の長崎勢はここ数年パッとしなかったですから、ゴルフもどうかなぁ〜とか思ってたんですよ。
すごいなあ、ふたりとも女子なんですよね長崎東西は。
そうなんですよ、それもまた魅力で。ミニスカートで強豪校を次々ねじ伏せる姿にはため息すらもれるほどです。
映像出ますでしょうか?
ただいまスタッフが用意している映像がまもなく。
「第2の奥義・改っ! ブロークンマリオネット・オブ・アルバトロスっ!!!」
決勝打となった長崎東西決死のスーパーショット!
ふええ!
クラブを空に放ってからダフって、そこから二人羽織して打つんですか!?
こらまたすごい打ち方するなあ。
このスーパーショットの裏側で並行して異常事態が進行していました。
ほう?
まだまだ勝負はこれからという場面、対戦相手の北端商のキャプテン鈴木選手がギブアップを宣言、そこで幕切れとなってしまったんです。
これにはギャラリーも放送席も騒然で。負けた本人たち以外は、戦った大空・水守ペアですら唖然とするばかりでした。
あとで判明したのですが、北端商の鈴木選手が直前のショットで右手首を骨折してしまっていたんです。
これですか! これもまたえらい打ち方してますねえ。クラブヘッド同士が鉢あってるじゃないですか、あっぶなあ!
なんなんでしょうかこのショットは。こんなものが本当に可能なんですか?
一瞬だけ鈴木選手の方が早く打つんだと思います僕は。それを小泉選手がすべての衝撃を受けとめ、粉砕するんです。たぶん。
スロー映像があるようです。
え? 撮ってたんですか? スローであのショットを!?
はい。何やら見たことのない配置でアドレスしたのでとっさにカメラを回したんだとか。
よくもまあ、普通ティグラウンド以外ではやらないのに。現場のカメラマンはグッジョブですよ。
あああ〜、これは!
はさまれたボールが平たくなっているじゃないですか一瞬。ゾゾゾ〜!
これ、ひとつ間違ったなら大変なことになりません?
大変なことになったから骨折したんですよ鈴木選手が。
あ、そっか。
それ以前にボールがどこに飛ぶんだかが謎ですよね。どうやって北端商業がコントロールしているのか。あんな故障するような打ち方なのにどうやって練習を?
鈴木選手と小泉選手の筋力差、あるいはスイングのタイミングがキーなのでしょうが。なんでもありのペアゴルフとはいえ、とにかく規格外ですよこれは。
試合後の水守選手との握手なんか左手でしてますよ。そんなに痛めてしまったんやねえ。そんなら棄権もしかたない。
でもまだイーブンは続いてたんでしょ? リードしたまんまで。もったいなぁ〜。
いえいえ、そこは長崎県勢びいきで。
ですから長崎東西は命拾いをしましたね。
ぉ。
ここからリアルタイム映像だそうです。試合後の両校のインタビューがまもなく。北北海道代表・北端商業高校から。
「では、始めさせていただきます。お疲れさまでした。おしい試合だったように思います。最後に放たれた決死のスーパーショットは病室の先生にも届いたでしょうか」
「これまで坂本先生の期待を裏切るようなことしかできませんでしたが、あのショットだけは届いたはずです。結果敗れはしましたが、勇気づけることはできたと思います」
「それはもう、今大会最長距離の460ヤードショットですから。負傷された鈴木くんは残念でしたがしかし、小泉くんだけでも次のホールを闘えたのではと思いましたが」
「彼女たちは僕らと互角以上に戦いました。いいえ、きちんと断言しましょう、彼女たちの実力は現時点で僕らよりもはるかに上です。それは直接対峙した僕らだからこそわかること。小泉ひとりでは言わずもがな、今大会は力及ばずでした。……それに——」
「ダメぇっ!」
誰でしょう?
女声ですね?
あの声はおそらく大空選手ですね。長崎東西の大空選手。
カメラのうしろに控えていた、次にインタビューされる彼女の制止が入ったと思われます。
あんなに感情的になって?
両校の間になにかあったんでしょうか。まるで北端主将の鈴木選手が言わんとしたのを阻止したようにも感じましたが。
「それに。なんでしょうか?」
疲労もあるか、息が続かないのか鈴木選手。
ひと息入れてから結論を述べる様子。
しかし清々しい笑顔です。相手にとって不足なし、負けて悔いなしだったでしょうか。
「それに、単純に彼女たちの戦いをもっと見ていたい。これから先、どこまで行けるのかを見届けたい」
まだ北端商業のインタビューは続きます。そのあとには勝利した長崎東西のインタビューなのですが。
それが!
なんと!
おお……!
実は放送時間がもうありません!
ええ〜っ!?
どうにか延長できないんですか?
それがどうにもできないんですよ。ドラマの再放送を待っている方々もおられるんです。
放送内でご紹介できるはずだったのですが決着が想定よりも若干押しまして。
こちらの続きは夜11時からのニュースで詳しく。
まとめましょう。
実力は伯仲していました、どちらが勝ってもおかしくないほどに。SNSの一部で北端商業の3秒ルール逸脱が疑問視されているようですが、それでも準々決勝の名に恥じないすばらしい戦いであったと思います。長崎東西はそれと肩を並べる試合をしたんです。大空・水守ペアには胸を張って次に進んでもらいたいですね。
お昼はミジョカ長崎、明日もまたこの時間に。
午後もはりきって行きまっしょー!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「つばめさん? ああ、ここにおられましたか。あそこで口を挟まれたときはヒヤヒヤしました」
「だって仕方ないじゃない、あの人たち自分たちの不正を暴露しようとするんだもの。あわてて口止めしたよ。それ自体は正しい行いではあるよ? でももし本当にそうしたなら? もう一生表舞台でゴルフさせてもらえなくなっちゃう。反省して、もうしないって決めたんなら罰せられるまでのことはないと思うんだ。それにあの人たちは元々そんな姑息なことをしなくてもすっごく強い。見たよね美月ちゃんも、あの最後のショット」
「ええ、もちろん」
「あんな、どちらかのスイングが不完全だったらどこに飛ぶかも分からないようなショットを成功させて、きっちりグリーンに乗せたくらいなんだから。本当は恐ろしいほどの実力者なんだよ。ボクたちはあの人たちが改心する前に対戦できて、むしろ運がよかったほう」
「それでどうされます? ほとんど負けていたような試合で勝ちを拾い、こんなスッキリしないままに次の試合にのぞんで。はっきり言いましょう、無様に負けるのが目に見えています。気持ちが乗りませんし、なにより実力も足りません」
「それは同感だね。今日までのボクたちなら準決勝敗退は確実と。それは恥ずかしいよ、勝ちを譲ってくれた北端商業に顔向けできない」
「でしたらどうします?」
「練習するっきゃないでしょ。午後までにはまだ、2時間以上もある!」
「体力ゴリラだとは常々存じておりましたけれど。どうやらオツムの方にも異常はありそうですね」
「おやぁ? そう言いながら一緒に立ち上がるのはどちら様?」
「あなたおひとりではお困りになると思いまして」
「ふぅん。じゃあ行こっか」
「ええ」
「今の試合でヒントは得た。あのショットを、今こそものにする!」
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