6番ホール 燃えつきたあとに

 スポーツの3番目でご紹介したいのは、夏の高校生ペアゴルフです。

 各スポーツ誌やテレビのスポーツコーナーが双子の王子様・お姫様に夢中のところ、我がニュースエブリデイでは変わらずにダークホースの長崎東西高校を追いかけます!


 僕の予想に反して、長崎東西は各誌でまったく注目されとらんでしたわ……。あの子らちゃんと1回戦突破しはったのに……。


 まだまだ長崎東西はこれからですよ梅ノ木さん!

 全日本高校生ファストペアゴルフ選手権、1回戦を勝ち上がった長崎代表・長崎東西高校は、全国でも珍しい女子だけのペア。小さくてかわいらしい大空選手と、まるでモデルのような水守選手の、ふたりが織りなす大冒険ゴルフにファンは増える一方なんですよ。


 大冒険はさすがに言い過ぎとちゃいますか?


 言い過ぎですか? 私はそうは思いません。

 どうしたらゴルフが大冒険になりえるのか、実際にご覧いただきましょう。


 VTRどうぞ!


 2回戦第1試合は終始、優勝候補である中大阪府代表の難波実業高校のペース。

 大川選手がバックスピンをかけながら打ち上げ、沢村選手がそれを遠くに運ぶというショットを安定的に打ち、常に試合をリードします。


 世界でいま流行りのサイクロンショットですやん。しかし難波のはえげつない、異様にひっくい弾道で飛びはるなあ。

 サイクロン、ついに学生の公式戦でも使い手が現れよったか。


 ええ、ついに。世界では今、猛威を振るっている最中ですからね。

 一方の長崎東西。難波実業に1日先立つかたちで昨日披露した岩返しのデュアルショットでありましたが、今日は鳴りを潜めます。その結果、スタートの10番ホール、続く11番ホールを連続で落とす展開に。


 この辺り、本当に苦しんではりましたわ長崎は。


 次の12番をイーブンとしてようやく難波実業の快進撃を止めたものの、続く13番をイーブンとした時点で負けが確定する窮地に立たされます。


 ここで出たんがあの新型ショット!


 キャプテンの水守選手いわく、新技とは違い派生技だそうですが。

 ここ、注目してください。生放送ではシャンクと表現されていましたが、そもそもスタンスが完全に木の方を向いているんですよ。意図して当て、返ってきたボールを捉える打法なんです。


 よう見ると岩返しの時と同じなんですわ。このカメラのアングルではちょっとわかりづらかったんかもしれへんけど。

 いやでもこれ、ほとんど飛びついてはるやないですか。クラブも空中で振って。よぅ当てましたよ大空選手は。

 当てるだけで至難、その上でまっすぐに飛ばしはって。しかもグリーンにオンさせるやなんて。まさに人間離れしたショットですわ!


 このホールを奪取したことで同ポイントとし、試合をふりだしに戻した長崎東西。躍動は13番だけにとどまりません。

 続く964ヤードもの距離を誇る名物ホール14番パー7を、大空・水守ペアらしさで攻略します。


 きゅうううひゃく?

 ぱあ7!

 そんなお化けホールが日本にありますのん!?


 あるんですよそれが。世界最長級、過去にはギネスにも認定されたことのある超々ロングホールです。

 しかし国内外の各所でひそかに、ペアゴルフの大会誘致に向けた拡張工事が、シーズンオフから開始される予定との情報が本当にたっくさんあるんです。記録更新もそれで慌ただしくなるのではないかと。一部では毎週記録が更新されるのではと、まことしやかに囁かれるほどで。


 ほほーっ!

 いやはや、おっそろしい話やわ。


 それもこれも急激に伸びる、ペアゴルファーによるドライバーショットの飛距離に対抗してのこと。

 300ヤードはもとより、400ヤードも珍しくない時代がすぐそこにやってきています。事実、国内の高校生たちも少しずつ400ヤード超のホールを一打で攻略してきていますしね。

 国内のプロ選手でも今や500にも手がとどき、世界は現在600台です。いずれ世界のトップ選手は700ヤード時代に突入するでしょう。


 はあ、700。

 もうため息しか出ぇへん。


 それだけペアゴルフの将来は明るいというあらわれでしょう。

 話題を戻して14番第3打地点、両校ともピンまで残り350ヤードほど。

 数字は350ヤードですが簡単ではありません。これ、台風に立ち向かう350ヤードなんです。


 ほとんど直線のホールとはいえ、この風の中600ヤードを2打で運んだのだってプロでもなかなか難しいですよ。両校は自信を持ってええ。


 圧巻だったのはこの直後、長崎東西が魅せます。

 見てください!

 ここです、ここ!


 ほわぁ〜! なんやのん!?


 スイングする大空選手に水守選手が後ろからおおいかぶさり、選手ふたりで二人羽織のようにしてひとつのボールを打ちました。これが見事にボールを捉え3オンに成功、長崎東西が優勝候補の難波実業をくだす番狂わせが生じました。


 ジャイアントキリングですわ! ホンマしびれる!

 この打法ええなあ、ここ、このデコピンみたいな打法。


 デコピン? ですか?


 ほれ、きのう言うたやないですか。長崎東西と1回戦で対戦した茅ヶ崎学園の角野選手。

 彼が操っていた、地面でシャフトを耐久の限界までしならせるいう無茶な打法ですよ。彼女ら、昨日の今日でマネしたんですわ。


 理屈ではわかりますが。普通に振った時よりもスイングが早くなるくらいタメを作らなきゃならないんですよね?

 そんなことって可能なんですか?


 強靭で柔軟な筋肉があれば、ちゃいますか? 知らんけど。

 大会屈指の巨漢をほこる角野選手に体格でも筋力でも劣る大空選手が、このショットを打てたんは水守選手のこの行為ちゃいますかね。


 それで二人羽織!

 大空選手の両手を包むかたちで水守選手が押さえこむ。タイミングも何もかも恐ろしいものとなりそうですが。

 いやはや、これぞ熱戦というにふさわしい決着でした。


 あんな盛大にダフっておいて長崎東西は次の試合大丈夫やったんです?


 長崎東西の3回戦の相手は滋賀県代表・滋賀水産高校でした。


 名門やないですか! 吉本ひかりプロだけでなく、プロ選手を何人も何人も輩出した、あの滋賀水産と!


 その通りです。その懸念をよそに、長崎東西は午前中の勢いそのままで滋賀水産を終始圧倒。3ホール先制のストレートで下し準々決勝のキップを手にしています。

 ただ、どうだったでしょうか。午前中までの長崎東西であったなら結果は逆だったかもしれません。試合の中でひと皮むけた大空・水守ペアの動向に今後もニュースエブリデイは密着します。


 ゾーンにでも入ってたんとちゃいますかね。

 とにかく女の子ふたりいうのがもうもう。華があってええやないですか。


 そうなんです。もはやこのペアは本大会の台風の目と断言してもいいでしょう!


 ええ、それほどの活躍、それほどの魅了するゴルフを展開しよる思いますよ長崎東西は。


 でもよかったんですか梅ノ木さん? 2回戦は地元大阪を応援しなくて。


 僕は大阪に住んどりますけど生まれは京都ですねん。

 むしろぼくの母校を1回戦で破ったにっくき高校ですから、長崎東西に仇を取ってもろうてせいせいしましたわ。


 そんな裏事情が。


 ただね、この試合は特にSNSでちっと話題になってますね。

 あそこでやっと引き分けちゃうんかって。同点でもう1ホールやろいう書きこみがあるんです。


 ファストゴルフ特有のポイント制ですね。

 特徴的なのは引き分けのホールがあった時。その際は双方にポイントが入ります。双方ともに0.5ポイントを加算。さらに1ポイントがプールされ、次のホールをとったチームには一挙2ポイントが与えられます。


 僕もそのひとりではあるんです。このルールにいまいち合点がいってなくて。返って不公平なんとちゃうんかなって。


 いえ、むしろ公平なんです。

 かつてのマッチプレーのルールでは、仮に1ホール先取したとすると、あとはもう無理しなくて良くなってしまうんです。ずっと両者同スコアを続けるだけで自動的に勝ってしまう。リードした瞬間に緊張感がまるでなくなるんですよ。


 あーなるほど、一時期の柔道のようになってしまうんやね。先にポイントを取ったら守りに入ってしまう最っ悪のやつや。あとは相手がミスするのを待てばいい。


 そうです。リードした側が冒険をしなくてよくなる反面、リードされた側は無茶なショットを繰り返しミスを連発、実力を出せないままに総崩れ。

 キャリーオーバーなしで試算した場合、先にリードした側の勝率が9割を超えるとのデータもあります。


 ほんほん。


 それに普通のマッチプレーではイーブンが続くとそのまま何ホールでも続いてしまう欠点がありました。これではファストゴルフとは呼べませんよね。

 従来のマッチプレーでは均衡を破って奪取したホールで加算されるのは1アップだけでした。どんなにイーブンを続けていても失うのはたったの1ダウン、リードした側にとってあまり痛くないんですよ。せっかくのマッチプレーなのに結局18ホール目までもつれこむこと多数で。

 その点ファストゴルフで採用されたキャリーオーバー方式では、1ホールイーブンですと次のホールで2ポイント獲得となり、2ホールイーブンでは3ポイント、3ホール目で早くも自動的に決勝ホールとなるんです。


 ははあ、キャリーオーバー発生中なら次のホールが常に勝敗を左右する大量ポイント、となれば俄然緊張感が違いますわ。


 そうです。

 リードしていてもされていても、お互いに奪取しなければならないホールが続くわけです。イーブンは決して安パイな逃げ道ではなくなるんですね。

 毎ホールお互いが真剣にポイントを奪い合う。まあどの競技もどの選手も常に真剣は真剣なんでしょうが。計算して冒険するしないを選択する、余地を選手に渡さないようにしたんですね。


 ほぇ、ひたすら時短に根ざした制度なんやねえ。


 そうなんです。ポイントをリードしているペアも油断していたら簡単にひっくり返される、それがこのルールの面白いところ。

 まさに今日、それが起きました。その結果のジャイアントキリング。

 では最後に、決勝ショットとなった映像を再度ご覧いただきましょう。


「飛んでけ! セントアンドリュースまで!」


 何度見ても凄まじいほどに気迫あふれるショットでした。


 ふたりの緊張感に画面越しでも鳥肌が立ちますわ。

 音声が大空選手の絶叫を拾うたでしょ。おそらくは魂のほとばしり。

 セントアンドリュースいいましたよね、どんな意味があんねやろ。


 ゴルフでセントアンドリュースでしたら、ジ・オープンでしょうか。


 ジ・オープンにはペアゴルフがまだないんとちゃいますか?


 そうなんですよ。ペアプロのシード権を売りにして、ソロゴルフに再転向する構想があるのかもしれません。大会名でなく地名なのも気になりますが——っと!

 時間がありません、まとめましょう。

 長崎代表・長崎東西高校は明日の準々決勝に挑みます。対戦相手は——

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