第45話 蜜愛

週末、殆ど衣服を纏う事無く過ごした。


勿論、抱き合う事もした。


しかし、それよりも互いの肌が触れ合う事に喜びを感じた。


たわいもない話をし、愛しいと思うままに撫で、触れるだけのキスをする。


頬で、好きだと昂る気持ちのままに肌に触れ、まるで子供のように擦り付く。


そんな時間が、ただただ心を満たした。


心のままに、想いを吐露する。

それを受け入れてもらえる。


今まで経験したことの無い心の昂りは、愛しさで胸を締め付けるモノに形を変えていく。


穏やかな時間ですら、愛おしい。


互いに寄り添い、ゆったりとした時間の中微睡む。



彩葉の瞼が微かに揺れ、ゆっくりと浮上するかのように覚醒する。


瞼を開けると目の前には、優しげに微笑んだ大好きな人がいる。


「…起きた?」


柾人は、腕に囲いこんだ彩葉のこめかみにキスをする。


「…いつの間にか…眠ってたんですね…」


「…あぁ、…気持ち良さそうに眠ってた。」


柾人は、そんな彩葉の髪に触れたり、自分よりも小さな手に触れ、口付けたりして過ごしていた。


舞い上がっているのもあるかもしれない。

しかしどれ程見つめても、全く飽きる事がなかった。


「…彩葉…」


どこまでも優しげな柾人に、彩葉は戸惑いつつも喜ぶ。


柾人が、彩葉を跨いで体を起こした。


彩葉を隠していた布団は剥がされ、光に満たされた部屋の中でさらけ出される。


「…あ…」


「…見たい…、隠すな。全部…、見せて…」


恥ずかしがって身をよじる彩葉の肩を押さえ、柾人は見つめる。


「…だって…明るい…」


今までも、明るい部屋で抱かれた事もある。


だが、こんな風に観察されるかのように見られると、いくら何でも羞恥心が湧く。


「…綺麗だ。…恥ずかしがって色付く肌も…、白い肌も…、俺だけが…」


肩から、柾人の手が肌を滑るように触れていく。


柾人の手が、彩葉の腕を掴み、細い手首に唇を寄せた。


「…なぁ、…苦しい。…側にいても、触れても…」


柾人の歯が手首を甘く齧る。


「…抱いても…、好きで…苦しい。胸が…締め付けられるみたいに…」


そして舌先が、柾人が今噛んだ場所を辿るように舐める。


「…だけど、この甘やかな苦しみなら…ずっと…苦しんでいたい…」


柾人と視線が絡み、彩葉もまた愛おしさで胸が苦しくなる。


「…好きだ、彩葉。…お前が思っている以上に、俺はお前無しじゃいられなくなったよ。…お前に救われたんだ…」


柾人の言葉に、彩葉は不思議そうな顔をする。


「…私が…社長を…?」


「…また…、『社長』って呼ぶ?…俺がお前の恋人になれたんだと…喜ばせてくれ。俺の名前を呼んで欲しい」


そんな彩葉に、柾人は軽くキスをする。

小さく、チュッとリップ音がする。


「『柾人』さん…。…で、勘弁して下さい。今まで『社長』って呼んでいたのに…、敬語も無しで、いきなり呼び捨てなんて…ハードルが高いです」


焦ったように、彩葉は言い訳を口にする。


「…じゃあ、せめて俺が彩葉を抱いている時は…敬称無しで。それなら…ちょっと特別感あって許せるよ」


キスが繰り返される。

その合間に、彩葉は顔を赤くしながら頷く。


「…それで…、柾人さんを私が助けたって…何ですか?私…、何もしてませんよ?」


彩葉は柾人の腕の中でモゴモゴ動き、両腕を動かすと、柾人の頬に触れ、もう片手で頭を撫でる。


その彩葉の手に癒されるかのように、柾人は目を閉じた。


「…それで良いんだ。何も知らないまま…俺を癒して。…いつか…、本当に全て癒されたら…話すよ。」


頬を撫でる彩葉の手を、柾人の大きな手が包む。


「…ずっと…側にいて…。そして…出来れば…お前を手放せない俺を…好きでいて欲しい。」


「…『いつか』が来なくても…、きっと…ずっと好きですよ。」


微笑む彩葉に、柾人はまた癒された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る