第47話 妻への愛のカタチ
「じゃ、ジィジとバァバを堪能するツアー、出発!!」
「しゅっぱーつ!!」
「パーッ!!」
桐人の謎の声掛けに、唯椛と大樹も合わせて声を上げた。
今日は、柾人と彩葉の結婚記念日前日だ。
二人は、真夏の出会った日を選んで婚姻届を出した。
『あの日から、全て…やり直したい』
柾人はそう言って、彩葉にプロポーズした。
彩葉としては、自分の事はともかく、柾人の態度やされた事はそれ程傷付いた訳でもなかった。
しかしひたすら己の所業を悔いる柾人の気が晴れるなら、それも有りかもしれないと考えた。
結婚してから、結婚記念日前日から翌々日まで、柾人は必ず休みを取る。
そして子供が産まれても、その日だけは二人きりで過ごす事を望んだ。
まわりの理解もあり、ハネムーンを合わせて五回目の結婚記念日も、二人で過ごす事が出来そうだ。
因みに子供達は、柾人の両親に預けられる。
柾人の両親は、この時を待っていたとばかりに遊びに行ったり、好きな物を買い与えたりする。
柾人と彩葉は、出掛けることはせずに家に籠る。
最初は出掛ける予定も立てたりもしていたが、結局出掛ける事が出来なくなるのだ。
もちろん、柾人のせいで。
「…もう、このまま二人きりが良い。」
そう言って、結局ベッドから出れないのであれば、出掛けるどころの話ではない。
結婚記念日だけは『蜜月』となる。
そして今日も子供達が出発し、見送ってしまうと、柾人は玄関を後ろ手で施錠しながら、彩葉を抱き寄せた。
「…まだ…、怒ってるのか?」
未だに少し不貞腐れた様な顔をする彩葉に、柾人は軽くキスをした後に聞く。
「…別に…、怒ってる訳じゃ無いけど…」
「あれは、たいに話してた訳じゃ無いよ。」
柾人は目を細め、微笑む。
「…お前にだ、彩葉。…お前が…、俺の全てを…大事にしてくれるから…。」
柾人は彩葉の頬を撫で、啄むように何度もキスを繰り返す。
軽く触れるだけのキスのはずが、まるで二人の『恋情』の熱が灯されたかのように熱く感じた。
「あの椅子も、…俺自身も…お前に愛されて…。」
柾人の眼差しは、愛おしさが増していくのが見えるかの様に、更に甘いものになっていく。
「…俺が恋焦がれたお前が、俺との子を産んで、皆で俺の椅子を大事にしてくれる。」
柾人の額が彩葉の額にくっつく。
「…まるで…幼かった頃の俺が…お前に大事にされているかのようで…」
紡がれる言葉と共に、柾人の吐息も熱を帯びていく。
「…どんな俺でも、愛される…。全部、お前なら…見せることが出来る。…それは…お前が時間を掛けて、俺を癒してくれたからだ。」
二人しかいないのに小さく呟く柾人は、少し自信なさげだ。
柾人の言う、幼い柾人を連想させるかのようだ。
そんな柾人を、彩葉は両腕を伸ばして抱き締める。
「…嬉しい。やっと…『いつか』を迎えられた。…大好き。」
そう言った彩葉を、柾人は横抱きにする。
「…彩葉…。本当に、お前は俺を喜ばすのが上手いよ。」
抱き上げた彩葉を、柾人はギュッと抱き寄せる。
「…俺も大概、お前に執着しているが…。…たいに嫉妬するなんてな…。…それで喜ぶ俺の方が、お前に惚れてると思うが…お前の独占欲を感じ取れるのは中々に…良いな…」
そして寝室へ向かった。
そっとベッドへ下ろすと、柾人もまた彩葉の横に身体を置く。
「いつでも…ずっと…、お前が恋しい。出会った頃よりも、付き合った頃よりも…結婚して…ますます…」
柾人は彩葉に話しかけながら、彩葉の身に着けた服を脱がせる。
「…側にいて、いつでもお前に夢中になれる…。それを許される…。凄く…幸せだ。」
「私も…。柾人さんの側にいて、一緒に過ごせる事が嬉しい。…私だけがアナタを知っている事が…嬉しい…」
柾人が抱えていた『傷』を共有することが出来、ますます夫婦として互いを大事に出来る気がした。
「…今日は…、とことんお前を堪能出来るな…。…最初に言っておく。…限界まで焦らすよ?」
素肌を合わせ、愛おしそうな眼差しのまま、柾人は不穏な事を口にする。
少し引き気味な彩葉を構わず、柾人は続ける。
「焦らして…焦らして、普段は押し殺して聞けないお前の声を…たっぷり聞く。」
子供がいる生活を送る2人は、周りを気にしないで抱き合う事は出来ない。
声を押し殺している彩葉を抱くのも、それはそれでそそられるモノがあるが、時には我を忘れるほどに乱したくなる。
それが今日は可能なのだ。
「だから…、今日は俺だけを見ろ。そして俺だけの彩葉を見せて。」
相変わらずな柾人の言葉に、彩葉は顔が赤くなるのを止めれない。
それは羞恥心からなのか、期待からなのか。
「たっぷり恥ずかしがらせてやる。…それでも…最後は…、俺が欲しくて堪らないって所まで煽り上げてやるから。…とことん…乱れてもらおうか。」
柾人の手が、彩葉の肌を彷徨う。
「…いい…よ…?…私も…柾人さんに…夢中になりたい…。私を…みっともなく…して…?」
彩葉の両手が柾人の顎に触れ、彩葉が柾人にキスをする。
昔は恥ずかしがるだけだった彩葉は、二人の時間を重ねていく事で、控え目ではあるが自分の欲望を口にするようになった。
柾人に促される訳ではなく、自分の意思で伝えてくれる。
「彩葉…、可愛い…。とことん…愛すよ、今日も明日も…」
彩葉との仲の深まりを感じ、柾人は愛しい妻とのキスを深めた。
《連載中》椅子に傅く ヨル @kokoharuha
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