5番ホール 発進! 未完の最終兵器!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ナイストライ、そしてすばらしいホールインワンでした舞浜学院の二宮姉弟!
さて。
映像は変わって、今大会屈指の熱戦が繰り広げられている1組目です。やってきましたのは14番。
おや、選手たちの現在地からグリーンを向きますと、カメラに青空を捉えますね。昨夜からの雨もようやく弱まって、厚かった雲もところどころ切れ間が見えてきました。
作戦を練っていたか、長い時間話しこんでいた難波実業がしかし、あっさり打ったッ!
あの子たち、あの難しいショットを事もなげに打つわあ。実際はむちゃくちゃ難しいことをやってるはずなのに。それだけにムカつくわ〜。
ハハハ、上野さんは難波実業の高い技術については認めているんですね。
さあ、確実に歩を進めたボールはピンから360ヤード、長崎東西のさらに先、およそ5ヤードの位置へ。
この14番は、皐月ゴルフクラブ佐野コースにおける名物ホールとなっています。なんと堂々の900ヤード越え、964ヤード、パー7!
パー7、ねえ。
この距離が日本の最高峰クラスって、本当は恥じなきゃなのよ。少ないの。ひとつのコースに少なくともひとつ、もっと言うならゴロゴロあってもいいくらいなのに。
ペアの海外基準ならパーは6がせいぜい。まあ? 高校生には7でもいいとは思うわね。
ええっと……。
ううん、けなしてるんじゃないの。このコースは評価できるの、むしろがんばってるほう。他がぜんぜんダメなのよ。まったくもう、プンプンよぉ〜。
だいたいね、このアタシがどれだけ——
その話題にはキリがないって。
高木くんは上野くんなんかほっといて進めて進めて。
んヒド!
ええっと、はい。
女子プロなら5オンがやっと、男子プロですらソロなら4オンがやっとのこのホールに対し、高校生ペアがどのようなアプローチで攻めてくるのか。注目のホールとなります。
高校生の力でオンさせようと思ったら、そうだな、直ドラを含むドライバーショットが5回連続で必要だ。そんなもの、優勝がかかった1打差で負けている最終ホールくらいじゃなければ挑戦できない。
実はパーオンすらこのホールでは至難ってとこかしら。
とかいろいろ言っといてアタシ、恥ずかしながら回ったことないのよこのコース。現役時代だったならどんなふうに攻めたか、想像するのも楽しいわ。
今だったらそうね、5オンがやっとかしらね。
ご謙遜を、正月のスポーツ番組で見ましたよ? 今でも4オン1パットでイーグルは十分可能です。
ウフフ、またあ!
痛ァ!
次からはひかえめでお願いします……。
ウフフ。
ファストゴルフなら4オンの時点でイーグルね。ペアのあの子たちはいったいいくつで上がってみせるかしら。楽しみね。
昨日までの14番ホールは平均5.3オンとなっています。やはり難しいこのホール、3オンはわずか2組のみ。それも昨日だけです、本日はまだ。
そりゃあそうよ、昨日と今日じゃぜんぜんコンディションが違うもの。
他の組で出ましたホールインワンを振り返っていた間に、1組目はその名物ホールの第3打地点です。
赤井さん、ここまでの詳しい流れをお伝え願えますか?
難波も長崎も、ふたり打ちをくり出しながらここまで来ているよ。およそ合計600ヤード。両校は二打とも300ヤード級のショットを披露してみせた、おりしもこの強烈なアゲインストの中で。たいしたもんだ。
あらほんと、フェアウェイにボールが2つ。まるで兄弟のように並んでいるわ。
「やるやんけ」
「そっちこそ」
風速14メートルの向かい風の中で300ヤード級を2打そろえてですか、それはすごい。
実際のVTRとともに振り返ってみましょう。
まず長崎東西が手堅くフェアウェイに置き、次いで難波実業がほぼ同じ位置につけます。
『スモールタイタン・オブ・ブリッジヘッド!』
ここにも崖はなかったのね。まあ崖なんて普通ほとんどないから。代わりに大岩を利用して。
でもあれ、けっこう離れているわよ? 3秒におさまってよかったわ。
そのぶんつばめくんが前に出たんだよ。跳ね返ってからの時間が短いぶん、より難易度は高かったと思うが。
よくもまあ、あんな小さな的に当てて正確に戻すものね。大空ちゃんの足下バッチリだし。実は一番恐ろしいのって水守ちゃんじゃないのぅ?
確かに、そうかもしれません。
つづく長崎東西の第2打はふたたび、一度木に当てるショットを。
『ビッグフット・オブ・ブリッジヘッドォ!』
難波実業は安定感すら感じさせる、ウエッジからドライバーにつなげるサイクロンショットを安定感高く。
『タイフーン……』
『怒るぞ?』
『サイドワインダあ!』
『なんやねんそのヤケクソ』
難波のサイクロンは本当に低い弾道よね。彼らが呼ぶサイドワインダーとかって、毒ヘビだったかしら。この風のなかとあっては強力な武器になってる。
彼らが真にすごいのは変形サイクロンを簡単に量産できるところだな。一方の長崎は毎度のるか反るかの雰囲気がただよう。これが地力の差。
だが、それだけに目が離せないんだ。
ええ。
その結果が画面でご覧の状況です。長崎東西がわずかに手前、難波実業は5ヤードほど先か。フェアウェイの真ん中、残りはどちらも360ヤードほど。
フラットですが林の回廊の影響で風は正面から、壁に感じるまでの猛烈なアゲインスト。両校とも1打では難しい距離を残しています。
「クッソ、320ずつ飛ばして3オンの計算やったのに、思ったより飛ばへんかったあ! 特別きばった2打目も結局300どまりかいな。たっぷり350は残ったやんけ」
「仕方あらへんねや。このホールに限っては真っ向の向かい風のうえ、水たまりはあらへんくせにベチャベチャでランがまるで出ぇへん。2打目はボールが濡れとって回転が思ったよりかからへんかったし」
「マジでか」
「せやけど昨日400ヤード以上飛ばしたいう長崎のショットも、300に抑えられてしもたみたいやで」
「せやったら、ワイらのタイフーンホバークラフトも400飛ぶいうことやんけ」
「どさくさにちゃっかり名前変えんなや。あっちは一度地面に落ちてから止まるまでのランがこっちと段違いやで。本来ならもっと飛ぶわ」
「せやったか。台風が来なんだら危ないとこやったか」
「いやいや、させへんて。にしてもや、このホールはさすがにあかんか」
「あちらさんもさすがに届かへんやろ。こっちより5ヤードはある。どんなに気張ってもさっきまでと一緒、300までや。お互い4オンさせて次のホールに持ち越しやで」
「ほな決まったな。長崎の人ら、ちゃっちゃといったってや〜」
んう?
気のせいかしら。長崎の子たち、なんだか緊張感が違わない?
上野くんはカメラ越しでよく気づいたもんだ。伊達に何度も賞金王を獲ってないなぁ。
王だなんてそんな。
どうせなら女王と呼んでください。グフ。
君の指摘の通りだろう、まるで立ちのぼるオーラが見えるかのようだ。
あのふたり、何か仕掛けるつもりがある。
ここを勝負のホールと見定めた、ということでしょうか。
おそらく。
殺気にも似た空気がある。
たしかに、リスクの少ない状況ではあります。
スコアはイーブンで、難波実業もホールアウトに2打を要するのであればミスが許される状況。さらには、手前にハザードのないこのホール、グリーンはボールを受け止めてくれる形状でもあります。
でも冒険した結果が大きなミスとなれば逆に命取りになるわよ? 同じミスでもそこそこには収めないと。
「周りになんにもないんだもんね。まいったよ10番11番には」
「今後の課題ですね。コースに出れば障害物はあったりなかったり。木の幹に当ててまっすぐに返すのにもさすがに無理がありました」
「そうそう。あれ、たまたま2度とも成功したけど、本当はどうかな。打率4割ってとこかもね」
「野球選手なら破格ではありますが。ゴルファーで4割では100切りもままなりませんよ。たとえアマチュアといえど当てて当たり前、プロなら狙えて当たり前。でしょう?」
「じゃあプロのペアゴルファーなら?」
「木の幹からの返りを的確に狙えて当たり前、と言いたいところですが。そもそもそんなものに頼らないのが真のプロです。わたくしはまだまだ修行が足りません」
「はあ〜っ。美月ちゃんの修行が足りなかったらボクはどうしたらいいのやら」
「うふふふ」
水守・大空ペア、ふたりそろって視線をグリーンへ向けたまま、厳しい表情でなにやら話しこんでいましたが。ここで表情がやわらいだ。
なにかリラックするきっかけがあったでしょうか。
難波実業はどうするかしら。それも見ものよね。
だって向かい風の360ヤードよ? まさか水守ちゃんたちが狙ってくるとは考えていない。
あの子たちの嗅覚は正しいの。長崎東西が勝とうと思ったら、このホールのこの一打に賭けるしかない。
「なにをする気なんや? フェアウェイの真ん中、ここには岩も木ぃもあらへんやん。普通に250飛ばして次を100打つしかあらへんのとちゃうんか?」
「それか300飛ばして50やで」
「普通ならそれで正解です。でもわたくしたちには奥の手があるの」
「奥の手ぇやて?」
「ええ、どうぞお楽しみに」
「いつもは静かなくせに意外と肝すわっとるやんけ」
「ええやんええやん、ここ一番のを見せてみぃや!」
「言われなくとも。参りましょうつばめさん、大一番です」
「ほいきた!」
別れ際、難波に対し不敵に笑ったのは水守!
ボールへと向かいます長崎東西。
おや、水守はクラブを持っていませんね?
え待って!?
どういうこと!?
やっぱり手詰まりってわけ? あの子たちがなんの挑戦もせずに次のホールへ?
ここで仕掛けなきゃあなたたちに勝ち目なんてないわよ? いったいどんな試合勘してんのよォオ!
あああ、机を叩かないでください! 机を叩かないでください!
「んで? 具体的にどうすんの?」
「つばめさんが密かに練習していたアレをやります」
「ギックゥ! アレって、もしかして雷獣ショットのこと? なんでバレて!? こっそり練習してたのになんで?」
「今それはいいでしょう? 2択です、試すのか、試さないのか」
「でもうまく行かなかったんだよ。まあ、名前はもうつけてあるんだけども」
「あるのですか名前……。では好都合ではありませんか。やってみましょうよ」
「でも本当にまだ未完成なんだよ? 仮にまっすぐ飛んだとして、300がせいぜいだと思うなあ。それでもやるの? 今ぁ? ここで!?」
「ええ。それしかないと思います。それしか道は残されていません」
デュアルショットをあきらめた長崎東西、ところが?
なぜか長考が続いています。
「でもね、必ずスライスするんだ。地面に当たった時にクラブの先が流れてしまって絶対にフェイスが開くんだよ、右にでる。どんなに修正しようとしてもスイング中の一瞬ではコントロールができない。ヘッドをかぶせまくったら左に引っかけるのが目に見えるし。それにあんまりやると背中を痛めそうだったから。それでも一か八か、まっすぐ飛ぶと信じてやるわけ?」
「いつになく弱気ではありませんか。1回だけならきっと痛めませんよ。安心して力の限り振ってみてください、わたくしがうしろから完璧にサポートいたしますので」
「サポート!? うしろから? 美月ちゃんがそう言うんならやるけど。本当に大丈夫? 衝撃すんごいんだよ?」
「ご心配なく。ジャムとかの瓶のフタって、よく固くて開けられないとかって言うでしょう? でもわたくし、この体になっても開けられなかったことが一度もないのです。実は要領だけ、あれは腕力ではないのですよ。一瞬にだけ力をこめるコツをわかっていれば、どんなに固着した瓶のフタでも開けられます」
「へぇ、病気になった今でも。でもそれとゴルフにどんな関係が?」
「あるのですよ、力のかけかたの話ですから。わたくしも次なるショットも本当に大丈夫ですから、つばめさんはどうぞご自身の役割にのみ集中してください」
「うーん、なにをするつもりなのかサッパリだけど。美月ちゃんを信じた! よろしくね、ヘッドはスライスのまま振ると思って? ボクは振りかぶりが2だとすると振り下ろしは1だから」
「存じております、お任せあれ。あそうそう、技名はこんなふうに変えましょう」
「え? なに? キャン! くすぐったいよ!」
台風の風切音の中、広い広いフェアウェイで耳うちです。いったいどんな内緒話があるというのでしょうか。
「では間違いなくお願いしますね? 元のままですとぜんぜん違っていて恥ずかしい思いをすることになりますので」
「美月ちゃんの名づけ? 普通にかっこいい! それにしよう、大決定〜っ!」
どうやら長崎東西の長い長い話し合いが終わったもよう。
おっと! 大空に続き、ここで水守も雨具を脱ぎ捨てた!
なんと大空は、ぬれたウエアを脱いで下着に!?
キャミソール、ね。ギリギリ下着ではないけれど。
まあ、ほぼほぼ下着よねぇ。
いざ勝負です、長崎東西。
やはり大空だけがアドレスに入ります。水守はかたわらに立つのみ。
なんにしても危ないところだったわね。今は定位置に戻ったものの、ジャッジが歩み寄るそぶりを見せていたもの。
ダメだって、こんな素晴らしい一戦の幕切れがそんな些事であってはならない。どんなかたちであれ、決着は彼ら彼女ら自身の手で。
ジャッジが思いとどまってくれて本当によかった、あやうく彼につかみかかるところだった。
ええと……?
それは本気のお話で?
本気も本気、VTR確認してみなよ。歩みよる彼のうしろを、俺がついて行こうとしてるから。
怖いですよぅ赤井さん!
でもステキ!
事なきを得てよかったです、ええ。本当に。
さあ、選手たちの預かり知らぬところでひと悶着が勃発しそうでしたが未遂で収まり、いよいよ。
ななめ5ヤード先で待つ中大阪代表・難波実業高校が勝つのか、これから試技に入る長崎代表・長崎東西高校が勝つのか。
あるいはキャリーオーバーの道も。しかしこのホールには、これからの第3打で決まる予感で満ちています。
「なんや、ハラぁ決まったらしいな」
「ホンマにここから届くんか? 見せてみぃや!」
「ええ、とくとご覧あれ」
構える大空の真うしろに立ちましたか水守は? あの位置ではスイング軌道の邪魔になりますが?
「美月ちゃんは振りかぶった時のクラブに気をつけてね」
「そうでした、少しかがんでおきます」
やっぱり何かやるつもりなのねあの子たち。
ホンット、だからペアゴルフって楽しいの。
この一打がはたして、長崎東西の栄光への架け橋となるのか!?
「水を吸った地面は鋼の硬さ、抵抗に負けないでくださいまし」
「まかせて! いくよ美月ちゃん!」
「どうぞ!」
「いっっっっっけえええええええええ!」
ああっと! これは!?
大空ちゃんが盛大にダフった!?
その後ろで水守が両手をまがまがしく高く掲げるのは!?
「そのまま振りぬいてッ!」
「ふんぬぬぬぬぬぬぬむぬぬぬううう!」
「ここ! 菩薩掌ッ!」
「第二の奥義! マリオネット・オブ・アルバトロス!!」
まさかの二人羽織!?
ダフったクラブを強引も強引に!?
振りぬいたわ大空ちゃん!? 水守ちゃんの力を借りて!?
雲の切れ間にまっすぐ、白いボールがさながらロケットのように打ち上がる!
「ぬぅあああっ! どこまでも飛んでけ! セントアンドリュースまで!」
みごとに打球をとらえましたか長崎東西ペア?
えっと? どうゆうこと?
ミスショットのわりに勢いがある。スッゴイ飛んでるわ!
放送席?
……君たち見たかい今のスイング。
ええっと。
実は速くてよくわかりませんでした。
大空が打つ瞬間に、水守がうしろから覆いかぶさったように見えましたが。
その理解で正解ではある。しかしとてつもなく高度なことをやってのけたよ彼女ら。
君らアレ覚えてるだろ、1回戦で茅ヶ崎が使っていた特異なショットを。
はい、記憶に新しいです。茅ヶ崎学園の角野は試合後のインタビューで雷獣ショットだとかなんとか。長崎東西と対戦した——
まさか!
そのまさかだろうさ。
一度ダフってシャフトを耐久の限界までしならせ、その反動ごとボールを打ちぬくとかって謎理論のアレぇ?
彼女らマネしたんだよ昨日の今日で、彼女らなりにアレンジして。
おそらくロングヒッターのつばめくんでもひとりでは再現不能だったんじゃないだろうか。使い手の角野くんは筋骨隆々、恵体の197センチだった。それであんな工夫を。
おそらく、ぶれるインパクトの瞬間にだけ美月くんが、左右のグリップを上からむりやり押さえこんだんだよ。長身の美月くんと小柄なつばめくん、ふたりで角野くんのショットを再現してみせたんだ。
地面の反発に負けたつばめくんを美月くんがしっかりと支えた。その助力は緩みがちなグリップのみならず、ボールの方向性、さらには飛距離にも影響を与える。
聞きまちがえでなければ菩薩掌と言ったかな、神武館空手の片山選手の技と関係あるのか?
大空はもとより、計り知れませんね水守も。
んちょっとちょっと! ボールボール!
そうでした!
滞空時間の長いロングヒットも、下降に入ると風の影響で急激にブレーキがかかります。
例によって方向性は抜群、問題は距離。果たして届くのか?
風がそれをゆるすかしら。でも届いてほしいわねグリーンまで。
「ホンマかいな!?」
「なんやねんな、あの打ち方は! そんでなんなんやあの飛距離は!?」
比較的フラットな14番、ボールは手前から転がって!?
「お願い、乗って!」
「止まれや!」
「とどけええええぇえええええええええッ!」
「乗ってもかめへん、乗せ返したる!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「タイフーン、ホバーああああ、クラフトォォゥォォォォッ!!」
「結局……。もうええわ」
「この改名で5ヤード上乗せやでえ!」
すばらしい難波実業の第3打が、名物14番のグリーンを目指すッ!
これもいいぞ、あるいは届くかもしれん。
風はどうか! そのままか?
台風はどこまでも両校を試します。
見えたぞグリーンが! 届いたのか難波実業ボール!?
これを乗せ返せばこのホールもイーブン、長崎東西と3ポイントの同スコアで並んで15番に持ち越しになりますが?
ところがここで失速、止まった! 無情にも止まってしまった!
難波実業のショットはわずかにグリーンまで届かず!
方向性は文句なし、ボールはグリーンの手前5ヤード。わずか5ヤードが勝負をわけました!
これでこのホールを長崎東西が奪取、トータル3.5ポイントとした長崎東西高校が、3回戦へ一番乗りィィィィィ!
「ああしんど、5ヤード足しても足らへんやったか」
「しゃあない、切り替えてこ」
「せやな。イヤイヤイヤ、切り替える次のホールがあらへんがな」
「ナイストライやったで長崎。負けたわ」
「しょうみ完敗やで、なんやねんな最後のショットは。身体は大丈夫なんか?」
「えへへ、ボロボロぉ〜」
「さきほどから手のふるえが止まりません」
「ムチャしよってからに」
「でもああしなければ届かなかったのです。本来はこれでお互い2ホール奪取と1イーブンで同点なのですが」
「仕方あらへん、ルールはルールや。その採点方法には時に助けられ時に裏切られやからなぁ、異論はあらへん。それにもう1ホールやっても——。アレ? ウチが勝っとったんとちゃう?」
「まあええやないか、今日のところは勝負どころで決めた自分らの勝ちやで。もっと胸張りぃや」
「みんなはまだ自分らのことを色モンや思とるやろけどな。直接戦こうたワイらは知っとるで、長崎はほんッまに強いっちゅうことを」
「明日には帰るさかい最後まで見られへんねんけど、午後からの3回戦は特別に応援したるわ」
「テツくん……」
「オぉイ! いきなり下の名前呼びかいな自分!」
「え? だってユウタくんがそう呼んでたし。苗字の方は覚えてないもん」
「こいつが小川で、ワイは沢村や。ま、苗字でも名前でもどっちゃでもええねんけど」
「優勝候補の一角であるオレらに勝ったんや、絶対優勝やで長崎東西。そしたらオレらも恥かかんで済むさかい」
「そうだね、任せて!」
「ええ返事や。ほなら頼んだで」
「またな」
「うん! がんばる!」
なにごとか声をかけた難波実業が長崎東西に背中をさらして去ります。
それを見送る水守・大空ペアの胸中は?
スポーツマンシップっていいわね。本当にいいシーン。
やっぱりいい子たちだったんじゃない。
上野さん? もしかして泣いてるんですか?
あらやだ! ほんと!
歳とったら涙もろくなっちゃって。もう、やんなっちゃう。あららあらお化粧が、鏡、鏡はどこ?
にしてもよ、よく見たら難波の子たち、かわいいお尻してたわよねえ……。
あとでお話ししてみようかしら。
未成年ですからね、お手柔らかにお願いします。
誘惑なんかしないわよぅ!
ゴルフの話よぅ、ゴルファー同士のゴルフ談義ぃ!
「風に強い人たちだったね」
「本当に。強敵でした。それに、試合前に感じていたよりも気持ちのよい方々でした」
「うん……」
たたずむ長崎東西のふたりです。激闘と呼ぶにふさわしい一戦でした。
超えたか、あのふたりは。決してひとりでは超えられない難波のみならず、茅ヶ崎の角野くんのフィジカルすらふたりで超えてみせた。実にペアゴルファーらしいプレーだった。
ええ……。
「さ、わたくしたちも参りましょう。今日はもう一度勝たねば明日がきませんので」
「わかってる! 行こう美月ちゃん、それでベスト8だ!」
もつれにもつれた2回戦第1試合は、長崎東西高校が14番のパー7をアルバトロスであがって見事な逆転勝利をおさめ、午後からの3回戦に駒を進めます。
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